物理に強い
着きました。仙台市体育館。
今日から春高予選が始まる。心配も弱気な気持ちも家に置いてきた。今持ってるのは勝つ自信と皆への信頼。
「翔陽、もう緊張はしてない?大丈夫?」
「大丈夫です!早く、試合したいです」
そう話しながら、駐車場から体育館へとみんなで向かう
高校生が沢山いて、大会なんだなぁと感じさせられる。うっ私の方が緊張してきたかもしれない…
「苗字さん、顔青いっすけど大丈夫っすか?」
「ひょえっ飛雄ちゃん!!……うん、大丈夫」
「あ、すんません」
突然のイケメンに1発KOキメられそうになったが、なんとか持ちこたえる。
「飛雄ちゃんは全然緊張しないよね、やっぱり場数が違う??経験値の差?酸いも甘いも知ってきた感じ?」
「…その言い回しやめてもらえますか」
今日もツッキーには劣るが冷たい視線、ありがとうございます!
「おーい、ちゃんと前向いて歩けよ、自転車とかもいるからな」
「「うす!」」
会場に近い学校などは自転車で来たりもする。なので入口や駐車場は割と混雑しているのだ。
すると、
「おい!!前見ろ!!」
「えっうわぁっ!?」
知らない学校の人がこちらに自転車に乗って向かってくる
片方がこちらを見ていなくて、真っ直ぐこちらに直進してくる
飛雄ちゃんに、ぶつかる
「っぬぉあぁっ!!」
「!?苗字さん!?」
ガッシャーン!!
咄嗟に飛雄ちゃんを突き飛ばして自転車から遠ざける。大事なうちの選手、傷つけられてたまるものか。
その代わりと言ってはなんだが、私が自転車と正面衝突した。痛い、当たり前だが痛い。
「!!何してんすか!」
「ご、ごめん飛雄ちゃん!!つい突き飛ばしてしまった!大丈夫?自分で言うのもなんだけど、ゴリラ級に力強い私が突き飛ばしたけど大丈夫??」
むしろ自転車と衝突するより酷い怪我させてたらどうしよう……
「大丈夫ですよ!それより苗字さん、怪我…」
「大丈夫!?名前ちゃん!」
「全然大丈夫ですよ!私物理に強いんで!!」
「あ、あの、すいませんでした…!」
「医務室行きましょう!」
ぶつかって来た他校の生徒達に言われる。皆はさっさとアップ入らないといけないので、先に行くよう大地さんにお願いした
「っでも!!」
「影山、苗字自身が大丈夫だって言ってんだ。……すぐ戻ってこいよ?」
「はい!」
コーチに引きずられていく飛雄ちゃん。心配掛けてしまった。物理に強いとは言え痛いものは痛いし、血だって出る。現に顔や腕、膝などから出血してるし、衝撃からか手足は震えている
この程度の怪我、今までだって沢山してきたから平気だとわかっている。でも痛みからの苦笑い、震え等までは隠しきれなくて、恐らく飛雄ちゃんには見られてしまっただろう
そりゃあそんなもの見せられて心配するな、なんて無理な話だ。一刻も早く元気な姿を見せて、プレーに支障など出ないようにしなくては。
◇
「……。」
「影山、心配になる気持ちはわかるけどあいつなら大丈夫だ」
「田中さん…」
「あいつの逞しさ知ってるだろ?扉ぶち抜いてもほぼ無傷だぞ?」
「…でもだからこそ、それだけ頑丈な苗字さんが震えてました」
「人間としての反応じゃね?ほら、理科とかでやるだろ。反射とか反応とか。そういうの。あいつも一応人間だしな!!」
「田中さんは苗字さんに対する扱いがブレないっすね」
「お前らとは経験値が違うからな、あいつから受けた傍若無人な振る舞いの数が」
「……。」
「あ!!影山!苗字さん戻ってきたぞ!!」
「っどこだ!」
「飛雄ちゃーーーん!!!こっち向いてーー!!キャー!!かっこいーー!!!!」
「……元気っすね、全然」
「ほれ見ろ、あいつは物理に強いんだよ。大体なんとかなる。」
「なんで田中さんがドヤ顔…。」
「飛雄ちゃーーーん!!!」
「あ、あの名前さん、影山くん凄い顔してますけど……」
「ね、あれってどういう顔かな?照れるだろ馬鹿野郎かな?嬉しいぞこの野郎かな?」
「……今すぐやめろ馬鹿野郎ですかね」
「!?」
仁花ちゃん……飛雄ちゃんがそんな事私に思う訳……あれ?マジ?
「…飛雄ちゃんに嫌われたくないからやめとこ」
「!!(名前さんに辞めさせるなんて凄いよ、影山くん!)」
「嫌われちゃったらもうあの腰もお顔も触らせてもらえないしね」
「……。」
「?……仁花ちゃん?」
「え、あ!はい!!…そういえば名前さんさっき、よく咄嗟に影山くん突き飛ばせましたね?」
「私反射神経は良いからね!あと体も丈夫だし!!」
「(野生児…?)」
なんでだろう、さっきから仁花ちゃんに失礼な事を考えられている気がする。
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