たまらん奴等
「ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!!」」」
今日の部活も無事終了した、残すは片付けのみである。
「潔子さん!ドリンクとタオル片付けてきます!」
「うん、頼んだ。」
余ったドリンクと使い終わった入れ物、そしてみんなが使ったタオルをまとめて持ち上げる
「あ、あの苗字さん!」
「うん?どうしたの日向くん」
「手伝いましょうか?沢山持ってるんで…」
「え?ありがとう!!でも私力には自信あるから大丈夫だよ!」
「そうそう、扉ぶち抜くくらいにはなー!」
「田中?」
気づけば私は荷物を置いて田中に飛びかかっていた
「…扉ぶち抜くって?」
「やだなぁ、月島くん。私がそんな野蛮な事する女の子に見えるの?」
「見えます」
ぐわっ!と今度は月島くんに飛びかかる。1年だろうと手加減せんぞ、お前の腕1本折ったろか
「ほらほら、落ち着いて苗字」
しかし飛び上がったところを旭さんに捕まえられる。旭さんは優しい人だ、私の事をからかわないし怒らないので大好きである。
「あの、扉ぶち抜くって何の話ですか?」
わらわらとみんなが集まる。や、やめてくれ私の野蛮人説が浮上するではないか。
「苗字が2ヶ月部活謹慎してたのはこの間聞いたよな?」
「はい……ノヤっさんみたいに何かしちゃったんですか?」
「苗字はなぁ、西谷と旭が言い争って花瓶を割って西谷は謹慎になったんだけど、その時に居合わせていて、花瓶を守ろうとしてスライディングしたんだ」
「「「(何故スライディング……)」」」
「その結果、花瓶には手が届かず落ちて苗字自身は校長室の扉ぶち抜いて中にあった机いくつかひしゃげさせたんだ。それで謹慎2ヶ月に。」
「いやぁ、流石に痛かったよ、扉ぶち抜いちゃったしね」
「……扉ぶち抜いといて痛かったで済むなんて、苗字さんの頭は超合金か何かで出来てるんですか?」
「ん???」
「月島ぁ!苗字を刺激しないでくれよ!」
「でも、怪我は無かったんすか?そんだけ派手にやっといて」
「うん、無傷。私昔から力と体が強いんだよねぇ、物理に強いって感じ!」
「物理に強いって……かろうじて人間の意味が分かった気がします」
「なんか言った?山口くん??」
どうして最近会ったばかりの1年生にまでそんな扱いを受けているんだ私は
「ほら、そろそろ片付けろ!鍵閉めるぞ!!」
「あ!やばい、まだドリンク達片付けてない……旭さん!降ろしてください!」
「あぁ、ごめんな?」
降ろしてもらって荷物を回収し、駆け出す。お待たせする訳にはいかない。急げ!
◇
急いで制服に着替えて荷物を掴み、外へ出る。片付けに手間取ってしまい、いつもより時間がかかってしまった。
私の家は父子家庭だ。父と私の二人暮し。母は私が小さい頃に病死した。記憶なんてほとんど無い。
父は私を育てる為に家事と仕事を両立させてくれたのだ。
しかし私はもう高校生。できる事も沢山増えた。なので現在は家事は出来る範囲で私がやっている。
遅くなってしまうと夕飯の支度まで遅くなってしまうので全力で走って帰るのだ。
「っ!?苗字さん?」
「あっ!影山くん!お疲れ!!」
「ちょ、そんな走ると危ないっすよ!?」
「大丈夫!!私風になるから!!」
「は!?」
影山くん、心配まで出来るなんて素晴らしい男の子だ。きっとモテモテだな、女の子に囲まれてタジタジしてる影山くんを想像する。……うん、可愛い。ご飯3杯いける。
ズサァァっと音を鳴らして家の前で止まる。うん、思ったより早く帰って来れた!
