ふと目が覚める。あれ、目覚ましかけなかったっけ……なんて思いながら体を動かすが……全く動かない


な、なんで……と思えば目の前に綺麗な寝顔を晒す飛雄さん。


結局あの後私は寝れたようだ、良かった。昼間に眠くなると少ししんどいからなぁ。と思い、既に明るくなった外を見て飛雄さんを起こす。


「飛雄さん!」


「……ん…?」


「おはようございます!!」


「……はよ…」


「離してください!」


「………無理……」


「無理!?」


ぎゅーっと抱き込まれて窒息しそうになる。バンバン!と背中を叩けば楽しそうな笑い声。起きてるじゃないですか!!


「ほら!!離してください!!」


「っははは!怒るなよ」


「怒ってません!!」


「名前」


「はい!?」


「おはよう」


膝に乗せられ、さらりと頭を撫でられながら今日も寝起きからかっこいい恩人に惚れ直す。


「……おはよう、ございます」


朝っぱらから心臓ドキドキ。働きすぎ注意だ。





「今日、どっか行くか?」


「え?あ、……飛雄さん暫くお休みでしたね!」


「おう、買い物とかあるなら付き合うぞ」


「いや特には無いんですよね……飛雄さんは?」


「俺も特にはねぇな。…家にいるか?」


「はい!一緒にのんびりしませんか」


「ん、わかった」


飛雄さんはそう言うと私を何故か持ち上げ、足の間に座らせた。昨日からスキンシップ多すぎやしないか!?


「もうすぐ夏休みも終わりか?」


そのままなんてことない顔して話す飛雄さんに驚く。しかしここで狼狽えるとまた馬鹿にされるので、私も平常心をなんとか保つ。


「はい、あと2週間ぐらいですかね?」


「課題、終わったか?」


「はい!もうだいぶ前に。最近は受験勉強の方ばっかりですね」


「流石だな……俺高校生だった時ギリギリまでやってなかった」


「んー…………ぽいですね」


「なんだと」


「す、すいません!!」


「っふふ、…受験の方はどうだ」


「合格圏内に割と余裕もって入れているのでよっぽど大丈夫かなぁと思います。でも気は抜けません!」


「俺とのんびりする時間くらいはあるか?」


「あります!作ります!」


むしろ忙しいのは飛雄さんだ、練習に試合、遠征もある。私なんかよっぽど時間作れる。


「食い気味だな。………俺は高校生の時全然家にいなかったな」


「そうなんですか!?」


そう言えば飛雄さんの学生時代の話って聞いた事が無い。日向さんと出会ったのも高校生の時なんだもんなぁ、あと宮城帰って会うのも高校生の時の人達。


気になる、飛雄さんの高校生活。


「飛雄さんの高校生の時の話が聞きたいです」


「……なんも面白くねぇけど」


「いいですよ全然!聞きたいだけです。日向さんとの出会いとか!」


「日向と出会ったのは中3の時で……」





「え?その牛若JAPANさんが今のチームメイトなんですか?」


「その呼び方やめろ、日向みたいだろ」


「え?日向さんはブラジルに行っても必ず飛雄さんと同じ舞台に行くって決めてて、日本に戻ってきて再会したと?」


「まぁそうだな、ブラジルでの経験はあいつを強くした。」


「…………え?日向さんと飛雄さんは運命の人ってことでいいですか?」


「良いわけねぇだろ!?なんでそうなったんだよ!」


「だ、だって!!飛雄さんのトラウマを塗り替えてくれたの日向さんで、お互いが凄く離れてても必ず同じ舞台に来るって信じ合っててここまで来たんですよね!?」


「……信じてたって言うか、あいつ自分で言ってたしな。」


「いや普通それ待てますか!?え!?」


あまりの運命力に声を荒らげる。そんな関係だったんですか!?運命じゃん……!


「うるせぇよ、日向はただ負けたくねぇやつの1人だ。今は。」


「今は?」


「高校生の時は……まぁ味方だったしな。……相棒でもあったと思う」


「………これからも仲良くしてくださいね、日向さんと」


「仲良くねぇよ」


相棒とか青春っぽい言葉に現役高校生ながらきゅんっとする。甘酸っぱい!!


「他には?他にはいないんですか、今でも仲良い人」


「基本的には高校1年だった時のバレー部は皆仲良い。……同級生はやっぱ過ごした時間多いからその分話しやすいけどな」


「同級生は何人いたんですか?」


「全員で5人」


「飛雄さんと日向さんと?」


「月島と山口と谷地さん」


「誰ですか!」


「月島はメガネのっぽ」


「メガネのっぽ」


「山口はキャプテン」


「キャプテン」


「谷地さんはマネージャー」


「マネージャー」


月島さんだけ酷くないか……?


「マネージャー!いたんですね!」


「ん、いい人だ。谷地さんは。頭良いし。」


「女の人ですよね?」


「おう」


「飛雄さんが女の人と意欲的に会話してるのが想像できない……」


「谷地さんは話しやすい。勉強教わってたし。」


「そうなんですか!?」


顔も知らぬ谷地さんを羨む。高校生の時の飛雄さんに勉強教えるとか……ご褒美じゃん……絶対高校生の時からかっこいいもん……


「写真とか無いんですか?」


「……探せばあるかもしれねぇけど、めんどくさい」


「えぇー!」


「今度会いに宮城まで行くんだからいいだろ」


「あ、そうでした!」


先輩達に言われたって言ってたなぁ


「飛雄さん、先輩達には頭上がらないんですね」


「世話んなったからな……でもすげぇからかわれるからいつも困る。」


「楽しい人達なんですね」


「………あぁ、ほんとにな」


そう言った飛雄さんは困ったようにでも嬉しそうな笑顔だった。


私のことを見ていないその瞳はきっとバレー部として活動していた日の事でも思い出しているのだろう。


私の知らない、知る事の出来ない時間。そして飛雄さんにとって恐らく最も大事で楽しかったと思える時間。


なんでだろう、飛雄さんの思い出話聞いてて楽しかったのに。


今は少し胸が痛い。
足りない


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