机に勢いよく打ったおでこを飛雄さんに冷やしてもらっていたら、お昼休憩は終わってしまった。


そしてまた戻ってきました2階席。今度は日向さんも侑さんも飛雄さんも皆練習に入っているので、一人ぼっちだ。


すると手前側のコートからこちらに手を振る日向さんを発見。


あの太陽のような笑顔、どうやったら出来るんだろう。なんて考えながら、こちらも渾身の笑顔で手を振る。


すると今度は日向さんの対戦相手側にいた侑さんが手を振って、何かを指さす。


その先には飛雄さん。とんでもご機嫌ななめバージョン。何故!?お昼休憩終わってすぐなのに。この短い間に何かあったのだろうか、口を突き出してむむむとしている。


大丈夫だろうか、何かあったのだろうか。と飛雄さんを凝視していたら念でも伝わったのか、こちらを見る飛雄さん


え、え、どうしよ、手とか振ったらキモいかな。でも声なんて聞こえないし、


思わず小さく手を振ってみる、無視されたら……日向さんにもう1回手を振ろう。日向さんは必ず振り返してくれる。


しかし、その必要は無くなった。何故なら飛雄さんがこちらを見て、微笑んで手を振り返してくれたから。


ズギャギャン!!と私の心臓は大砲で蜂の巣にされた。無理、かっこいい、好き。


今日もかっこいい私の恩人はその後華麗なるプレーの数々を見せてくれた。


日向さんも巨人の群れの中では小柄な方なのに、高さ勝負で負けてない所や、俊敏な動きに驚かされた。


侑さんは飛雄さんと同じ役割っぽいのに、全然スタイルが違うように見えて面白いなぁ、と感じた。あと飛雄さんと違ってコミュニケーションを凄いとってる、チームの皆さんと息ぴったり。





そんなこんなで練習を見学していたら15時を回っていた。


そろそろ帰ろうかな、今日の夕飯何にしよう。早速親子丼に挑戦しようか。


なんて考えた瞬間思い出す間接ちゅー。ぶわああっと顔に熱が集まるので、暫くは作れそうにない……。


休憩室でそう考えてると、飛雄さんが入ってきた


「ここにいたのか」


「す、すいません!勝手に移動して」


「いや、いい」


「あの、そろそろ帰ろうかなって思うんですけど、」


「…………今日、夕飯外で食べねぇか」


「えっ!?」


珍しい、本当に珍しい。


飛雄さんが私と外食するなんて、一緒に生活し始めてから数回程度しかない。


別に私もご飯を作る事が使命だと思っているので自分が言い出すこともないし、飛雄さんも特に言い出すことも無かったから。


「嫌か?」


「いえ全然!珍しいなぁと思って」


「食堂で見てて。色々な料理名前に食べさせたら色んなの作れるようになるかなって。」


なるほど?


