ガチャ、と玄関の鍵が開かれる音がする


か、帰ってきた!!


玄関へ走って向かう


しかし、好きになってしまったと自覚してから会う緊張感からか足がもつれ、


「ただい………!!っと…大丈夫か?」


「ごごごごご、ごめんなさい!!!」


家に入ってきた飛雄さんに受け止めさせてしまった。咄嗟に受け止めてくれる優しさと力強い身体に顔がぼぼぼっと熱くなる。燃えそうだ。


急いで離れる、それはもう光の速さで。


「いや、大丈夫だけど……顔、赤いぞ。熱あんのか?」


心配してか、おでこに手を伸ばされる


しかしその手を反射的に避けてしまった


「だ、大丈夫ですから!!ご飯準備してきます!」


「………。」


ぽかんとする飛雄さんを玄関に残して、私はキッチンへと戻った。





「お、カレーか。」


「はい!今朝はすいません、お弁当もお見送りも。」


「いい。たまには休め。……あと、昨日って俺どうやって帰ってきた?」


「えっ?」


「……その、記憶、なくて。……今日日向に散々大変だったって言われて、なんの事かわかんなかった」


「あ……昨日の夜は日向さんが飛雄さんを連れて帰って来てくれましたよ」


「…………クソ」


苦虫を噛み潰したような顔をする飛雄さん。なんで。


「日向さんは飛雄さんをソファーに寝かせるまでしてから帰っていきました。」


「そっか……わかった、……俺その後すぐ寝たか?ソファーから起きてからの記憶はあるんだけど」


「えっと日向さんが帰ってからは………」


水を渡して、……………………………抱き上げられて、抱きしめられ………………



「すぐ!!!すぐに寝ました!!!」


「え、お、おう、そうか」


急に叫び出した私に戸惑う飛雄さん。すいません、でも私の事抱き締めて寝ましたなんて言えるわけない。ましてや記憶の無い人に。


「なぁ、名前」


「はい!?」


「今日なんかあったか?」


「へ!?」


なんで、なんでバレた。私がおかしいからか、馬鹿野郎!!


「今日、なんか変」


「ぐっ…うっ…………そんなこと、ないですよ」


「そんなことあるから聞いてんだ」


「なんでもないですよ」


にっこり笑ってみる、なんとか誤魔化せないだろうか


「………?」


疑いの視線!!痛い!!めっちゃジトーって見てくる……!


「ほ、ほら、もうカレー出来るので食べましょう?」


「………おう」


納得してない顔をしてるが、私への興味はカレーに負けた。良かった、カレーよありがとう。





ふあぁっと欠伸を零す、そろそろ寝ようかな


「そろそろねま、しゅ!?」


飛雄さんに声をかけた所、顔を大きな手でむにゅっと唇が飛び出すような形にされた


「にゃ、にゃんでひゅか」


「やっぱりなんか変だろ、今日全然目が合わない」


そんないつも合ってましたっけ!?


「きのしぇいで……いだだだ!?」


手に力を加えられる、いだだだ!?


「嘘つけ」


パッと手を離される、痛かった……ほっぺた赤くなってそう……


「なんかあったんだろ」


「何も無いですよ?それじゃあおやすみなさい」


にっこり笑って寝室に競歩で向かう。あくまで自然に、あくまで自然に


「待てよ」


寝室の扉を開ける寸前で、扉に手をつかれて開けられなくなってしまった


振り返れば飛雄さん、ちょっとご機嫌ななめなお顔をしていらっしゃる


しかしながらそんな顔までかっこいい、と思ってしまう自分が一番タチ悪い。


「なんで隠すんだよ」


言うまで退かねぇからな。ともう片手も扉につかれて飛雄さんの両腕に挟まれる


くぐり抜けて逃げられそうだけど、飛雄さんの反射神経に叶う気が全然しない、一瞬で捕まりそう。


「ほ、ホントになんでもないですよ」


「じゃあなんで俺を避ける」


「避けてないですよ!?一緒にご飯も食べたじゃないですか」


「でもいつもより全然俺の方見てなかった」


え?ご飯中チラチラ見てたのバレてたの……!?


もぐもぐリスみたいに食べる飛雄さんが可愛くていつもバレないようにチラチラ見てた。バレてたんすか。


「そ、それは……たまたまですかね?」


「それに帰ってきた時も熱があんのかと思って触ろうとしたら避けられた」


「え、えっと……びっくりしちゃったんです!」


「いつもならビクッとするだけだろ。わざわざ避けたりとかしないだろうが。」


想像以上に飛雄さんは私の事をよく見ていた。それに驚きが隠せない。


「なんか、あったんだろ。………俺と住むの嫌になったのか」


「!?違います!!」


「じゃあ、なんだ」


ずいっと顔を寄せられる。ち、近いいい!!!


綺麗なお顔が目の前に来て、逃がさないと言わんばかりにジッとこちらを見ている


「う…………か、か…!」


「か?」


「かっこいいのが悪いんです!!」


「…………は?」


「飛雄さんがかっこいいから!!恥ずかしいんです!!」


「……かっこいいって、お前」


目をまん丸にしている飛雄さん。まさか自分がイケメンだと言う認識が無いと……!?


「お、俺がかっこいいかどうかなんて知らねぇけど、今日おかしいのはそれだけか?別に今日顔が変わった訳でもねぇのに」


「そ、それは……」


今日ちゃんと自覚してしまったから。なんて言ってしまったらこの関係はどうなるんだろう。


「………まぁ、いい。俺との生活が嫌になったとかそんなんじゃねぇなら。」


挟まれていた両腕がいなくなる。納得してくれたのだろうか、と飛雄さんを見上げれば、なんだか嬉しそうに笑う飛雄さん


「わっ」


そしてわしわしと頭を撫でてきた。


「さっさと俺の顔に慣れろよ」


なんて言って寝室へと行ってしまった。慣れるものか、あんな優しくてかっこいい大人に。


それにしても迷惑にならない程度に頑張るって言ったのに早速ご迷惑をかけてしまった。もはや何もしてないのに、かっこよ過ぎて避けただけなのに。


この恋が実る日なんて来るのだろうか。……考えるのを辞めよう、とてもじゃないが前向きに考えられない。
逃げられない


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