飛雄さんが好きだと自覚してから2ヶ月。


ミーンミンミンミンとセミがうるさい夏休みに入っていた。


あれから私達の生活は特に変わらず、……いや少しだけ変化はあった


たまに飛雄さんは私が飛雄さんに弱いとわかっていて悪戯してくるようになった。


無意味に顔を近づけて来たり、ボディタッチをしたり。その度に私がびっくりするのを見て楽しんでいる様子。こっちとしてはたまったもんじゃない、早死にしそう。


とは言え変わったのはそれくらいで、……いやもうひとつ。私の進路についてだ。


私は就職か、もしくは奨学金か。……と言っても飛雄さんに出来れば学費は返したいので奨学金は避けたかった為、就職しか道は無いと考えていたのだが、


飛雄さんから話を振られ、そう答えた結果、名前はどうしたいんだ、どうするべきじゃなくて。と聞かれて、それならば大学に行きたい。と答えた時、少しだけしまった。と思ってしまった。


何故から私の思った通り、飛雄さんはじゃあ大学に行け、学費は俺が払うからそれまでここにいればいい。なんて言われてしまった。と言うか言わせてしまった。


飛雄さんは大抵の事を叶えてくれる。だから私が進学したいと言えばそれを叶えてくれるだろう、とわかっていた。大学の学費なんて安くないのに。


申し訳なさから断ろうとしたけれど、彼は私が断っても聞いてくれた事は無いと言う実績から言うのを辞めた。大学まで出てから飛雄さんと美羽さんに恩返ししようと誓って。


と、変化したのはこれくらいだ。基本的な日常にはなんの変化もない。


最近は私が夏休みに入って、時間を持て余している。なので少しお弁当のクオリティが上がり、飛雄さんが毎日ウキウキしてる。凄く可愛い。


それにしても日中が本当に暇だ。両親が生きていた頃は友達と遊ぶためのお金なんて無かったし、もったいなかったのでほとんど遊んだ事は無かったのだが、


今は飛雄さんがお小遣いまでくれるので遊ぼうと思えば遊べる。しかし、飛雄さんのお金なので無駄遣いはちょっと……と考え、友達と遊ぶ事は無駄ではないけれど、少し使う事を躊躇してしまっている。


そこで私が思いついたのがバイトだ。夏休みだけ働いたりとか。


自分で稼いだお金なら使いやすい。ちょっと飛雄さんに相談してみようかな……。





「………いいんじゃ、ねぇの」


「え、ホントに思ってますか?」


ぜんっぜん目が合わないんですが、飛雄さん


「別に……やりたい事があるなら、やればいいと思う」


とは言っているが飛雄さんは正直なので顔に出ちゃってる。嫌そうなのが出ちゃってる。


「本心ですか?飛雄さんが嫌ならやりません。絶対。」


「………………………………………やれば、いいと思う」


いや嘘じゃん!!口がつんっと突き出されてる。ご機嫌ななめだ。


「本当ですか??嘘はつかないでくださいね?嘘だったってわかったら怒りますよ」


「………やらないで欲しい」


あ、やっと本心を言ってくれた。なんか負けたって顔してる、何に負けたの。


「わかりました、やりません。……でも、どうして?」


「………名前は充分働いてる、ここで」


「両立出来るよう、時間は調整出来ますけど…?」


「………俺の為だけに働いてくれ」


わかったな!と言われて寝室へ行ってしまった飛雄さん。


もしかして、独占欲。…………そんなわけないか、本当におめでたい頭だ。と自分に失笑する。


兎にも角にも飛雄さんが嫌がるならやめておこう、日中は課題や勉強に勤しむかな。





よし、今日のお弁当も完璧だ。もぐもぐ美味しそうに食べてくれる飛雄さんが目に浮かぶ。


ふふふ、とにやつき袋に詰める。………あれ?飛雄さん遅くないか


時刻は7時30分。手をつけられていない朝ご飯を見る限りまだ起きてきていない。


8時にはここを出ないといけないというのに。


飛雄さんの寝室をノックする


「飛雄さん?起きてますか?」


返事が無い、思い切って扉を開ける


するとベットですやすや眠る飛雄さん。うわぁ、寝顔も美人だ…………って違う!!


「飛雄さん!!起きて!!7時半ですよ!!」


「っ!?」


思いっきり体を揺らして起こす。飛雄さんは寝起きが悪い、だから最初から大声を出して起こさないと中々起きてくれないのだ。


どうにか起きてくれたようで急いで洗面所へと駆け込んで行った。その間に飛雄さんの練習着や鞄を準備して、お弁当と一緒に玄関まで持っていく。


「朝ご飯、食べれますか?」


「………なんとか、食べれる!」


急いで座り、しかしちゃんといただきますはして食べる飛雄さん。そういう所、好きなんだよなぁ。


もぐもぐ。いつもよりハイスピードもぐもぐだ、可愛い。


そして8時になって、玄関まで走って行き、


「行ってきます、起こしてくれてありがとな!」


「いえ!行ってらっしゃい!!」


勢い良く家を飛び出した飛雄さん。どうか事故には気をつけて欲しい。


さて、忙しない朝が終わった。ちょっと今日は本屋さんに用事があるのでまた後で出かけるとしよう。





身支度を終えて10時40分。今から行けばお昼ご飯には間に合うかな。なんて思いながら玄関で靴を履く。


よし行くか、なんて玄関の扉に手をかけた時。あってはいけないものがある事に気づいてしまった。


なんで、ここにいるんだ。お弁当よ。


そこには飛雄さんが持っていったと思い込んでいたお弁当が袋ごと忘れられていた。


しまった……お見送りした時私も気づけなかった……


どうしよう、届けにいこうか。いや、この程度の用事じゃ行っちゃ駄目だろうか。食堂もあるだろうし。


………でも飛雄さんには持っていった方がいい気がする。電話してみようかな。


スマホを開いて飛雄さんに電話する。練習中だと出れないかな……なんて思っていたが、奇跡的に繋がった。


「もしもし、どうした?」


「もしもし!ごめんなさい、忙しい時に」


「いや、たまたま休憩中。なんかあったか?」


「飛雄さん、お弁当忘れていってます」


「え!?………。」


ガサゴソと音が聞こえる。荷物を漁っているのだろうか。


「ほんとだ……ない……」


「あの、届けに行ってもいいですか?」


「いいのか!?」


「いやむしろこんな理由で行っていいのか悩んでました……」


「良いに決まってんだろ。俺の弁当なんだから。」


「そ、そうですか!じゃあ行きます、一応もう1回練習所の住所送って貰ってもいいですか?」


「おう、入口に着いたら影山に呼ばれたって言ってくれ。そこまで行くから。」


「わかりました、じゃあまた後で!」


「悪いな、頼んだ。」


通話を切って、お弁当を持つ。本屋さんはまた今度にしよう。今日の任務は飛雄さんにお弁当をお届けする事だ!


練習所に行くのは初めてだ。ちょっとだけ緊張する。


飛雄さんから送られてきた住所を地図で調べていざ出発!!
あなただけに従います


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