『もう少し名前ちゃんの事見ててあげたら、何かわかるんじゃねぇ?』


日向から来たメッセージに首を傾げる。は?


何がだ。何がわかるんだ。しかも見るって、毎日ちゃんと見てる。体調悪そうな時とか、落ち込んでる時だって見逃してねぇ。


これ以上何を見たら良いって言うんだよ。


「……あの、飛雄さん?」


「…………ん?」


「ご飯出来ましたけど……?」


おどおど。と話しかけてきた名前。恐らくスマホを見て怪訝な顔をしていた俺を警戒しているんだろう。


「あぁ、食べる。」


こうして名前の飯が食えるのはあとどれくらいなのだろう。


好きな奴がいる、そう言っていた。


名前は可愛い。それに優しい、家事も出来るし気配りも出来る。


だからこそ、その恋が成就する可能性は高いと自分が惚れ込んで証明してしまっている。


「……はぁ。」


いつの日か彼氏が出来ましたって嬉しそうに笑って報告してくるのだろうか。


そしたらもう抱き締めることも出来ない、それ以上なんてもっての外。通報されるような案件になる。


頭を抱えてどうにか回避する方法を模索するが、まるで思いつかない。好きな奴ってたぶん学校の奴だろ、それ以外に知り合う方法なんて無いし。


そうなると俺の知らないところで仲を深めていってしまう。…………俺が学生だったなら。


なんてどうしようも無いことを考えては、また溜息が出て、


「大丈夫ですか?お疲れですか?」


心配そうに眉を下げている名前が近くにやってきて、


その可愛さに、優しさに胸が苦しくなる。


「…………いや、大丈夫だ。」


どうしたらお前は俺のものになってくれるんだろうな。


名前の幸せを願うなら、好きなやつと結ばれる事を望まないといけないのに。そんなの出来ない。


どうにかして俺のものにしてしまいたくなる。


「本当ですか?なんだか凄く疲れてるように見えます……。」


「……なぁ名前。今日一緒に寝てくれねぇか。」


「え!?」


「……嫌か?」


「あ、いや!!そんな訳は無くて!!……いつもそんなの聞かずに連れていくから、珍しいって思ってしまって。」


……確かに。いつも強引に抱き込んで眠っていた。本当は嫌だったかもしれねぇのに。


「……悪かった。」


「いえ!!全然大丈夫ですよ!!寝ましょう?」


そう言って俺の手を引き、寝室へと向かう名前。


あぁ、渡したくない。誰にも渡したくない。この家を出ていかせたくない。


気づけば目の前にある体を引き寄せ、抱きしめていた。


「うわっ……!?べ、ベットまでもうすぐですよ、」


「ん、わかってる。……少しだけ。」


首筋に顔を埋め、名前を感じる。


少しだけ目が潤んで、顔を赤らめている名前に何かが切れそうになり。


「……名前。」


呼びかけて、返事をしようと開いた口にかぶりついた。


「っん!?」


唇を重ね、舌をねじ込み、暴れ回る。


息と共に漏れる名前の声に、狂いそうになりながらも抵抗してこない名前に少しだけ期待してしまって、止められない。


暫くして、押さえつけていた後頭部から手を離し、唇を離す。


離れた熱から、段々と冷静になり。


目の前で息を荒くして、顔も目も赤くさせて少しだけ泣いている名前を見て、背筋が凍った。


俺は、……俺は今、何をした…?


「…………とびおさん……?」


誰の目にも触れない家の中で、無抵抗な名前をただただ俺の欲望から、嫉妬から……。


「…………悪い、悪かった。」


「え……?」


「謝って済む事じゃないってわかってる。……本当にごめん。」


「そ、そんな……大丈夫、ですよ……?」


ましてや、好きな奴がいるって聞いてたのに。


自分が犯した過ちの大きさに打ちのめされ、あまりにも最低だ。と自分で自分を軽蔑した。


「…………ごめん、暫く近づかないようにする、から。」


「えっ?」


「出来れば……………………、悪い。本当に悪かった。」


出来れば、俺の事嫌いにならないでくれ。


そんな都合の良い事言える訳もなくて、逃げるようにして自室に入った。


……名前の顔、見れなかった。


怖くて、……怖かった、何よりも。名前に嫌われること、軽蔑される事が何よりも怖いのに、自分でそうなるよう仕向けてしまった。


「…………クソっ……。」


床に座り込み、頭を抱える。


時間は戻らない。俺が犯した罪も戻らない。


名前を手放さねぇと。これ以上一緒にいたら何をしてしまうかわからない。


わかってるのに、愚かな自分は名前のいない生活を想像しては胸を痛すぎるほどに痛ませた。


胸が痛んだって、どれだけ傍にいたくたって、自分のものにしたくたって、……俺じゃ駄目なんだよ。


手放さないとこれ以上に傷つけてしまうかもしれない恐怖と、ずっと一緒にいたかったのに。なんて欲望から濡れた頬は誰の目にも留まらなかった。
リグレット


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