「え?それって名前ちゃんに彼氏できたって事?」


「…………………やっぱりそうだよな」


「ちょ翔陽くん!?飛雄くんトドメ刺されとるけど!?」


「あ。す、すまん影山!!でも本人に聞いてないんだろ!?」


「聞いてない……けど好きでもないやつと下校するかよ普通」


「「…………。」」


「………だよな」


「……でもな?飛雄くん。それは飛雄くんにも落ち度があると思うで?」


「落ち度?」


「だって飛雄くん名前ちゃんに告白しとらんのやろ?」


「………?」


「お前名前ちゃんが好きだから、とられたくないんじゃねぇの?」


「…………よく分かんねぇ」


「「はぁ!?」」


「一緒にいたいけど、彼女にしてぇのかって考えたらよく分かんないっす」


「名前ちゃんに欲とか出ないん?ちゅーしたいとかぎゅーしたいとか」


「………………したいです」


「せやろ?それは好きっちゅーことや。さっさと自分のモノにしないと盗られるで?」


「でももう彼氏いるかもしれないんで」


「せやったぁっ…………!!」


「侑さん振り出しに戻ってますよ……!」


「要するに、影山は交際してもいない名前と呼ばれる人が好きだが、既に相手がいそうに見える為二の足を踏んでいるという事だな?」


「……はい」


「なら聞くしかないだろう。交際相手なのかどうか、それを聞かなければどうにも出来ないだろう。」


「今日も素晴らしい正論パンチやな牛島くん……北さん思い出して辛いわ……」


「……そっすよね、今日帰ったら聞いてみます」


「おう!頑張れ影山!!」


日向に頷き、俺は帰ってからどう切り出すかシミュレーションを始めた。





「名前。」


「はい?」


夕飯を食べ終わり、皿を片付けようとする名前を呼び止める


「話したい事がある、時間あるか」


「あ、それなら私も話したい事が!」


な、なんだと……!?


もしかして、彼氏出来たと今報告するつもりか


目の前に座った名前がお先にどうぞ?と聞く体勢をとるが、


「いや、名前からにしてくれ」


自分から聞いて、随分前から付き合ってたなんて言われたらろくに返事が出来る気がしない。


聞くだけなら、そうか。と一言言うことが出来ればいいんだ。と覚悟を決めて名前の話を迎え撃つ。


「え、いいんですか?じゃあ……最近困っている事があって、飛雄さんに助言でも貰いたいんですけど、」


困ったこと?


あれ、もしかして全然違う話だろうか。それなら俺から聞けば良かった


「その…………最近告白されまして」


いや違う!!あいつの話だ!!ふんっ!と腹に力を込める。気を抜いたら質問攻めにしてしまいそうで。


「告白されたまでは良かったんですけど、お断りしまして、」


「断った!?」


「えっ!?は、はい」


思わず声を出してしまった。断ったって……じゃああいつは彼氏じゃないのか


「断ったんですけど、諦められるまでは話しかけてもいいかって聞かれてはいって言っちゃったんです。でもそうしたらお昼ご飯の時間も移動教室の時も下校の時までついて来られちゃって……」


そういう事か。


酷く安心した。彼氏なんかじゃなくむしろ迷惑の対象だったのか。仲良さそうに見えたのはあいつが一方的に距離を詰めていたという事になるな。


「申し訳ないから友達とも一旦距離を置くことにしたんです、だから本当にその人とばかり一緒にいて……その、しんどくて……気まずいし何度も告白されて何度も断ってて………」


「わかった」


「え?」


「俺に任せろ」


「えっと……?」


戸惑う名前。本当に良かった、お前はまだ誰の物にもなっていなかったんだな。


それならまだ希望はある。名前からしたら俺はもう家族同然かもしれないが、俺は名前の事が好きみたいだ。


だから、全力で落としにいく。女性の落とし方なんて知らない。知らないけど俺なりに愛情をぶつけたらなんとかなるかもしれない。


覚悟しとけよ、名前




飛雄さんにクラスメイトくんの事を相談してから、家の中で怖い顔をしなくなった。むしろ表情が柔らかくなった。


スキンシップも最近はあまり無かったけれど、話をしてから飛雄さんは狂ったように触ってくる。もう本当隙あらば抱きしめられ、抱き込まれ、そのままベットへ連れていかれ………心臓が持たないのでやめて欲しい……


俺に任せろと言っていたが何かして下さるのだろうか?と疑問に感じながら1週間が経過した。


クラスメイトくんは相変わらずで、私がどれだけ愛想笑いしようともめげない。きっとハートが強いんだろう、超合金で出来てるに違いない。


「あ、今日は遅かったね。帰ろうか!」


トイレで時間を潰してたんですけど、なんて言えず彼に頷き靴を履き替える。


一緒に学校の門へ向かうが、なんだか騒がしい。


「名前!!!」


「ぐえっ!?」


仲のいい友人がタックルして来た、怖いよなんなの!?


