あれからお互い真っ赤っかになってしまったが、飛雄さんが飯行くぞ!と声を上げたので、私ははいいいい!!と返事をすることしか出来なかったが、
とりあえずあの状況は打破し、2人で街中を歩いている。
不思議なもので、頭の中で引っ掛かりはするものの私は平常心を取り戻しつつあった。外へ出て1度冷静にでもなれたのだろうか。
「飛雄さん、ご飯何食べます?」
「………おう」
おう??
「飛雄さん?」
「おう」
「ご飯」
「おう」
「飛雄さん??」
「おう」
ダメだ、飛雄さんが壊れた。
どうしよう、家帰った方がいいだろうか。1度飛雄さんを見上げる。なんとも言えない表情。しかし少し元気が無さそうに見える。
そんなに私にちゅーしたことがショックでしたか、そうですか。………自分で言ってて悲しくなる。
とりあえず何も考えずに足だけ動かしていそうな飛雄さんを、携帯の地図アプリを頼りに家まで連れて帰る事にした。
◇
「……………あれ」
「?どうしました」
「家だ」
「えぇっ!?」
確かに何も把握出来てなさそうな顔はしてたけど、既に飛雄さん夜ご飯も食べてお風呂も入ってきましたけど………。
「なんで俺家に………あれ飯も家で食ったな」
「外食はやめて、お家で食べましたよ?」
「なんで辞めたんだったか?」
「なんでって言うか……飛雄さん心ここに在らずだったので、引っ張って家まで帰ってきました」
「…………悪い」
「あ、いや、大丈夫ですよ!……その、気にしてないので、飛雄さんも気にしないでください」
何がとは言わないが、そう言う。気にならない事は無いが、飛雄さんが想像以上にダメージ受けてるので無かったことに出来るなら無かったことにしたい、それが飛雄さんの為だ。
「……気にならないのか」
「き、気にならない訳ないじゃないですか!でも不可抗力?的な感じなんですよね?」
「…………まぁ、そう、だな」
「なら仕方ないで済ませましょう!!飛雄さん、元気無さすぎるのでそれ見てる方が辛いです」
普通に元気ない飛雄さん見るのも辛いが、何より私とちゅーした事を盛大に後悔してるのがあからさまに分かるので辛い。
「………ん、ありがとう。」
「いえ!」
「…………名前、明日暇か?」
「え?暇ですよ」
「出かけよう」
「へ?」
「どっか行きたいところねぇか」
「えぇ!?」
急すぎる。どうしたんだろう、飛雄さん。そう言えば明日はお休みだったなぁ。
とは言えいつもお休みは一緒にスーパー行ったりする程度しかお出かけなんてしない。
日用品を買い揃える事以外の買い物なんて2人では行ったことない気がする。
「どうしたんですか?急に」
「……今日の礼」
「お礼?何かしました?」
「弁当とか、……連れて帰ってきてくれた事とか」
「そんな、気にしないでください」
「あと、俺が名前と出かけたい」
ずるい。本当は前者が本当の理由なくせに、こうやって言えば私が行くってわかってて言ってる。
「………じゃあ、海行きたいです」
「海?」
「はい、海見たことなくて」
海に遊びに行ったことなんて無くて、少し憧れがあった。
夏だから混んでるだろうし、駄目って言われるかもだけど……
「ん、わかった」
「いいんですか!?」
「?名前が行きたいんだろ、なら行く」
当然だろ、とでも言いたげな顔にまたしてもきゅんっとする。
「じゃあ水着も買いに行かないとな」
「え?海入るんですか?」
「どうせなら入りたい、明日行く前に買いに行くか」
「はい!」
水着!!やったぁ!選ぶの楽しみだなぁ!!
………………………水着
まずい、そんな人様に見せれるような体じゃない。
風呂場で自分の体を見て焦る。お、お腹………飛雄さんと暮らし始めてから毎食しっかり食べてるし、なんならおやつだって食べてる。その結果を表すお腹だ…………
こ、こんな体露出出来る訳ない……!ましてや美しい肉体美を保持する飛雄さんの隣で…………
しかし飛雄さんの体を想像して思ってしまった、自分の体は出したくないけど飛雄さんの体は見たい、と。
ただの変態じゃないか!!………と風呂場でのたうち回る。どうしよう、明日までにお腹引っ込める方法無いかな、それかなんとか隠してくれそうな形の水着を選ぶとか…………
水着の種類もよくわかってないから、私には体型のカバーが出来る水着の形なんてわからない、どうしよう。……………こんな時は頼れるお姉さんに聞くしかない!!
