愛してたぜ


時が過ぎるのはあっという間で、気づけば桜の蕾がちらほらと見られる季節になった


基本的にふざけ倒すことが多い私達だったが、練習はしんどい事だってあったし、勿論部員同士でぶつかる事だってあった


それらを通して、またひとつのチームになるのだろう。


家族のように、愛せるチームになったのだろう。


私は幸せ者だった、彼らのような素晴らしい部員たちに恵まれて。


公式戦でコート内に入れたのはこの1年だけだったけれど、近くで見る彼らの頼れる背中に、最後の春高は涙が少しだけ出てしまった


終わっちゃったなぁ、大好きだった烏野高校排球部での生活


終わっちゃったな、3年間お世話になった烏野高校での日々


学校に行けば、田中と揉め、ノヤっさんも含めて3人でふざけて、力に怒られて。


旭さんに宥められて、スガさんは悪ノリしてくれて、大地さんに苦笑いされて


潔子さんに冷たい視線を向けられて、でも笑顔だって沢山もらった。マネージャーの全てを潔子さんからもらった。


そして2年生になったら飛雄ちゃん、ツッキー、山口くん、翔陽、仁花ちゃんの5人が入ってきて、


カッコよすぎる2人に引かれるくらいくっついて。でも本気で嫌がられなかったから、あのやり取り全部楽しかった


翔陽は怯えられる事も多かったけど、試合や練習で上手くいった時、一緒になって喜んだのは翔陽が1番多かったかもしれない


山口くんはとてもとても成長した。今は大地さんから力から受け継いだ1番を背負っている。どうかこれからの烏野高校排球部をよろしくね。そう言って抱きついた時にお互い泣いてしまった。


そして仁花ちゃんには潔子さんが私にくれたように、私が知り得るマネージャーの全てを託した。翔陽と仲良くしていってほしい。


「……楽しかったな」


「……おう」


「……だな」


卒業証書を片手に、ずっと馬鹿やってた3人で体育館に立ちすくむ


「皆、これからも大丈夫かな?山口くんしか止める人いなさそう」


「大丈夫じゃねぇ?後輩たちもしっかりしてるし」


「だな!!俺たちは信じて、卒業しようぜ!」


「……うぅううう!!ノヤっざぁああん!!」


「うぉっ!?どうしたどうした苗字!」


「……離れたくないよぉ」


楽しかった、楽しすぎた。全部全部。


でも中でもこの2人がいたから、私はずっと楽しかったのだ。


「また必ず会いに来る!!約束だ!……ありがとな、苗字。お前見てたら元気になること沢山あった!」


「これからも元気でいてくれよ?次会った時はまた馬鹿やろうぜ!!」


「……うん、絶対!!」


「ノヤっさん……元気でな、必ずまた会おうぜ」


「おうよ!!当たり前だろ!!……そうか!お前らは別れとかいらねぇのか!」


「そうなのよ、大学も田中と同じでね」


「おいなんだよその嫌そうな顔は!」


「っはは!!嘘嘘!嬉しい!これからも田中は日常的に会えるんだなーって。今の私のこと誰よりわかってる2人だからさ!」


「……おう、お前の扱いなら任せろ。気絶してもすぐ俺の顔を見せてやる」


「それなら心配はねぇんじゃねぇのか?苗字だいぶ克服しただろ?」


「おうよ!!もうツッキーが来ても飛雄ちゃんが来ても平気!」


「そうかそうか!!……っと、そろそろ行くか」


「おう!校門で写真撮ろうぜ!」


「いいね!!撮ろ撮ろ!」





「おーい!!苗字!田中!西谷ー!」


「「「スガさん!?」」」


「やっと出てきたー!なんだ?感傷的になってたのか?」


「あー……はい、体育館行ってました」


「なるよなー、俺もなったわぁ!…大地!!出てきたぞ!」


「大地さん!?」


「おう!卒業おめでとう、3人とも。縁下達とはもう会ったけど、お前ら全然出てこないから待ちくたびれちゃったよ」


「すんません!!」


「お、西谷ぁ、元気そうだな!」


「旭さん!!なんで!!?」


「卒業式には会いに行こうって決めてたんだよ。4人でな」


「4人……?」


「4人って……」


「卒業おめでとう、名前ちゃん、田中、西谷」


「きき、き、きききき」


「潔子ざん!!!!」


「あ、え?なんで、ここに」


「内緒にしてたの、びっくりした?」


「何いちゃついてんじゃゴルァ!?皆の潔子さんぞ!?」


「ちげぇよ!!もう、……そ、その…俺の、潔子さんだから」


…………………。



「……龍……幸せになれよ…」


「潔子さんと……お幸せに……」


「お前ら音も無く泣くのやめろよ!?」


「お前ら変わんねぇなぁ!?田中と苗字は同じ大学なんだっけ?」


「はい!大学行っても馬鹿やります!」


「元気でよろしい!……っと、苗字?待たせてるやついるんじゃねぇの?」


「……!?…え、なんで先輩達まで」


「月島から教えて貰った。……お前も幸せになるんだぞ」

ツッキー!?

「ちょ、結婚する訳じゃないんですから!?そんな親みたいな顔しないでくださいよ大地さん!?」


「いやぁ……あいつの事だ、なんか将来まで約束してきそうだぞ?」


「う、ううう………っふぅ、じゃあ、行ってきます!」


「「「行ってらっしゃい!!」」」




「………待ちくたびれましたよ」


「ご、ごめん。同級生とか先輩たちと話してた」


「先輩たちみんな来てましたね、……話せました?ちゃんと」


「うん、しっかり話してから、待たせてるんじゃないのって言われて来た」


「そっすか……卒業しましたね、苗字さん」


「しました。約束を果たしに来ました!」


「っはは、……俺のものになってくれますか?」


「はい!!よろしくお願いしゃす!!」


「……長かったっす。1年」


「ご、ごめんよ。でも慣れたから!抱きしめても大丈夫だよ!」


そう言うと腕を引かれ飛雄ちゃんに抱きしめられる


飛雄ちゃんの匂いでいっぱいになり、ドキドキうるさい心臓だが、大丈夫、意識はハッキリしてる。


「大丈夫っすか?」


「大丈夫です!!」


「……苗字さん、」


「何?」


「俺卒業したらVリーグ行くつもりです。進学しません。」


「え、そ、そうなの!?」


初めて聞いた、すぐプロになるんだ


「だから、その時苗字さんとの未来が欲しいです」


「ん!?」


「いいっすか?」


「え、ちょ、」


「ダメっすか?」


「だ、だめではないけど、」


顎を綺麗な手で掬われる


至近距離、綺麗な藍色の目とかち合う


かかか、かっこよ……


「じゃあ約束。次は俺の嫁さんになってくださいね。」


「え、え、」


近づく距離、あ、く、くっついちゃ、

後頭部を手で支えられ、身動きがとれなくなる私に飛雄ちゃんは喉を鳴らして笑う


「逃げんなよ?」


どっちの話だ、と思う頃には私たちの距離はゼロになっていた。


意識を失う寸前聞こえたのは「愛してます」と言う優しくて甘い声


私だって愛してる、これからはずっと飛雄ちゃんだけを愛していく。


でも今日までは、今までは


愛してました、烏野高校排球部。


fin.

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