「かかっかげっ、……影山選手来てるよ!?」


「は!?」


小声で言う彼女の言葉を聞き返す。影山選手、という事は飛雄さんの事だ。


「知ってる人はこっそり写真撮ったりしてるし、知らない人もめっちゃ背高いしなんかオーラあるから遠巻きに見てるよ……!!」


「め、目立ってるじゃんそれ!」


「そう!!目立ってるの!!何?今日迎えに来てとか言ったの!?」


「言うわけないじゃん!?」


飛雄さんは足長お兄さんかつ相当なイケメンさんだ。こんなとこに連れて来たら目立つに決まってる。


急いで飛雄さんに電話をかける


「もしもし」


「もしもしじゃないですよ飛雄さん!?なんでいるんですか!!」


「?見えてんのか?どこにいる」


「ぎゃああ!?探さないでください!!」


遠目に見える飛雄さんがキョロキョロし始める。こんな所で名前でも呼ばれてみろ、私の学校生活は終わる。


「飛雄さん凄く目立ってますよ!!」


「えっ」


「周り見てください!めっちゃ遠巻きに見られてます!!」


今度は恐る恐る……と言った様子で周りを見渡す飛雄さん。何故こんなになるまで気づかなかったのだろう。


「ほんとだ………家の近くのコンビニ来てくれ。そこにいる。」


「わかりました……なんかありました?用事なら家でも聞きますけど…」


「いや、名前のストーカーもどきと話そうと思って来た」


「え!?」


チラリとクラスメイトくんを盗み見る、彼も飛雄さんに釘付けでモデルかな……?なんか見たことあるような……とボヤいてる。そうだろうそうだろう、かっこいいだろう飛雄さんは。


「だから来てくれ、待ってる」


そう言うや否や切られた通話。飛雄さんは歩き出してしまった。ミーハーな人達に後をつけられないか心配だなぁ……


「ごめん、行こっか」


「うん、凄い人がいたね」




「……………え、さ、さっきの」


「お前がストーカーもどきか」

「飛雄さん、ストーカーじゃないですよ……!」


コンビニに着くとすぐにクラスメイトくんは飛雄さんに気づき、驚く


「え、ちょ、苗字。どういうこと?この人と知り合いなの?」


「知り合いって言うか、」


「一緒に住んでる。名前と俺は春頃から同じ家で生活してる。」


そう言って肩を抱かれる。彼氏感半端ないけど彼氏じゃないんだなぁこれが……クラスメイトくんを引き離そうとする為にやってくれているのだとわかっているが、現実はただの居候と言うあたり悲しい。


「一緒に住んでるって……」


「名前から最近告白されて断ったら、どこ行くにも着いてこられて困ってるって聞かされた」


「………!」


「辞めてくれねぇか、こいつ困らせんの」


怒る訳でもなく説得する訳でもなく淡々と言った飛雄さん。


感情的にならない感じが、高校生と大人の差を見せつけられたように感じる


「………困ってるだろうって分かってたけど、どうしても引き下がれなくて。好きな奴いるんだとしても俺の方振り向いてくれないかなって思ってた」


「………………は?」


「ごめん、それは無理なの。もう関わるのをやめて欲しい。」


きっぱり目を見て伝える。ごめんなさい、曖昧な態度をとってしまって。


「………わかった、今までごめんな」


そう言うと彼は踵を返していった。これできっと平穏な日々が帰ってくる、帰ってくるけれど人を突き放すと言うのはやっぱり辛いなぁ。


「飛雄さん、ありがとう…………え?どうしたんですか?」


お礼を言おうと見上げると呆然としてる飛雄さん


「飛雄さん?飛雄さん!?」


「…………名前」


「はい!?」


「お前好きな奴いんのか」


「!?」


あなたですけど!?なんて言えず固まる。すぐ赤くなったりかっこいいって言ったりしてバレてるんじゃないかと思ってたのに、全然バレていないようだった。


「は、はい……います」


「………………そうか」


「あの…………?」


こちらとしては今更過ぎる事なのだが、飛雄さんからしたら今初めて知ったのだろう、驚いている。しかし私が誰かに片想いしてる事なんて飛雄さん興味あるのだろうか
見えてないのはお互い様


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