なんとか道に迷いながらも練習所へ辿り着いた。


現在11時40分。夏の炎天下の中1時間程度歩き回ってしまったので、汗だくだ。へとへと……


でも良かった、お昼ご飯には間に合った!


入口に近づくと、守衛さんがいるのがわかり、流石プロの世界だ。関係者以外は入れないようになってるんだなぁ、と少しビビる。


「あ、あの!」


「はい」


「あれ?名前ちゃん?」


守衛さんに話しかけたところ、私の名前が聞こえた。


ふと中の方を覗けば、にかーっと笑ってこちらに手を振る日向さんがいた。


「日向さん!こんにちは!」


「こんにちは!……あ、この子影山の関係者です」


「そうでしたか、じゃあこの入場許可証首から提げていて下さいね」


「はい、ありがとうございます!」


無事許可証を貰えた。……飛雄さんには入口で飛雄さんに呼ばれたって言えって言われたんだった


「影山に用事?あ、もしかしてそれ弁当?」


「はい、なんで分かったんですか?」


「あいつ、名前ちゃんに弁当届けてもらうってドヤ顔で言ってたからなー!」


忘れたくせにな!!と付け加える日向さん。ドヤ顔するような出来事だろうか、と疑問に思う。


「影山ならこっちにいるよ、案内しようか?」


「あ、でも私飛雄さんに入口で飛雄さんに呼ばれたって言えって言われてて……」


「あー、いいよいいよ!こっちおいで!あいつ今練習試合でそれどころじゃないから!」


「練習中なんですか?」


ならば日向さんは?別々で練習しているのだろうか。


「チームが分けられててね、俺は今休憩中!影山たちの方はまだ試合長引いてるからまだ終わってないんだよ」


説明を聞きながら、日向さんの後を追う。立派な体育館。凄い………。飛雄さんは日頃ここにいるんだ。


「あ、まだやってるなー。ここから見てたら?影山のバレーやってるとこ見た事ないでしょ?」


「はい、無いです!見てみたかったんです。」


私が見た事あるのはお家でのんびりしてる飛雄さんだから、プロバレーボーラーとしての飛雄さんだって見てみたかった。


日向さんの隣に座り、2階席から練習を眺める。


…………あ、飛雄さんいた


そこにいたのは、私が見た事が無いような顔で。笑ったり、悔しがったり、楽しそうにしたり、挑戦的な表情を浮かべたりする飛雄さんだった。


そして何より、バレーボールの事はあまりよく知らないが、彼のプレーは綺麗だと思った。


綺麗だけれども、コートの中はバシン!!とボールが床に叩きつけられる世界。その中で飛雄さんが周りの人達とチームとして戦う姿は表情も含めて知らない人のようだった。


「……どう?影山くんのプレーは」


にやにやしながら聞いてくる日向さん。全然おじさんじゃないのに、その顔はおじさん臭い。


「なんだか……知らない人みたいです」


「え!?なんで!?」


「……私、あんなに楽しそうにしたり悔しそうにする飛雄さん見た事無くて。知らない表情ばっかりです。それにチームの人とコミュニケーション取ってるのとか、本当に知らない人みたいです」


私が見た事あるのは美羽さんや日向さん、侑さんぐらいと話すのしか見た事がなかった。


知らない飛雄さんを知り、嬉しいような、ちょっぴり寂しいような気持ちになる


それと同時に、バレーボールとは飛雄さんの色んな側面を引き出す、大きな存在なのだと感じた。


「えぇ?そう?俺からしたら名前ちゃんと話してる影山の方が知らない奴みたいだなぁ」


「え?」


「怒鳴らないし、笑うし。心配だってするし、甘えたりもしてるだろ?」


「甘えてる!?そ、そんな事ないですよ」


「いーやしてるね、俺は見たぞ。この間また酔っ払った影山送ってった時、影山その日は割と歩けてたのに、家着いた瞬間名前ちゃんに肩貸してくれってくっついてったもん!!」


え!?あれ嘘だったの!?


