それはそれでいい
飛雄くんの家からも練習所からも近いスーパーへ着いた。
この距離にスーパーがあるのは楽だなぁ、車持ってないなら尚更。良い場所に住めていると思う。
「夜ご飯、何がいい?……出来ればカレー以外で」
「!?……カレーはだめなんすか」
「カレーも良いけど……カレーしかほとんど食べてもらったことない!!」
「おにぎりも食べました!!美味かったっす!」
「ありがとう!!でもあれは料理と言えないでしょ…」
「そんな事ないっすよ。……カレー以外か…肉じゃが。」
「あ、いいね。私も好きだよ肉じゃが!」
「じゃあそうしましょう、お願いします。」
「任されました。じゃあまずはじゃがいもだね~」
肉じゃがに必要な材料を集めていく。じゃがいも…豚肉…豚肉は脂質が多いがアスリート的にそこら辺はどうなのだろう?
カロリーの調整とか行ってたりするのだろうか。……まぁ、本人が良いと言うならいいか。
玉ねぎも欲しい、人参も。あとは……待てよ、飛雄くんの家に調味料無かった気がする。
「飛雄くん、調味料って無いよね?」
「キッチン使った事ないんで、ないっすね」
ほらね!!
という事で醤油やみりん、料理酒や砂糖なども入れていく。砂糖は入れ物が無いけど…どうやって使おうか。
調理器具はあるのかな、計量カップはあると嬉しいけど…
「調理器具は姉ちゃんが用意したのがあるんで、たぶん大丈夫っす」
お姉さん!!!自らの弟が用意しないと見越しての行動、感謝致します……なんて見た事もないお姉さんに感謝しつつ、買い物を終わらせた。
荷物やお金は毎度の事ながら飛雄くんが持ってくれて、申し訳なさから、少しぐらい持つよ!!と食い下がってみたが
「じゃあ俺の手握っといてください。」
なんて言ってスーパーまで来た時と同じように恋人繋ぎをされた。あまりのスマートさに腰が抜けそう。再び感じる手の温もりに心臓がドッドッドッとうるさくなった。
◇
そして2度目ましてな飛雄くんの家に到着。
「お邪魔します!」
「うす、どうぞ。」
スーパーで購入した品々を冷蔵庫へ詰め、時間も時間で早急に飛雄くんへご飯を用意し、寝てもらわないといけないので急いで肉じゃが制作に取り掛かる。
「何か手伝う事あります?」
「うーん……じゃあ、気持ちよくお風呂入ってきてください !」
「……ははっ、わかりました」
何も手伝うことは無い、となんだか言いたくなくて、お風呂へ入ってきてもらうことにした。
それに対してニコニコ顔の飛雄くん。ご機嫌だ!
さて、私はのんびりしてられない。そもそも米すら炊いてなかった事に気づき、急いで米を洗う。
彼がお風呂から出て、一息ついたくらいで用意出来たら100点満点である。
よし、やるぞ!!と気合いを入れ、私はじゃがいもを1つ手に取った。
◇
「……いい匂い」
「うわぁ!!」
びっくりした!!蓋を開け、煮詰まり具合を確認していた所に飛雄くんが現れた。いつの間にお風呂上がったんだ。
「もうすぐっすか?」
「もうすぐっすよ」
「皿の準備してもいいっすか?」
「いいっすよ」
「…真似しないでください」
むーっと口を尖らせている飛雄くん。それはただただ可愛いだけなんだが、本人それをわかっているのだろうか。
「ごめんごめん、飛雄くんのっす、ってやつなんか真似したくなるんだよね」
「………じゃあ、やめます」
「えっ!?ごめんね?……そんな嫌だった…?」
「…違います。……敬語、やめます。」
「…………えっ?」
「もう、俺は名前さんの彼氏だから。敬語やめます。………だめっすか」
しっかり目を見て話す飛雄くん。美形過ぎる心臓への攻撃と凛とした声で耳への攻撃を受け、真面目に話されてるのに私はたじろぐ。
「……い、いいっすよ」
あ、また真似してしまった。そう思った刹那腕を引かれ、飛雄くんの腕の中に入る
「…名前。」
「?!」
よ、よびすてだ……!!
「改めてよろしくな、名前」
そう言い切るや否や顔を逸らす飛雄くん。良かった、恥ずかしいのは私だけでは無かった。
「…うん、よろしくね飛雄くん」
「…おう。肉じゃが出来たか?」
「でっ出来ました。」
「っはは、なんで名前が今度敬語になってるんだよ」
なんだか、タメ口で話されると緊張してしまう。新鮮な砕けた話し方にまたも心臓がドッドッと忙しなく動く。
け、敬語も良かったけど、タメ口は……もっといい!!
なんて飛雄くんに言ったら、何言ってんだって顔された。わかる、何言ってるんだろう。
つい、気持ち悪いことを言ってしまった…と項垂れていると
ぎゅうう、といつものように力を入れられ彼に抱き締められる
「やっと抱きしめられたっ……名前っていつも良い匂いするな」
そう言うと私の首筋に顔を埋め、すんすんと匂いを嗅ぐ
「ちょ、やめ、臭いからやめなさ……んっ!」
「!?」
「?!」
つい、飛雄くんの髪の毛がくすぐったくて変な声が出た。
その瞬間飛雄くんはバッ!と体を離し、私を凝視する
勢い良く体を離された私は変な声が出た恥ずかしさと凝視してくる飛雄くんの視線に困惑する
「…今の声」
「く、くすぐったかったの!!」
「そ、そういう事か…なんだ…」
なんだ???
疑問符が飛び交う私を置いて、飛雄くんは肉じゃが食べたい。と言ってお皿を用意しに戻る
なんだったんだ、私は置いてきぼりだ。
◇
「「ご馳走様でした!」」
「美味かった、やっぱり名前にご飯作ってもらうのいいな。」
「それなら良かった!また色々な料理教えるね?」
まだ飛雄くんのタメ口に少し動揺しながら会話を続ける。平常心、平常心。
肉じゃがも簡単なメモを用意し、彼でもなんとか作れるよう教える事に成功した。自分で作れた!という報告がいつか来るといいなぁ。
「あ!!もう22時だよ!?飛雄くん寝なきゃ!!」
「……名前は?」
「私まだお風呂入ってないし…」
「じゃあ待ってる」
ぐぅぅっ可愛いっっ、もはやここまで来ると心臓が動き過ぎて痛い。私の心臓よ、今日と明日は過労気味になる。どうか過労死しないでいておくれ。
「だめ、先寝てて?」
「……待ってる」
「だめ」
「……どうしても?」
しょんぼり顔の飛雄くん。いつからそんな母性本能をくすぐる技を覚えたんだ。
「……じゃあ急いで入ってくる。ベットには入っててね」
「おう!!」
こちらが折れると途端に元気になる飛雄くん。小悪魔だ。そしてまんまと折られてしまう私はただの阿呆だ。
明日も朝から練習に行かなくてはならない彼を待たせているため、私は急ぎ足でお風呂へと向かった。
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