「ただいま、名前ちゃん!これで正式にここの家の子よ!」


帰ってきて早々そう言う美羽さん


疑問符しか浮かばない。どういう事?


「転居届出してきた!親戚さんにも了承してもらって、正式に手続きしてきたわ」


あと、学費も親戚さんに払ってきた。と付け加えられる


「えっ……」


「………会いたくなかったでしょ?」


これ、と元々住んでた家に置いていた私の私物を持って帰ってきてくれた。


会いたくなかった、見ず知らずの人を頼って馬鹿じゃないのかと罵られるだろうから。


最後の最後まで嫌な思いをさせてくるんだろう。そう思っていたのに、お2人だけで解決して来てしまった。


なんとお礼を言ったらいいのか


半年程度しか住んでいなかった為、特に多くもない荷物を受け取り、頭を下げる


「ありがとうございます……!!」


「いいのよ、なんか妹出来たみたいで嬉しいし。」


「じゃあこれからは飛雄と仲良くやってね?たまには来るから飛雄には相談しにくいことあったら言って?……あ、あと連絡先……」


スマホを取り出した美羽さんは固まった


「名前ちゃん、携帯って……」


「持ってないです」


これまで生きてきて一度も。


「……………飛雄。」


「ん。行くぞ名前。」


「へ?」


「携帯!!無いと困るでしょ!買いに行くわよ!!」


今帰ってきたばかりじゃないか。疲れてるだろうに、私を携帯ショップへと連れていってくれた





外へ出て、この2人と歩くと実感する


モデルさんみたいに綺麗な美羽さんとこちらもモデルさんのように背が高く整った顔をしていらっしゃる飛雄さん。


チラチラと街ゆく人が2人を見ている。間に挟まれた私は居た堪れない……。


「名前ちゃん、どれがいい?」


スマホがずらーっと並ぶ。どれ、とか全然分からない


「えっと違いが……」


「……俺のと同じでいいだろ、使い方教えられるし」


「確かに。そうしましょうか!」


トントン拍子に進んでいき、気づけば私の手元にスマホがやって来た。


人生初、携帯電話…!!!