「私はてっきり1人じゃ歩けないのかと……」


「いやいや、自分で歩いてたよ?………そうやって甘えてる影山見るのなんか初めてだよ、すげぇ違和感」


高校生の時から見てる日向さんが言うなら間違い無いだろう。飛雄さんは外には見せてない面を私には見せてくれているのだろうか。


それなら私が知らない面があっても寂しくなんかない。きっとそれ以上に皆が知らない面を教えて貰ってるから。


「あ、試合終わったなぁ」


「あ、ほんとだ……」


なんて日向さんと話していたら試合が終わってしまった。もっとちゃんと見ておけば良かった、練習所に来れる機会なんてそう多くは無いんだから。


「おぉーーーい!!影山ぁーー!!!」


「ちょ、日向さん!?」


突如隣に座っていた日向さんが立ち上がり、叫ぶ。


「名前ちゃん来てるぞぉー!!!」


「日向さん辞めてください!?は、恥ずかしい…!」


恐る恐るコート内を見るとなんだなんだとこちらを見上げる選手達。


その中に飛雄さんもいて、目をまん丸にしてた。びっくりしてる。ちょっと可愛いかも。


でもジロジロと知らない人達に見られるのは恥ずかしいので、日向さんの手を取り急いで逃げ出した。





「名前ちゃん!こっち!!そっちは出口!」


「え、あ!はい!!」


飛雄さんの元へと案内してくれる日向さんについて行く。お弁当が崩れないよう細心の注意を払いながら。


「お、いた!影山!!」


「日向。テメェうるせぇんだよ。」


「だってデケェ声じゃねぇと聞こえねーだろ?」


「だからって…………名前何してんだ」


選手たちが多くいる休憩室的な所にたどり着いたが、どこを見ても巨人がいて、巨人の群れにしか見えなくて、あまりの怖さに入れずにいた。


いつもは飛雄さん単体で見てるから大きいなぁ。ぐらいで済んでるけれど、ここにいるほぼ全員が巨人と言っても過言では無いほどの身長を誇っており、近くで見るととんでもない。大きすぎる。


「名前、どうした?」


「と、飛雄さん……」


近づいてきてくれて、心配そうに顔を覗く飛雄さん。先程のコート内での顔とは大違い、私が知ってる顔だ。


「巨人の世界ですね……スゴク。」


「あぁ………名前からしたらそうかもな。弁当は?」


私の恐怖なんかよりずっとお弁当の方が大事な飛雄さん。そういう所、いいと思います。


「はい、どうぞ!」


「ん、ありがとう。悪かったなわざわざ来てもらって。」


「いえ!……バレーボール選手としての飛雄さん、新鮮でした」


「そうか?何も変わんねぇだろ」


「いやいや!!全然違いましたよ!顔から動きから人柄まで全て!!」


「???」


意味がわからない、と言う顔をする飛雄さん。今日も顔が正直すぎる、口すら閉じれてない。


しかしその開いた口は突如弧を描く。気づけば私をからかう悪戯っ子のような笑みへと変わり、


「かっこよかったか?」


「へ、な、なっ!?」


そして飛雄さんの思惑通り狼狽えた私を見て笑う飛雄さん。どうなんだよ?と追い打ちまでかけてくる。最近の、私をからかうと言うブーム早く終わってくれないかな!?


「そ、そんなの……」


「なんだ。」


好きになった人がかっこ悪いはずも無く、


「か、……かっこよかった……デス」


顔を見てなんて言えないので、俯いてしまう。しかし暫くしても何も言わない飛雄さん。


え、聞かれたから恥ずかしくても言ったのに……と顔を上げれば、飛雄さんはむず痒そうな表情を浮かべ、頬は微かに赤らんでいた。


な、にその反応。まるで、


「……照れてますか?」


「…っ照れてねぇ!」


ぷいっと顔を逸らされる。嘘つき、耳まで真っ赤じゃないですか。


いつもかっこいいと可愛い両方兼ね備えている飛雄さんだが、今は圧倒的に可愛い。いつもみたいに大人の余裕が全然無い。


笑ったら駄目だ、と思えば思うほど笑い声を上げそうになる。


笑い声を堪えるのに必死になってたら、その表情が見るに堪えないものだったらしく、


「っははは!!何だよその顔!」


私が笑い声を上げて笑われてしまった。私の努力……。


「あ、名前ちゃんやないか!」


「侑さん!こんにちは」


「こんにちはぁ。弁当は無事届けられたんか?」


「うす、貰いました」


「そかそか、じゃあもう帰るん?」


「そうですね、任務達成したので帰ります」


「えぇ!名前ちゃんもう帰るの!?」


悲しそうに言うのは私をここに連れてきた途端消えてしまった日向さん。どこにいたんだろう。


「はい、帰ります。ありがとうございました!練習所の中案内して下さって。」


「いや、全然いいけど……俺のプレーも見て欲しかったなぁ」


「私も見たかったです、また今度機会があれば!」


「えぇぇ……影山ぁ、名前ちゃんもうちょっとここいられねぇの?」


「………なんか用事あるか?今日」


「え、いや特に無いですけど……」


用事が無くなってしまったのに、滞在してていのだろうか


「じゃあもうちょっとここにいられるか?こいつうるせぇから。」


「え!?いられるの!?」


「はい!時間は全然……あ、でもお昼ご飯無くて…」


迷いながらここに来たのでお腹はペコペコだ。


「食堂使ったらいい、誰でも使えるから」


「そうなんですか!?」


「そうだよ!俺も腹減ったー!食堂行こうぜー!」


お弁当を持った飛雄さんと日向さんに続いて私も食堂へと向かった。





「……………………えっ、これ食堂ですか?」


「?おう。」


広すぎんか?


