「じゃあ行ってくる」


「はい、お気を付けて!」


少し大きな荷物を持った飛雄さん。今日から3泊4日宮城に帰られる。


途中で美羽さんと合流して一緒に帰るそうだ、帰りは美羽さんも連れてこっちに来るから待ってろ。と言われている。


「知らない奴来ても開けるなよ」


「はい、聞きました」


「知らない荷物届いても開けるなよ」


「はい、大丈夫ですよ」


「あとは……」


「もう!!そんなに私信用ないですか!?」


「違ぇ、心配なだけだ」


トスン、と心臓を矢で射抜かれる。キリッと真面目な顔して言うもんだから寿命が縮む。


「大丈夫ですよ、何かあったら連絡します」


「ん、必ずだぞ。……じゃあ行く」


「はい、行ってらっしゃい!!」


飛雄さんは手を振り、行ってしまった。


さて今日から約4日。何しようかな、こんなに1人になるのは初めてかもしれない。まぁ日中ほとんど1人で一応受験生なので勉強ばかりする事に変わりは無いのだけれど、


問題は今まで飛雄さんがいた朝と夜の時間。寂しいだろうなぁ、とまだ出ていったばかりの玄関を見つめてしまう。


早く帰ってこないかな、なんて考える私の顔は今恋する乙女に見えるのだろうか。





「お!!影山ぁ!!」


「日向。」


「お姉さんも!ちわっす!」


「こんにちは、日向くん」


「今から行くだろ?皆のとこ」


「おぉ、そろそろ時間だしな。荷物家に置いたらすぐ行く」


「じゃあ一緒に行こうぜ!」


「ん。」





「影山!!日向!!久しぶりだなー!!」


「スガさん!!ちわっす!!」


「ちわっす!」


「ちわぁっす!!もー、またデカくなったか??」


「親戚かよ……」


「もはや親戚だな……」


「相変わらず日向と影山が来るとうるさいね……」


「ほんと。単細胞は何も変わってない。」


「「なんだと!?」」


「あーもーうるさい」


「こらこら、月島も会って早々煽るんじゃないよ」


「ささっ、2人とも座って?何飲む?」


「ありがとう、谷地さん!俺はねー……」





「どうよ?2人は最近」


「この間こいつに勝ちました」


「この間だけな!?その前は俺が勝ったし!!」


「あぁ??」


「なんでどの話題でも喧嘩出来るんだよお前ら……」


「試合の事は知ってるべ!そうじゃなくてプライベートの方だよ!」


「プライベート?………あ!!そう言えば最近、影山が女子高生と一緒に住み始めました」


「「「はぁ!?!?」」」


「え、ちょ、なに、どういう事」


「彼女!?お前彼女出来たのか?!」


「おおおおお落ち着けよ、皆」


「いやいやお前が落ち着けよ旭」


「彼女じゃないっす」


「いやもう何それ!?」


「え!?ゆ、ゆうかい!?」


「あははー阿鼻叫喚」


「ツッキー、笑えてないよ……」


「誘拐じゃないです、ちゃんと保護者と話して引越しの手続きもしてうちにいます」


「え、どういう関係?」


「それ、俺も気になってた。名前ちゃんとお前ってどんな関係なの?」


「名前ちゃんって言うのか」


「なんか可愛いな」


「………どんな関係って」


「え、ちょ色々聞いちゃうよ?お兄さん色々聞いちゃうよ??」


「うわぁ、スガさん気持ちいい笑顔っすね……」


「あの顔のスガは大抵めんどくさいんだよなぁ……」


「そもそもどこで知り合ったんだ?」


「…………道」


「は?」


「道?」


「道で、会いました」


「なんで話しかけたんだよ。話しかけられたのか?」


「いや………倒れてたんで」


「え!?そうなの!?名前ちゃん怪我してたとか?」


「……怪我…してたっけか……あんま覚えてねぇ」


「え?なんでそれで同棲する事なったんだ?」


「同棲って…………あんま、話せないです」


「え、なんで」


「何、いかがわしいことでもしたのかお前」


「やめろ田中」


「違います!!……手は出してねぇっす…………ほとんど」


出してないと言ってから、1度キスしてしまった事を思い出す


あれは手を出した事に……なるだろうな


「ほとんどって!?」


「え!?お前名前ちゃんとそういうかんけ」


「違ぇよボゲェ!!」


「ちょ、そこも気になるけどなんで話せないのかも気になるんだけど? 」


「珍しく月島が影山の話題に食いついてるじゃん」


「だって面白そうですし」


「あぁ!?………名前の家の話なんで、あんま俺がペラペラ外で話していい事じゃない」


「え………虐待、とかされてたのか名前ちゃん」


「そんなんじゃねぇけど………帰りてぇと思う家も家族もいねぇから、名前には。だから拾った。」


初めて会った時の酷く痩せこけ、目に光の無い苗字を思い出す


思い出すだけで心苦しくなる程には名前の事を大事に思っているのだろう、俺は。


今俺と一緒に住み、顔色も良くなってよく笑うようになった名前の事を考えると自然と口角が上がる。あいつはきっと今あの頃よりは幸せに生きられているのだろう。この幸せは俺が守る、あいつもあいつの笑顔も。