「これで連絡先の登録ね、私と飛雄の登録しておくから何かあったら電話する事。」


「はい、ありがとうございます!飛雄さん!!」


携帯も飛雄さんが買ってくれた。もうここまででいくらお金を使ってもらったのか考えたく無くなる。


「ん、帰って落ち着いたら使い方教える。」


「お願いします!」


「じゃあ後は……何か必要なものあった?今から買いに行けるけど」


「あ……ベットって」


「もう買った。今日届く。」


早!?今日の朝一にはもう注文したのだろうか……


「あとは、服?昨日買った分じゃ足りないわよね?」


「………なんとか着回せば」


「駄目よ、そんなの。あと女の子用のシャンプーとかもいるし、基礎化粧品もいるわよね?」


「「キソケショウヒン?」」


「………まぁ、高校生だしね」


?キソケショウヒンとはなんなんだ


「とりあえず、行きましょう。色々必要なものあるわよ!」


よく分かっていない私と飛雄さんを連れて、美羽さんは買い物へと繰り出した。





…………疲れた


ソファーに倒れ込む。服を選ぶのもシャンプーを選ぶのも、いつもこだわってなんかいなかったので、美羽さんに叱咤されながら選ぶのは大変だった。


そして飛雄さんはどんどん荷物を持たされて、最終的に買い物袋に埋もれてた。お姉さん、容赦ない。


「疲れた……」


「疲れましたね…。」


飛雄さんとゲッソリする。美羽さんは楽しかったわ!じゃあまたね!と去っていった。


時計を見れば18時。そろそろご飯の支度をした方がいいだろう。


「飛雄さん、ご飯の支度しますね」


「おう。頼む。……あ、でも何もねぇぞ」


「え?」


聞き返しながら冷蔵庫を開ける。すると言葉通り、何にも無かった。家事出来ないって言ってたからな……自炊もしないよね…


「買い物行くか」


「すいません、さっきついでに行けば良かったですね」


「いやいい、俺も気づかなかった」


再び私と飛雄さんは近くのスーパーへと出かけた。


とりあえず持てる分だけ食材を買い込み、家に帰る。これくらい買っておいてどれくらい持つかな……出来れば学校もあるので買い物の頻度は減らしたい。


「………よし。カレーは好きですか、飛雄さん!」


「好きだ」


うぉっ


かっこいい人が言うと、なんか、なんか凄い。むずむずする。


「じゃあカレーにします!!」


「温玉乗せてくれ」


「了解です!」


まさかのオーダー。温玉好きなんだ……覚えておこう!





今まで扱ったことが無いほど大きなキッチン。こちらとしてもやり甲斐がある。


「出来ました!お皿って……?」


「そこの、上の棚に」


「あぁ!ここですね!」


振り返り、棚を開ける


「………あ!!開けるな!!」


え?


棚を開けるとバタバタと色んなものが落ちてきた


ゴミ袋やラップ。フリーザーバックなどなど。


ほとんど開いてないので買ったはいいが使ってないシリーズだろうか。


ところでこの状況はどうなってるんですかね?


驚きの早さで私の元へ来た飛雄さんが私の腕を引き、抱きとめてくれたお陰で落下物の餌食になる事は避けられた


けど、かっこいい男の人に抱きしめられて、私の心臓はばっくばく。


「とと、飛雄さん……?」


「悪い、色々入れてたの忘れてた。」


「あの……?」


「皿が落ちてこなくて良かった」


ふぅ、と安堵する飛雄さん。あれ、離すのを忘れてるのかな。


私は安堵なんかする暇なく、心臓がえらいこっちゃだ


「と、飛雄さん!もう大丈夫なので」


「…あぁ、悪い」


「いえ、助けてくれてありがとうございました!」


「ん、皿………あった」


「じゃあ盛りますね」


「おう」


飛雄さんに触れられたところが熱い。


顔も、熱い。近くで見ても、かっこよかったなぁ。


「……?どうした、大丈夫か」


「大丈夫です!!元気です!!」


「!?そ、そうか」


恥ずかしさから大声で返事する、そして更に恥ずかしい。何これ、しんどい。





一緒にご飯を食べて、お風呂に入る


飛雄さんは先程来た私のベットを組み立ててくれている、申し訳ない


改めて、この家の住民になった訳だけどこれからの生活リズムを考えなければ


家事も入れて、かつ学校から少し離れたので通学時間も少し増える。


うーんうーん、と悩んでいるうち逆上せてしまった。あっつい。


「………逆上せたか?」


「はい……暑いです」


「………おら」


「ひゃっ!?」


「ははっ!」


冷たい飛雄さんの手を頬に当てられる、すっごい冷たい。大丈夫かな。


ビックリして声を上げると笑う飛雄さん。あ、笑顔が美羽さんに似てる。やっぱり姉弟なんだなぁ。


当てられた手がだんだん心地よくなって来て、擦り寄る


「大丈夫か?水、持ってくる」


「いえ、……手が気持ちいいです」


「もう温くなってねぇか?」


「じゃあもう片方……」


「ん」


「つめた!!」


「っはは!自分でやったんだろ」


「なんでこんなに冷えてるんですか?寒いです?」


「いや、寒くねぇ。名前が火照りすぎなだけだろ」


顔真っ赤、とじっくり顔を見られて言われる


今思えば何大胆な事してるんだ私よ。恥ずかしさから更に赤くなる


「み、水飲んできます!」


「おう、あ、ベット出来たから後で見といてくれ」


「はい!ありがとうございます!!」


わたわたする私と平然とした様子の飛雄さん。


なんだか大人って感じがして、ちょっとだけ遠く感じた。
これからの事


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