「私は調理師とかじゃないので、限界はありますけど……」


「それでもいい、今も相当な種類作ってくれてるけど増やしてくれたら嬉しい。」


「しょ、精進します……!」


「だから、俺が帰るまでここにいてくれねぇか」


「え!?」


「あと2時間くらい。今日は自主練しねぇから」


「りょ、了解です…」


何しよう、いや見学すればいいんだけど。流石にバレーボールの知識がない私は見飽きてしまった。


「この部屋で寝てていいから」


「寝る!?この部屋色んな人通りますよね……!?」


恥ずかしすぎるし何してんだこいつってなって気づいたら外に放り出されてそう。


「許可貰えば鍵かけられる。休憩室はまだ沢山あるから1つ使えなくても平気だ。」


待てるか?と少し困り顔で聞いてくる飛雄さん。うっ……イケメン、ずるい。


「わ、かりました……ほんとに寝ちゃいますよ」


「ん、終わったら起こしに来る。」


ごろん、とそもそも座ってたソファーに私を押し倒し、優しく頭を撫でる飛雄さん


「おやすみ、名前。」


飛雄さんって頭撫でるの、すき、だよなぁ……


おやすみを返す事すら出来ず、見慣れぬ場所だと言うのに、あっという間に私の意識は落ちていった。





夢を見た、懐かしいあたたかい夢。


両親がまだ生きていた頃の夢。貧しくても、楽しかった。お父さんとお母さんがいれば、幸せだった。


名前、名前。と優しく名前を呼んでくれる2人。


ずっと3人で暮らしていきたい。のに、


どんどん離れるお父さんとお母さん。まって、まってよ!!と叫ぶのに、私の足はピクリとも動かない


まって、お願い、ひとりにしないで。ひとりにされると


あの人の元に行かないといけない


やだ、お父さん!!助けて!!お母さん!!!


「おと…さ………おかあ……さ…」


「名前!!」


ふ、と目が覚める


目の前には眉間に眉を寄せた飛雄さん


なんでそんな顔してるんですか、心配になって飛雄さんに手を伸ばす


するとその手を引かれ、飛雄さんの腕に包まれた


ぎゅううっと少しだけ締め付けるように抱きしめられる。頭は優しく飛雄さんの大きな手で撫でられた。


凄く、安心する。


「………泣くな、名前」


「え?」


自分の頬に触れると、涙で濡れていた。


ずっと泣いていたのだろうか、寝てる時から。それで飛雄さんにあんな顔をさせてしまったのか……。


「俺は、お前の親にはなれないし、それを超える存在にもなってやれない。………でも、」


体を離して、見つめられる


「名前の事、大事に思ってる。大切にする。俺がそばに居るから、泣くな。」


あぁ、またこうやって飛雄さんは私を救ってくれるんだ。


もう悲しくなんかない。えぐえぐと嗚咽が止まらないけど、悲しい涙なんかじゃない。


飛雄さんが私のことこんな風に言ってくれるなんて、嬉しい。


1度私は幸せを奪われた。そして地獄のような日々を送った。でも、今またちゃんと幸せになった。


もう充分です、本当に大好きです飛雄さん。


それを言う事は飛雄さんを裏切る事になるのかもしれない。飛雄さんの言う大事ってどんな意味かわからないから。


だから言う事は出来ないけれど、幸せなことに変わりはないから飛雄さんに抱きついて、返事の代わりとした


大好きです、大好きです。飛雄さん。





「落ち着いたか?」


「すいません……」


「いや、……泣き顔見るのは2回目だな」


「うっ……見苦しいものを、すいません」


「もう見る事が無いようにする」


「えっ」


「泣く暇無いくらい、幸せにしてやる」


何それ、プロポーズかよ。なんて叫びたくなる。そんなつもりが飛雄さんに無いのはわかってる、痛いくらいにわかってるけど、そんな言葉はずるいです。


「わ、私だって、拾って良かったって思わせます」


「拾ったって……ははっ!まぁそうか」


目を冷やしてた氷嚢を外す、目は真っ赤だろうなぁ


「目、赤いですか?」


「ん、………」


飛雄さんに見てもらう、近づく距離。ちょっと恥ずかしいけど、真っ赤だったり腫れてるなら今日ご飯行くの辞めさせてもらおうかな……


なんて考えてたら、私たちの距離はゼロになっていた


………………へ?


飛雄さんの唇が、私の唇にくっついてる


これって、…………!?


そう認識した瞬間、物凄い勢いで離れた。…………飛雄さんが。


「………………………………悪い」


「へ、え、あ、だ、大丈夫、です、?」


混乱する、何が起きたんだ?え?


「そんな、つもり無かったんだけど、」


どんな、つもり?


「その、……見た目が凄くて、気づいたら……」


見るに堪えない顔を見るとちゅーしちゃうのか、飛雄さんは。なるほど?


いやいやいや、飲み込めない、どういう事!?


「悪い、忘れてくれ」


「え、あ、……はい」


真っ赤な目と顔をした私と真っ赤な顔した飛雄さん


期待は、してもいいのか駄目なのかすらわからない。


兎にも角にも飛雄さんが忘れてくれって言うならこれ以上言及するのはやめよう、忘れよう。
期待ばっかりさせないで


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