「うわ、何ニヤついてんだお前。気持ち悪」


「あぁ?」


「ひぃっ!」


「お前その、名前ちゃんって子の前でもそんな態度とってんのか……?」


「いや、全然違いますよ!名前ちゃんの前での影山!!」


「そう言えばさっきから親しげに呼んでるけど、日向は会ったことあるのか?」


「はい!何度も。酔っ払った影山送ってった時とか、影山が弁当忘れた時に練習所とかで」


「へぇ!!どう違うんだ?影山は。やっぱにやにやしてんのか?」


「うーん……ずっとおだや影山ですね」


「え?」


「怒鳴らないし、優しくしてるし。たまにちゃんと笑うし。」


「誰だよそれ」


「どういう意味っすか田中さん」


「だってそんな影山俺知らない」


「なぁなぁ影山!今度その名前ちゃん連れてきてくれよ!」


「えっ」


「駄目?駄目か??」


「かわいこぶるなよスガ……」


「だってー、大地見たくないのか?影山が大事に大事にしてる女の子」


「………見たいけど」


「見たいんじゃん!!皆も見たいよな?」


うんうんと皆頷いてる。しかし名前の気持ちが最優先だ。あいつが少しでも嫌がるなら連れてこない。


「名前に聞いてみます、嫌そうなら連れてきません」


「王様って正直だよねぇ」


「本当のこと言っただけだ」


「じゃあさ、今電話してみてくんね?」


「は!?」


「あ!!いいっすね!影山が笑って話してるの見てみてぇし!」


「いいですねー、僕も見てみたいですー。」


「月島くんは完全に面白がってるね……」


「高校生の時から何も変わってないよなぁ、そういう所」


「君の単細胞ぶりもね」


「なんだと!?」


「………出るかどうかわかんないっすよ」


「おー!とりあえずかけてみてくれよ!」


はぁ、とため息をつく。いつまで経ってもこの先輩達には頭が上がらない。


スマホを取り出し、名前に電話をかける


もし本当に俺が名前と話してる時ににやついてるのであれば、今電話に出ないで欲しい。その後からかわれる未来しか見えない。


プルルル、と通信する音を聞きながら願ってしまった。





夜ご飯を食べてると、飛雄さんから着信がきた


え、何かあったのだろうか。それとも私がちゃんと家を守っているかの確認だろうか。


ご飯を飲み込んでから通話をタップする


「もしもし?」


「…………はぁ、名前か」


電話に出て早々ため息をつかれた、何故。


「そ、そうですけど……お疲れですか?」


「ん………先輩達に今電話しろって言われて」


声のトーンがいつもよりずっと低い飛雄さんの後ろからそういうこと言うなよー!俺たちのせいにすんなー!という声が聞こえる。先輩達、だろうか。


「そ、そうなんですか……じゃあ特に用事はないって事ですかね?」


「いや、……今度一緒に宮城に来ねぇか」


「え!?」


「先輩達が会いたがってて」


僕も会いたいんですけどー、わ、私もー!とまたしても後ろから声が聞こえる。片方は女の人の声だった。


そうか、女の人もいるんだな。と少しだけチクッと胸が痛む。高校の時の部活の人達って聞いてたからマネージャーさんとかだろうか、昔の飛雄さんの事も知ってるんだろうなぁ、いいなぁ。と少しだけ羨ましく思う


「……先輩達と同級生達が会いたがってる。名前が嫌なら全然いい。無理矢理連れてく気なんてねぇよ」


「あ、いえ……全然いいですけど、私なんかに会っても楽しくないと思いますけど」


「だいぶ前の日向とか侑さんとか、そんな感じだ。興味があるだけだから気にすんな」


そもそもなんで興味湧くんだ……確かに私と飛雄さんは特殊な関係だけれども


「わかりました、また飛雄さんや皆さんの都合のいい日に連れてって下さい!」


「ん、悪ぃなそれだけだ。……ちゃんと飯食ったか?」


「今食べてます!今日はハンバーグにしました」


「いいな。……俺も食いてぇ」


「1人分には多いくらい沢山作っちゃったので冷凍してあります、帰ってきたら是非食べてください!」


「ん、食べる。じゃあな、ちゃんと戸締まり確認してから寝ろよ」


「はい、飛雄さんもゆっくりして来てくださいね。」


「………明日また電話する」


「え?」


「じゃあな」


「え、あ、はい」


プツッと切られた通話。なんでまた。そんなに私は心配させる行動ばかりしてきたのだろうか……?


それでもやっぱり今日1日一人ぼっちで寂しかったので、明日また電話してくれると言ってくれたことに喜びは隠せなかった。にやついてしまう。





「いいって言ってたんで、また都合のいい日連れてきます」


「…………影山?彼女じゃないの?ほんとに?」


「彼女じゃないっすよ。なんでですか。」


「今の会話どう見ても彼女とのラブラブ電話だろ!!」


「は!?」


「影山にも春が来たのかぁ……」


「大地、お父さんみたいだよ」


「……王様が王様じゃないみたい」


「月島が放心状態だ……でも名前ちゃんと話してる時大体あんな感じですよ、影山。」


「まじかぁ、なぁ日向。名前ちゃんって可愛いのか?」


「可愛いですよ!!小柄で綺麗な黒髪で、目がクリっとしてて」


「影山!!写真とかねぇのか!」


「ないっすよ、写真撮ることなんて無いですし」


「出かけたりとかしねぇの?」


「出かける……この前海行きました」


「んなぁ!?デートじゃねぇか!!」


「スガさん、テンション大丈夫デスカ」


「大丈夫じゃねぇよ……可愛い後輩が地味に進展してんだもんよ…!」


「シンテン?」


「王様はわかんなくていいよ」


「んだと」


「あー!早く会ってみてぇな!!影山の彼女!」


「だから彼女じゃないっすよ!!」
頭が上がらない


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