とちょっと戸惑う程に広いし綺麗だし、開放感が凄い。


しかもメニューを見たら物凄い数があり、非常に豊富だ。

それでもってどれも美味しそう。選手の皆さんが食べてるのをチラリと見させてもらっても、レストラン顔負けなクオリティ。


え?飛雄さん絶対食堂で食べた方がいいんじゃないか?と私の自信を喪失させるのには充分過ぎるスペックを誇る食堂だった。


「好きなの買ってこい、」


と財布を取り出す飛雄さんの手を止める


「?なん」


「飛雄さん、もうお弁当辞めましょう……?」


「は?」


「食堂がこんなに凄いなんて聞いてないです……!」


絶対食堂で食べた方が美味しいに決まってる。それにメニューだって豊富だからその日の気分で選べるだろうし。


「私がお弁当食べるので、どうぞ食堂で頼んできてください」


飛雄さんが手に持つお弁当に手を伸ばすが、その手を飛雄さんに取られる


「この弁当は名前が俺の為だけに作ってくれた弁当だ。誰にも渡さねぇ。」


きゅんっと不覚にもときめく


「……で、でも、食堂の方が絶対いいじゃ」


「俺は名前が作る飯が好きだ。だからこれからも作ってくれ。」


いいな。と頭をぽんぽんされる。


ズギャンッと心臓を大砲で撃ち抜かれたような感覚。私も飛雄さんにご飯作るのが大好きです。


「おら、さっさと行ってこい」


背中を押されて、メニューを眺める。飛雄さんは席を取りに行ってしまった。


うーん……どれにしよう……





「あ、きたきた。名前ちゃん!こっち!」


日向さんに大声で呼ばれて、恥ずかしくなりながらも席へ向かう


「何にしたん?」


「親子丼です、美味しそうだったので!」


「お、ええなぁ。」


既に食べてる皆さんの後を追い、いただきます!として食べ始める。んん!!美味しい!


「美味いか?」


「美味しいです!」


「また作ってくれ、俺も食べたい」


「が、頑張ります……あ、これ食べます?」


親子丼を1口掬って差し出す。私が作ってもこんなに美味しくならないと思う……


しかし固まる飛雄さん。あれ、いらなかったかな。


「すいません、いらなかっ」


「いる、」


私の手ごと掴んで、口に含む飛雄さん。もぐもぐ顔は今日も可愛い。どうですか?美味しいですよね!?


「……美味い」


「ですよね!これくらいの美味しさは1回では無理だと思いますけど、頑張ります」


「ん。」


「…………翔陽くん、見た?」


「見ました……見ないなんて無理でした……」


「飛雄くんは気づいとったよな?でも名前ちゃんが全然やなぁ」


「ですね………うわぁもう影山顔赤くなってますよ!!」


「いやそうなるよなぁ!?名前ちゃん小悪魔やな。」


どうしたらこんなにとろとろ卵になるのかなぁ、なんてまた1口親子丼を掬う。


そしてはた、と気づく。あれ?今私このまま飛雄さんに差し出した?


私が食べた後に?…………え?


「…………どうした」


「すすすす、すいません!!飛雄さん!!!」


ゴンッ!!!


勢いよく頭を下げて、机に頭をぶつけた。痛い。痛いけどそれどころじゃない!!!


私からしたら飛雄さんは恩人。好きな人でもあるけどそれよりまず恩人。その人に対してか、間接ちゅーを強要するなんて!!!失礼過ぎる!!


「ちょ、大丈夫!?名前ちゃん!?」


「ごめんなさい!!間接ちゅーを強要して!!!!」


「あ、気づいたんか」


「別に、強要なんかしてねぇだろ」


「でも!!!ごめんなさい!!!」


視界が歪む、嫌がられなかっただけマシだけど、そもそも女として見られてないってことも有り得る。全然有り得る。


それもそれで嫌だなぁ、なんて思いながら顔を上げる


「俺が、食べたくて食べただけだから。気にすんな。」


よしよしと頭を撫でられる。優しさが身に染みてじわぁっと泣きそうになる中で、飛雄さんの顔がほんのり赤いのに気づいた。


女として見られてないことも、ない?


「ほら、いいからさっさと食べろ」


「は、はい!!」


「…………影山って結構イケメンっすよね、中身も。」


「え?翔陽くん惚れちゃった?」


「何言ってるんすか!?そういうんじゃなくて……俺ならあんな風にスラスラーっとフォロー出来るかなぁって」


「翔陽くんには無理やろぉ、あっはっはっは!!何面白いこと言うとるん?」


「侑さん………。」
私は特別?


back/top