「…………うぅっ……ん……?」


「あ、おはようございます、飛雄さん」


「家……?」


「はい、日向さんが連れて帰って来てくれました。もう夜中なんで早くお風呂入って寝て下さい!明日も練習ですよね?」


「そうだった……風呂行ってくる」


「いってらっしゃいです!」


ふらふらとお風呂場へと向かう飛雄さんを見送る。足取りが覚束無いが大丈夫だろうか。


今は夜中の1時。あれから飛雄さんは私を抱きしめたまま寝てしまい、大変困った。


なんとか抜け出して、ソファーに寝かせる事には成功したが、起こしても起こしても起きてくれなかったので、そのままにしておく事も出来ず、起きるまで私も隣で起きていた。


お陰で非常に眠たい。お弁当作り、起きれるかな。いや今からもう作ってしまおうか。いやそうしてしまうと飛雄さんのお見送りが出来なくなる、それはいけない。


土日の練習の時しか私はお見送りが出来ないので、大事にしたい。仕方ない、もう朝まで起きていよう。今寝たら起きれなくなる。


ふあぁ、と欠伸を噛み殺しソファーに腰を下ろした。





「………名前?」


「………!!!」


危ない、寝そうだった。と言うかちょっと寝てた。危ない!!


「先寝てて良かったぞ」


「いや……今寝ると朝起きれないなと思って」


「……弁当か。無理して作らなくてもいいからな?」


「いえ!私の仕事なので!!」


これは譲れない、私の大切な仕事なのだ。なんとしてもお弁当を作り上げ、飛雄さんのお見送りが済むまでは寝ない!!


「でも、眠いだろ」


「我慢します!」


「駄目だ、寝ろ」


「寝たら起きれないです……!」


「俺が起こしてやるから、寝ろ」


「飛雄さんが起きてくる時間じゃ間に合わないですよ、お弁当」


「………うぬん…」


なんだその鳴き声、初めて聞いた。


「私のことはいいので、飛雄さんは寝て下さい。私は飛雄さんが朝行ってから寝るので!」


「……………わかった」


良かった、納得してもらえた。笑顔で飛雄さんを寝室へ送り出す


「おやすみなさい!」


「ん、おやすみ」


バタン、と寝室の扉が閉まったことを確認し、どうやって朝まで起きていようか考える。


テレビはうるさいから辞めよう。飛雄さんの安眠の邪魔だ。


スマホ………はイマイチまだ使い方がわかってない。絶賛友人から勉強中なのだから。


どうしよう、どうしよう………と考えている間にどんどん睡魔は襲ってきて。


なんとか抵抗していたが、気づけば私の意識は睡魔へ落ちていった。





「っ!?」


「起きたか」


ばっ!と飛び起きる。すると何かから落ちそうになる。


「っと、危ねぇだろ」


至近距離の飛雄さん、え、何。何が起きてる。


よく見れば私は飛雄さんに抱き上げられていた。お姫様、抱っこ。なな、なん、なんで!?


「飛雄さん!?なんで、ね、寝なきゃ!?今何時、」


「心配すんな、俺がリビング出てから10分しか経ってない。」


「……10分で私寝ちゃったんですか…」


「だろうと思った。諦めて寝ろ、明日の弁当はいいから。
………たまには休んでくれ。」


優しくベットに横たえられ、布団をかけられる。飛雄さんは本当に優しい、優しすぎる。まともに仕事も全う出来ない居候で申し訳ない。


「ごめんなさい………寝ます」


「おう、おやすみ」


ゆっくり頭を撫でられる。なんだかとても気持ち良くてそのまま私は睡魔に身を任せた。





目が自然と覚める。目覚ましの音で起きないのは随分久しぶりな気がする。


時計を見ると午前10時。ね、寝すぎ……!?


飛雄さんは当然もう行ってしまっただろう、お見送りも出来なかった……


せめてもの償いに今日の夕飯はポークカレーにしよう。飛雄さんが好きだから、温玉も忘れずに用意しなくては!


顔を洗ってパジャマから着替える。さて、今日は何しようかな。なんて考えてるとリンリン鳴るスマホ。


ちゃ、着信だ!!出なければ!


誰からだろうと覗き込むと美羽さん、と書いてある。少し久しぶりだ


「もしもし!」


「もしもし?名前ちゃん?」


「はい!」


「ふふ、元気そうね」


「元気です、どうしたんですか?」


「今日、暇?」


「はい、暇です。」


「買い物付き合ってくれない?飛雄いる?」


「飛雄さんは練習なのでいないです」


「そっか……荷物持ちがいないのはちょっと残念だけど、たまには女2人で出かけるのもいいわよね!」


飛雄さんは荷物持ちなんだ……確かに前回買い物へ行った時も持たされた袋に埋もれていた…


「今から迎えに行ってもいい?近くにいるの」


「は、はい!急いで準備します!」


「ゆっくりでいいわよ、まだ20分くらいはかかるから。」


じゃあまた後でね、と切られた通話。


急いで外に出られる格好をする。お化粧はまだ少ししか出来ない、美羽さんにちょっとだけ教わったのだ。


今日、もう少しだけちゃんと教わってみよう。もっともっと綺麗になりたい。そうしたら、


そうしたら飛雄さんと見合う人になれるだろうか。


なんて考えて、なんで?なんで飛雄さん?と自分で疑問に思う。確かに飛雄さんはかっこいいから見合う人って綺麗な人だろうけど。


きっと飛雄さんの彼女になる人はとっても綺麗な人なんだろう。美男美女。


至極当たり前の事だし、ずっと前からわかっていた事なのに、なんで今こんなにモヤモヤするのだろう。


優しい飛雄さんを取られたくないのだろうか。でも彼は恩人とは言え、家族ではない。一緒にいる理由が限られているのだ。


いつかは離れる、わかってるのに。私ではない誰かと一緒にいる飛雄さんを想像すると、胸がモヤモヤ、チクチクする。


なんだろう、これ。知らない感情。これも美羽さんに相談してみよう。なんと言っても頼れるお姉さんなのだから。
どうしたら優しいあなたに追いつける?


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