「そう言えば、聞きたかったんですけど」


「?なんひゃ」


もぐもぐ咀嚼しながら返事する飛雄さん。リスみたいになってる、可愛い。


「飛雄さんって彼女いるんですか?」


「いない」


スパンっと即答され、終わった。良かった、修羅場にはならなさそう


「あの、彼女出来たら流石にご迷惑になると思うので、教えてください。なんとかします…」


「?迷惑?…よくわかんねぇけどわかった。出来ねぇと思うけど」


「え?なんでですか?」


「……そういうの、得意じゃねぇ」


なるほど、美羽さんの言葉を思い出す、バレー馬鹿だと。


そういう事か、バレー以外は興味があんまり無いようだ。……ご飯を除いて。


「そうなんですね、じゃあもし出来たらでいいので教えてください」


「ん、わかっひゃ」


もぐもぐしながら返事をする飛雄さん。可愛い。





お弁当よし、制服よし。


「飛雄さん!」


「ん?」


「いってきます!」


「おう、いってらっしゃい」


一緒に住み始めて約1ヶ月。飛雄さんはいつもお見送りをしてくれる。


なんだかんだ挨拶は凄くしっかりしてて、おはようからおやすみまでちゃんと言ってくれる。


今日は金曜日、今日が終われば休みだー!





学校がようやく終わり、スマホを開くと飛雄さんからの通知


「悪い、今日飲みに行くことになった。先寝ててくれ。」


一緒に寝てる訳では無いけど、大体同じタイミングで寝室へ向かうので、先寝てて、と言われる。


メッセージをわざわざ送ってくるってことは遅くなるんだろう。ご飯、いるかな。と一応考える。


いつもこういう場合ご飯いらないですか?と聞いて、いる。帰ったら食べるから置いておいて。と言われるのを楽しみに待ってしまう。


私が作ったご飯をここに帰ってきて毎日食べてくれる。それが凄く嬉しくて、やりがいに繋がっているのだ。


「了解しました!ご飯、今日鶏つくねですけどいりますか?」


「いる。帰ったら食べるから置いておいてくれ。」


うううう、これ!!これです!!!


私のご飯が欲しい!!とそこまで言われてなんていないが、そこまで言われたほどにテンションはアゲアゲだ。家の中だから許されるほどに激しくスキップする。


じゃあ今日も美味しかったって思って貰えるよう、頑張るぞ!





ご飯を食べ終わり、お風呂も上がり、少し休憩。


明日は休みだけど、飛雄さんは練習だからお弁当作りはある。その為起きる時間は平日と同じなのであんまり夜更かしは出来ない。


ふわぁ、と欠伸を零し、そろそろ寝るかなぁと思ったところで


ガチャリ、玄関の鍵が開いた音が聞こえる


え、飛雄さん?早くない?と思い、玄関へ向かうと


「あ、名前ちゃん!!ごめん影山凄い酔っ払っちゃって……」


「日向さん!」


「ほら、影山!!家着いたぞ!!」


「………ん……?」


「だめだこりゃ。リビングまで連れてくから靴脱がしてやってくれる?」


「はい!」


ずるずる飛雄さんを引きずって、ソファーに横たえる


「ふー。こんなに酔っ払った影山見るの初めてだよ」


「え、そうなんですか?」


「うん、いつも全然平気そうな顔してる。見た事ない?」


「私いつも寝てる時間に飛雄さん飲んだ後帰ってくるので…」


「そっかそっか!……じゃああとお願いしていい?」


「はい!ここまでありがとうございました!」


「いえいえ、じゃあまたね!」


にかーっと笑う日向さんは名前の通り太陽のような人だ。見ているだけで明るくなれそう。


リビングに戻って、飛雄さんへ水を渡す


「飛雄さん、飛雄さん」


「……名前?」


のっそりと体を起こし、ソファーに腰掛ける飛雄さん


「はい、名前です。お家ですよ。水飲んでください。」


「んー………」


私の手から水を受け取り、飲む飛雄さん


な、なんか……真っ赤な顔に相まってごくごく動く喉が……色気が凄い……


なんだか直視出来なくて思わず顔を逸らす


「……名前」


「へ?あ、ちょ!!」


ひょいっと持ち上げられて、気づけば飛雄さんの膝の上


な、な、な!?え、ちょ、何事


ぎゅううううとそのまま抱きしめられて、もうパニック。


「とととと、飛雄さん!?!?気を確かに!!!」


「名前は、ずっと俺の飯を作っていてくれ」


「はい!?」


「ずっと、ずっと。」


ぐりぐりと肩に頭を埋める飛雄さん。何かあったのだろうか、なんだか弱ってるように見える


「飛雄さん?……何かあったんですか?」


「…………幸せすぎる」


「ん??」


「幸せすぎる、終わらせたくない」


むすーっとしたまま言う飛雄さん


私だって、そんなの私だって幸せだ。飛雄さんとの生活は本当に心地が良い。


いくら酔っ払った状態での発言とは言え、飛雄さんも私の事少しは一緒にいて心地良いと思ってくれてるって自惚れてしまう


嬉しい。でも私と飛雄さんの感情は恋愛感情では無いのだろう。恋愛感情でないなら、いつかは終わりが来る。何故なら私と飛雄さんは家族じゃないから。


でもそんな事こんな弱ってる飛雄さんにも言えず、


「……いますよ、ここに」


サラサラの黒髪を撫でることしか出来なかった。


いつかは私も貴方から自立します。と言う言葉は胸の奥にしまって。
いつかいつかの事


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