お風呂から飛び出した私は飛雄さんに不思議そうな顔されながら、美羽さんにメッセージを飛ばした。
◇
ピーンポーン
「おはよ!!」
「……………おはよ、なんでいんだ姉ちゃん」
「今日海行くんでしょ?水着買いに行くんでしょ?買い物まで着いてってあげるわ、あんたセンス無いし。」
「………名前?」
「あ!おはようございます!美羽さん!」
「おはよう!名前ちゃん!」
「名前が呼んだのか?」
「は、はい。ごめんなさい勝手に……美羽さんに一緒に選んでもらいたくて」
「私今日午後から仕事だから海までは一緒に行けないのよ、だから買い物までだけど一緒に行くわ」
「ありがとうございます!!」
チラリと飛雄さんの様子を伺う、勝手に呼ぶなんて駄目だったかな。しかし特に表情は変わらずいつも通りの無表情だったので、安心した。
「さて、名前ちゃん?」
「はい?」
「名前ちゃんがどれくらい成長したのか知らないから、見せてもらえる?」
そう言ってお風呂場へ手を引かれる
「え!?そ、その、メッセージに書いた通りでして……」
「うんうん、ちょっとふっくらしたのよね。でもちゃんと見せてもらった方がより似合う水着選んであげれるわ」
そう言って美羽さんは私の服を剥いだ
「うわぁあああ!?」
「名前!?どうした!?」
「飛雄ー、今開けたら名前ちゃん泣いちゃうわよ」
「は!?」
扉越しに飛雄さんが心配してくれてる、うぅ、大丈夫です………美羽さんに裸を見られてるだけです……
「え?全然じゃない。そもそも痩せ過ぎてたからこれくらいで丁度いいわ」
「そ、そうですか?」
「えぇ、胸だってそこそこあるし。大丈夫よ!自信持ちなさい!」
そこそこ………とても豊満とは言い難い感触の胸を触る。そこそこ…あるんだこれで……。
「よし!準備出来たから行くわよ!!」
「大丈夫だったか……?」
「………はい」
よしよしと飛雄さんに撫でられる。今日も飛雄さんは優しい。
◇
「じゃあ飛雄は自分の水着探してきて、後で行くから」
「わかった」
「名前ちゃん、何色が似合うかしらね!」
「えぇ?何色でしょう……」
美羽さんが次々と手に取る水着達はどれも可愛い。可愛いけどお腹が……ビキニなのでお腹丸出しだ。
「あの、美羽さん、ビキニは…」
「ビキニ着ないって言うならスク水着せるわよ」
「!?」
「若いんだから!年取るとどんどん着れなくなるのよ、着るなら今のうちよ!そんな年で着れないなんて言わせないわ!!」
いつにも増して強気な美羽さんにタジタジしてしまう。駄目だ、私の意見は全く通りそうにない。
色んな水着をあててみたり、試着したりして、最終的に決まったのはピンク系の配色で花柄が可愛らしい水着。もちろんビキニ。
こんな可愛過ぎる水着、似合うだろうか
心配にもなるが、センスの良い美羽さんに太鼓判を押されたのでネガティブになりそうになる頭を振り、打ち消す。
その水着と日焼け対策のパーカーも含めて買ってもらってしまった。お小遣いあるので!と食い下がったが、いつも通り相手にされなかった。影山姉弟は急に意思疎通が不可能になりがちである。
そして今度は飛雄さんの方へ向かったが、飛雄さんは待ちくたびれてベンチで座ってた。
飛雄さんの方も結構悩むのかと思いきや美羽さんはあんたはこの色でしょ。と深い青色の膝丈程ありそうな水着を選んで即決した。
飛雄さん青色好きなんですか?と聞けば知らないけど、あの色似合うのよね。と言う美羽さん。確かに似合いそう、目の色に近いし。
こうして買い物を終えて、美羽さんはあっさり帰ってしまった。ありがとうございました!とお礼を言えば、礼は飛雄との進展でいいわよ。と綺麗な笑みを残されてしまった。
真っ赤になった私に飛雄さんは大丈夫か、と声をかけてくれたのだが、ひゃいい!!!ととんでもなく動揺してしまう。
これから海に行くというのに、水着を着ないといけないのに、もう既に心臓がうるさいが大丈夫だろうか。
助けてお姉さん!
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