耐性がないのです


「苗字!」


「はい!」


ドリンクとタオルの準備を終え、大地さんの元へ向かう


「スパイク練習入るから、ボール拾い頼めるか?」


「了解です!」


「…?苗字さんにボール拾い頼むんですか?いつもはいないのに」


「いるとレシーブし切れなかった分もちゃんと戻ってくるからいいんだよなぁ、あと苗字は反射神経いいからボール拾い上手いんだよ。」


「そうそう、よく見とけ?野生児の動きを」


「田中ァ!!聞こえてんぞ!!」


いつかアイツの髪の毛滅亡させてやる。ハゲじゃねぇ、坊主だ。なんて言えねぇようにしてやる。


「よし、行くぞ!」


トスが上がり、スパイクが来る


それをノヤっさんが綺麗にレシーブで返す。いつもの事ながらかっけぇよノヤっさん…!!


「よっ!!イケメン!!惚れる!!」


「おうおうおう!!皆まで言うなぁ!!」


「苗字しか言ってないぞー」


「すぐ調子乗るんだから…西谷は」


「次行くぞー!」


「「「あーす!」」」


トスが上がり、スパイクが来る


「っ!すまん!苗字!!」


ノヤっさんがレシーブをミスった。勿論全て取れるなんて思っていない。


その時のためのボール拾いだ。


「ふ、ふおぉおおおおお!!」


「どりゃあ!!」


「す、すげぇ…!!苗字さん足はえぇ!!」


「アイツの反射神経怖いんだよなぁ、ボール拾い試しにやらせてみたらあんな感じでプロになっちゃって」


「……取りに行ってる時の顔は見るに堪えないものでしたけどネ」


「なぁに月島くん」


「!?」


ズサァッと距離を取られる。なんだ、その手は私に対抗しようと言うのかね


「や、やめろ月島!!苗字と正面からやり合うな!!」


「…前から言ってましたけど、苗字さん腕持ってかれるとか、なんなんです?この人破壊神かなにかなんですか?」


「……。」


「え?」


「「「……。」」」


「ちょ、……なんで黙るんですか」


「……その通りだからだよ、月島。」


「苗字はなぁ、腕っ節が強ぇ女なんだよ!お前の細い腕くらい簡単に折れそうだ!な?苗字!!」


「人をそんな骨クラッシャーみたいな言い方しないでよノヤっさん!?折れないし折らないよ!?」


……たぶん


「まぁ、なんだ……とりあえず苗字が襲いかかってきそうになったら、まずは逃げる、正面から対応しようとするな。どこかしらやられる。」


「やりませんよ!?」


大地さん!?


「いやいや苗字ならやるだろ?そんで、この小柄さだ。背後に回って持ち上げる。」


ひょいっとスガさんに持ち上げられる


「抱っこしちゃえば苗字は大人しくなるもんなぁ」


旭さんに頭を撫でられる。


「苗字を落ち着かせる時はこの方法が的確だ。忘れんなよ、凶暴な猫を相手にしてると思っとけ」


「「あす!!」」


あすじゃねぇよ。


「おい田中ァ!!猫ってなんだ猫ってぇ!!」


「おーおー威嚇してんなぁ」


「こら、田中!苗字が暴れるから煽んなって!!」


スガさんの腕を振り払い、床に着地する。猫扱いされたんだ、田中にヘッドロックキメるまでは怒りが納まらない。


「お、おい、待て、苗字。悪かった。」


そう言いつつ私から距離をとる田中。今さっき私の対応策を目の前で聞かせて頂いたので、距離を取らせてやる訳がねぇだろ!!


「田中ぁああ!!」


ぐわっと田中に飛びかかる。日向くんの跳躍力も凄いが、私だってそれなりに跳ぶ。田中に飛びかかるくらいは出来る。


あと少しで田中に手が届く、そこで


「……駄目っすよ、苗字さん」


浮いた。私は。


否、浮かされてた。影山くんによって。


「な、ナイスだ影山…!この恩は忘れねぇ!」


「…うす。苗字さんを怒らせない事が1番ですね。」


「ド正論…」


「…おい、苗字!!大丈夫か!!?」


ノヤっさんの声が聴こえる。大丈夫、な訳があるか。


こんな近くでイケメンの顔を拝んでしまった。力強い腕に触れてしまった。声までカッコイイ影山くんに抱っこされてしまった。


「!?苗字さん!?苗字さん!?」


「おい、まずは苗字を離せ、影山!!」


「は、はい!!」


ゆっくりと体育館の床に降ろされる。降ろし方までイケメンとか……無理……


「苗字!!俺の顔を見ろ!!坊主を見ろ!!」


「……何やってるんです?あれ」


「あー……苗字はな、美形が男女共に好きなんだけど、その…耐性は無いんだ」


「耐性?」


「自分から話しかけたり、触りに行ったりするのは全然平気だし、むしろ得意なんだけど、美形側から近付かれるとあんな感じにでろでろに溶けちゃうんだ。」


「……めんどくさいですね」


「あはは…まぁ可愛いだろ?いつもは頭おかしい感じなんだけど、ちゃんとあーやって照れる事もあるんだよ」


「東峰さんは優しすぎるんじゃないです?」


「え!?そうかな…」


「あ、あの、それでなんで田中さんが苗字さんに顔を見ろ!って叫んでるんですか?」


「それはな?日向。イケメン耐性が無くてへばっちゃっても、フツメン以下を見ると治るんだよ。」


「えっ……」


「それって田中さんに失礼なような……」


「あはは!まぁもうあの役目は田中の仕事だからなぁ、だいぶ前西谷に急に近づかれてあーなっちゃって、西谷が大丈夫か!ってずっと声掛け続けたらそのまま意識飛んじゃってさー!!」


「「(スガさんめっちゃ笑ってるけど、笑い事じゃない…)」」


「うっ……たな、か……?」


「おう!俺だ!!フツメン以下の俺だ!!」


「私…なんで…」


「影山にやられたんだよ!!」


「やられたって……」


「あ、そうだ…私影山くんに抱っこされて………イケメンで……」


「あ、おい!!苗字!!帰ってこい!!」


「苗字さん!?大丈夫っすか!?」


影山くんに肩を揺さぶられる。あぁ、顔が、いいっ……


「顔が良い……あまりに良すぎて……死んでしまう……うっ」


「微妙に575キメてきてんじゃねぇぞ!!俳句かよ!!おい!!苗字!!」


「うわぁぁぁ!!!影山が苗字さん殺しちゃったよぉおお!!」


「うっせぇボケ!!殺してねぇわ!!苗字さん!?」





「……お騒がせしました」


「もう大丈夫?」


「はい、ちょっと休んだら治りました」


「そう。良かった……もう少し耐性ってつけられないの?」


「うーん……自分でもよくわからなくて。自分から近づくのは平気なんですよねぇ…」


「そうなんだよね……まぁ影山と月島の2人には気をつけておいて?今回の事もあって、わざと近づいてくることはないと思うから。」


「はい……気をつけます」

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