爆誕


「田中、お前にだけは言っておく。心の友だからな」


「……おう、どうした」


「私、恋愛を覚えた」


「!!!」


「すまん、一足先に……」


「……いや、謝るのは俺の方だ、苗字。」


「……?」


「つい最近、本当に最近だ。お前にも話すつもりだった。隠しているつもりは無かった」


「何、ハッキリ言いなさいよ」


「……彼女が出来た」


「…!?!?」


「名を、清水潔子さんと言う」


?????



「……?ごめん、ちょっと聞こえない。ね、ノヤっさん聞こえた?」


「いや、俺も聞こえねぇ。もうちょっとハッキリ言ってくれ、龍。」


「いやいつの間にいんだノヤっさん!?……き、潔子さんと、付き合った!!」


「「???なんて?」」


「だからー!!潔子さんと付き合ったんだよ!!俺!!」


???


どう頑張っても潔子さんと付き合った、としか聞こえない。そんなの有り得るはずないのに。


「ごめん、潔子さんと付き合ったとしか聞こえないんだけど」


「俺も。龍、幻覚見え始めたのか?」


「ちっげぇーよ!?ほら!!連絡先!!」


ノヤっさんと2人、田中の携帯を覗き込む。そこにあるのは清水潔子の文字


まさか、現実……?


そう、受け止めてしまったが最後、私とノヤっさんの目からは涙が溢れ出た


「うわああああん!!!旦那の座は私のだったのにいい!!」


「潔子さあああん!!俺の元に何故来ないんだあああ!!」


「うわぁ!?お前ら……すまん、抜け駆けして」


「「それはいい!!」」


「えっ?」


「うっ……ぐずっ……おめでとう、田中……」


「苗字…」


「……お前なら、きっと潔子さんを幸せにしてくれるだろ……っうっ」


「…ノヤっさん」


「田中の恋が実って良かったと思ってる……でもそれはそれ…私たちの潔子さんロスは防げないいいうわぁああああ!!!」


ギャン泣きする私とノヤっさん。


次会った時潔子さんに祝福出来るだろうか。否、無理だな、考えるだけでギャン泣きが加速する


「うわああ!?あ、ありがとな2人とも。でも一旦泣きやめ!?」





「それで?その真っ赤な目ですか」


「……うん」


「その話したの昼ですよね?なんで部活まで目が赤いんですか」


「授業中も泣いてた」


「うわ……」


「先生に心配されたから、私が(心の中で)飼ってる(初恋と言う名の)ポチが死んでしまったので泣いてますって言った」


「馬鹿ですか?」


「んだとコラァ!?ツッキーには私の気持ちなんてわかんないでしょ!?」


「わからないし、野生児の気持ちなんて……」


「やんのかコルァアアア!!!」


「やりませんよ、飛びつくなら俺にしてください苗字さん」


「あ、飛雄ちゃん!!ちわっす!」


「ちわっす。」


「ほら、僕に構ってると王様が怒るから辞めなよ。シッシッ」


「私いつかツッキーの眼鏡かち割る」


「やれるものならやってみなよ」


「きぃいぃぃぃぃ!!!」


「うるさいっすよ苗字さん」


そう言われて抱っこされ、頭を撫でられ宥められる。あれ?旭さん??




飛雄ちゃんと卒業したら付き合おうと言う約束をしてから、飛雄ちゃんに慣れる特訓をしていた


綺麗なお顔を見つめてみたり(気絶するまで20秒)


壁ドンされてみたり(見た目はカツアゲ)


抱きしめられてみたり(一瞬で気絶)


耳元で話されたり
(一瞬で気絶、その上鼻血にて出血多量)


飛雄ちゃんは顔だけじゃなく、声もいいし、スタイルもいい


そもそも人より耐性が無い私からしたらいきなりハードモード過ぎやしないか??


「……苗字さん」


「びゃっ!!」


現在は飛雄ちゃんの長い長い脚の間に正座している。そこに飛雄ちゃんが後ろから抱きついている。


ドッドッドッドッと心臓が全力で働く。顔を見なくても、特訓中に見た飛雄ちゃんの美人なお顔が過ぎって緊張する


因みにここは我が家だ。スポンサーはお父さん。


学校では触れ合うのはダメだとなり、このような結果になった。大抵飛雄ちゃんは私とこうやってくっついたりゴロゴロしたら、一緒にご飯食べて家に帰る


「……あれ?これもう付き合ってない?」


「何言ってるんすか、付き合ってないっすよ」


「だって、やってること恋人がやるやつじゃね?」


「……?家来るぐらい普通じゃないんすか」


「いやいや、この距離感」


「…………付き合ってないっすよ」


「嘘こけ!?今ちょっと自分でも思っただろ!!」


「だって!!付き合ってる距離感って認めたらこれもダメになるじゃないっすか!!」


「ダメだよ!!はい!離れる!!」


「下心無いんで!苗字さんの特訓の為だけなんで!」


「下心?何それ」


飛雄ちゃんにそんな欲求無いでしょ?バレー出来るだけで幸せなバレー馬鹿じゃん?


「………俺だって男っすよ」


「見りゃわかるよ」


「男はオオカミって言うじゃないですか」


「飛雄ちゃんはバレー馬鹿でしょ?」


「……まぁ、そうっすけど。それとこれとは違います」


「そ、そうなの…?」


あれ、思ってた以上に私は飛雄ちゃんの気持ちがわかっていない?


「苗字さんの事は絶対手に入れたいし、誰にも渡す気無いです。バレーも大事ですけど、苗字さんも大事です」


「う、うぇ、あ、」


「あ、気絶しないでください!!」


「む、無理だよ、そんな口説くみたいな…、」


「口説いてますよ、そりゃ!全然俺の事振り向いてもらえてる気がしないから……」


流石に、心折れそうにもなります。なんて言って悲しそうな顔をする飛雄ちゃん


私は既に飛雄ちゃんにメロメロだ。なのに上手く伝わっていないみたい。大事な所ですぐ気絶するからだろう


いつも嬉しいや恥ずかしいなどの感情を与えてくれる飛雄ちゃんが、今悲しい顔をしている、それを見て胸がきゅっと痛くなった


私が、そんな顔をさせているんだ


私は自分から、飛雄ちゃんを抱きしめる。座った状態だから出来ることだけど。


「ううううううっ今、頑張ってる!!!気を失わないように頑張ってる!!!」


「え、ちょ、ならやめましょう」


「頑張って!!倒れないようにするくらいには!!飛雄ちゃんの事大好きだから!!」


「!!」


「上手く伝えられなくて!!ごめんねぇええ!!」


私は飛雄ちゃんが楽しそうに笑う顔が好きだよ


だからそんな顔、させたくないし、見たくない。


私は飛雄ちゃんの笑顔を守るよ
(飛雄セコム誕生の瞬間)


「飛雄セコムに……私は…なる……」


言いたいことだけ言って、結局限界が来た私は気を失った。


飛雄ちゃんは心底嬉しそうな顔をしていたなんて、知ることも出来ずに。

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