飛雄くんに連れられ、コートに戻ってきてから、


それはそれはもう、阿鼻叫喚だった。


ん…?成人済みしかいないはずなんだが…?


と疑いかねない程の騒ぎよう。特に侑さんと日向くんとぼ、木兎?さん


それらに対して、特に日向くんに対して飛雄くんは罵声を浴びせ、治くんは侑さんをたしなめる。それに反抗する侑さん


木兎さんに至っては「無事良かったなぁ!!ヘイヘイヘェェエイ!!」ってしてるだけのようだ。


ヘイヘイ星から来た人なんだろうな。


星海さんに至っては、とりあえずスパイクだけでも見せてやる!!と意気込み、トスを求めたが、


セッター2人が騒ぎの中心となっており、トスを上げてくれないことにへそを曲げ、怒り狂っている。何故。


ぎゃーぎゃーと騒ぐ皆さん。でも、最初は私のことを心配してくれた訳だし…ありがとうとは思うけど…


そっと中心から離れ、壁際に座り込む。時計を見れば20時を指していた。私そんなに寝てたんだ、と驚く。


さて、どうしようか。流石に周りが見えていなさそうな巨人の群れに入る危険性は考えなくてもわかる。また怪我なんてしたらこんな騒ぎの比ではなくなるだろう。


はぁ、そろそろ皆帰らないとじゃないのかなぁ。と思いながらため息をつく。



「…大丈夫、すか」


突然話しかけられる。声のするほうを見たら、ウシワカさんがいた。あれ、ウシワカさんって本名なんなんだ。ウシワカなんとかさんなのかな。


「あ、えと、…大丈夫、ですかね?」


「…あいつらが騒ぐのはいつもの事です。暫くしたら収まります」


「あ、そうなんですか。えっと、ウシワカさん?ですか?」


「…その呼び名はあまり好きではない。」


「ご、ごめんなさい!!」


慌てて謝る。やはりニックネームだったか、申し訳ない。


「いや…、牛島若利。」


「牛島さんですね、すいません不快な思いさせてしまって。」


「大丈夫です。…その、年上なんだから敬語じゃなくても大丈夫です。」


「あ、えぇっと、じゃあ…敬語はやめるね、牛島くん」


「うす。…影山の彼女なんですよね」


「う、うん。まだ実感無いけどねぇ」


あははと誤魔化すように笑う。今はもうあんなぎゃーぎゃーしてる人の彼女だと言うことに実感が湧かない。悲しきかな。


「付き合って日が浅いんですか?」


「そうなの、まだ1週間くらい。出会ったのはもっともっと前なんだけどね」


「…6年探してるって人ですか」


「えっ!?チームの人にも話してるの!?……恥ずかしいな、…その人です、私」


恥ずかしい。じゃあチームの人には一方的に知られてる場合もあるのか。うう、飛雄くんに見合ってない女でごめんなさい…


「…そんなに詳しくは聞いた事ないので、大して知られてないと思いますよ」


「…!そうなんだ、良かった」


どうやら私は顔を顰めていたらしい。牛島くんが気を遣ってくれた。


そういうの苦手そうに見えるのに、有難い


「牛島くんは今年何歳?」


「24歳です」


「そっかぁ、じゃあ皆より年齢が私と近いね、それでも4歳差だけど」


自分で言って自分でウケる。1番近くて4つ下かー、ウケるー!……はぁ。


「でも、苗字さん他のやつも言ってますけど、若く見えると思いますよ」


「え、そう?嬉しいなぁ。お世辞かと思ってた。」


牛島くんはきっとお世辞とか、言わなさそう。これは失礼かな?


「いや、違くて。本当にそう見えますけどね、…俺は。」


あくまで自分の意見だ。と主張するあたり信用出来る。素直に嬉しい。


牛島くんとお話するのは案外楽しく、グイグイ来られない分考えるのに時間がかかる私にはちょうど良い話し相手だった。


「名前さん!!」


「あ、やっと戻ってきた」


「す、すんません…」


「あはは、大丈夫。牛島くんが話し相手してくれたの。」


「…あざっす」


「気にするな。…だがいい加減すぐ収拾つかなくなるのはやめろ。」


牛島くんがその他にも騒ぎ立てていた彼ら全員に向けて言った。


皆ギクッとしてすいませんでした。とこちらに頭を下げる。


「もう20時だよ……って私がずっと寝てたからなんだけど…そろそろ帰る時間じゃないかな?」


「せやなぁ、もう今日は帰らなかんな。苗字さん明日も来るん?」



「あー、えっと…飛雄くんが良ければ、今度こそちゃんと練習の様子見せてもらいたいです」


チラッと飛雄くんを見上げながら言う。だ、だめですかね…?