「ただいま!!急いで準備するね!?」
「おぉ、おかえり。ゆっくりでいいぞー」
いつも通りのんびりした父の声を聞き、私はエプロンを身につけた。
◇
「行ってきます!」
誰もいない家に向かって叫ぶ。父はもう仕事へ行ってしまった。毎日行ってきますを言うのは習慣である。言わなくなってしまうと、なんだか寂しくて。
少し家を出るのが遅くなったので昨日同様走って学校へ向かう。朝練に間に合わないと大地さんに怒られてしまう。
すると前方にほっそりのっぽなシルエット
「おっはよーーう!!月島くん!!」
「うっ!?…おはよう、ございます」
勢いのままに飛びついたが、なんとか堪えてくれた。ふむ、中々良い筋肉ではないか。
「今日もお肌つるすべだねぇ!触っていい?」
「いいわけないでしょ」
「え?我先輩ぞ?」
「……いいわけないじゃないですか」
「いいじゃん、減らないし。」
「減りませんね、僕のストレスは増えますけど」
なんて会話しながらでも、私を引っつけたまま歩き続ける月島くん。中々やるな。
「おはよう!ツッキー!……なんかついてるよ?」
「おはよう山口。たぶん生霊か地縛霊かな」
「殺すな!?おはよう!山口くん!!……そのツッキーって呼び方いいなぁ私も呼んじゃおうかなぁ?だめ?山口くん」
「なんで僕に聞かないわけ?」
「え?われせんぱ「聞 か な い ん で す か?」」
「だってツッキーは絶対ダメって言うじゃん」
「もはや山口も許可してないのに勝手に呼んでますよね。聞く意味。」
「聞かなくても呼んでくれていいって?ありがとう!優しいね!!ツッキィイイ!!」
「……はぁ」
「ツッキー…!朝から凄い疲れた顔してるよ……!」
「理由わかる?」
「……割と見たら」
「……たぶん正解」
「ん????」
「ほら、学校着くんで降りてください」
「あ、ごめん、運んでくれてありがとねー!」
ツッキーから降りて、部室へ走る。潔子さんはもう来てるだろうか
「おはざーっす!」
「おはよう、苗字」
「スガさん!!今日いい事あったんです!」
「お?どしたどした?」
「ツッキーにツッキーって呼ばせてもらえるようになりました!!」
「……月島がいいよって?」
「聞くまでもないでしょって!!」
「……そうか、ヨカッタナー」
「はい!!」
スガさんの奥で既に練習している影山くんと日向くんを見つける
影山くんは今日も素晴らしいスタイルを誇っている。何より私が好きなのはあの腰だ。細い腰。抱きつきたくなるフォルムをしているので、私はいつも欲望のままに飛びつくこととしている
「かっげやーまーくん!!」
「うぉ!?」
ツッキー同様後ろから飛びつく。うん、ツッキーより体が厚くて飛びつきやすい。そして細い腰。たまらん。びっくりした顔もかっこいいし、つるすべほっぺは健在だ。
「おはようございます、苗字さん」
「おはよう!影山くんは私が飛びつくのに慣れてきた感じだね?」
「流石に毎日来られたら……」
「ツッキーにはね、飛びつく度に毎回抜かりなく、なんだお前って顔されるよ」
「……でしょうね」
なんだその顔、目死んでるよ?
「苗字さん!おはざっす!!」
「日向くん!!おはようー!」
影山くんから降りて、日向くんにぎゅっと抱きつく。うん、これくらいのサイズ感が抱きつきやすかったりする。
皆のっぽ過ぎて木登りしてるみたいだ。
「あの、苗字さんって皆にこうやって抱きついて挨拶するんすか?」
「え?する訳ないじゃん。」
「……それは何言ってんだって顔するんですね」
??する訳ないじゃないか、特に田中には
「ノヤっさんにはよくやるよ?あとスガさんとか。旭さんは持ち上げられるし……力にはたまにタックルはするけど……それくらい?」
「じゃあなんで俺達には?」
「えー……なんでだろう。影山くんは細腰がたまらんし、ツッキーは顔がたまらんし、日向くんはサイズ感がたまらんからなぁ」
「……。」
「え?」
なんで黙るの?
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