「いいっすよ、明日一緒に来ましょう。……今日、家泊まって行きますよね?」


「いいの?……って言っても勝手にそのつもりで東京来ちゃった」


ホテルなんか予約してないし、泊まるのを拒否されたら泣いて宮城へ帰ろうと思ってた。良かった、拒否られなくて。


「……いつでも来ていいっすから。俺も名前さんいると嬉しいんで。」


柔らかく微笑む飛雄くん。キュンっと胸が鳴った。


「飛雄くん……そんな笑い方出来るんやな……!」


「そうなんですよ、侑さん。影山は高校生の時から苗字さんの前ではめっちゃ笑うんすよ!!」


「まじかぁ、恋は偉大やなぁ」


そう言ってこちらをにやにやしながら見る日向くんと侑さん。なんだか居た堪れない気持ちになる。


「と、飛雄くん」


「?」


「もうそろそろ、その、帰りませんか!」


これ以上ここにいてもまた冷やかされるだけだ。無意識にいちゃついてるみたいなので、早急に移動したい。


「…帰るの俺の家なのに、名前さんに帰ろうって言われると……一緒に住んでるみたいっすね」


なんて爆弾発言を投下してきた飛雄くん。



無事私は爆死した。



「なっぬぁっにゃっ……帰るよ!!!!」


皆の前で盛大に動揺し、狼狽え、挙句の果てに私は逃げ出した。



「あらら、彼女行っちゃったけど、飛雄くん行かなくてええの?」


「や、たぶん家までの行き方1回じゃ覚えられてないのでどこかで待ってると思います……けど、早く帰りたいんで、もう帰ります。お疲れっした。」


「おぉーお疲れぇー」


「お疲れ!!……苗字さんに明日改めて謝罪したいとお伝えネガエマセンカ。」


「自分で言えボゲェ」





荷物を慌てて取りに行き、外までは出れた。しかし、飛雄くんの家までの道がわからない。


仕方ない、と携帯のマップを開いて行こうとするが、どっちみち鍵がないので入れない。飛雄くん待つしかない。


それにせっかくここまで来た。一緒に家に向かうなんて中々経験出来ないことするチャンス、無駄にはしたくない。


そう思い、体育館の外で飛雄くんを待った


「名前さん!」


「あ……。ごめんね、先に行っちゃって。」


「いや、大丈夫っすよ。先に行ってなくて良かった。道分かんなくてもスマホ見たら名前さん行けそうだったから」



「そう思ったけど、鍵無かったよ。そもそもここに来ることになった理由を忘れてた」


あはは、と笑う。1回意識飛ばしてるだけあって、記憶も飛んでた。


「そうっすよね、…じゃあ行きましょうか」


「うん、急に泊まらせてもらってごめんね」


「いいっすよ、むしろ嬉しいっす、一緒にいられる時間作ってくれて。」


そう言って笑う飛雄くん。無邪気に笑う姿にまた胸がキュンっと鳴いた



飛雄くんの家までの道を2人並んで歩く



「夜ご飯、キッチン借りて作ってもいい?」


「!!いいんすか!」


「勿論!…材料今からスーパー寄って買いに行ける?時間遅いからもうやめといた方がいい?」


「大丈夫です、多少遅くなっても名前さんの飯食べたいです」


「期待に応えられるよう、頑張ります!じゃあスーパー行こうか」


「うす!!……俺今すっげぇ幸せっす。名前さんとスーパー寄って、一緒に買い物して、一緒に家に帰れる」


ふにゃふにゃ笑顔の飛雄くん。うぅっ可愛い。


普段はかっこいいのに、二人で話してると可愛くなるの、反則です。


ふと、隣に並び立つ飛雄くんの手に私の手が当たった


「あ、ごめん。近すぎたね」


そう言って少しだけ離れようとしたが、


その手を引き寄せられ、握られた。


恋人、繋ぎだ。


かぁぁーっと顔が熱くなる


「……嫌ですか?」


「…嫌じゃないデス。」


「…良かったデス。」



手を繋いだだけで真っ赤っかな二人とか、まるで中学生の恋愛だ


でも、私達はこれぐらいゆっくり進んでいけば良いと思う。空白の時間を少しずつ埋めることが出来たら。


大きな飛雄くんの手に包まれた小さな私の手


暖かな温もりを感じる手に思わずにやける


「ね、飛雄くん」


「…なんすか?」


「私も、今すっげぇ幸せ」


「!!……抱きしめたら、怒りますか」


「こ、ここで!?……それは、怒ります!」


「…そっすよね、じゃあ家に帰ったら抱きしめます。」


「!?」


そ、そんな宣言されてしまったら家に近づく度に意識してしまうじゃないか…!


彼が高校生だった時もこんなことがあったような…?とぼんやり思いながらも、大人になった彼に求められるのは高校生の時と変わらず、私の心を喜ばせてくれる。


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