アラームの音で目が覚める、良かった、今日はちゃんと予定通りの時刻まで眠れた。



帰りは長旅となる為、ちゃんと睡眠はとっておきたい。と考えていた、しっかり熟睡出来たあたり飛雄くんの家にも慣れてきたのだろうか。



「……ん、……おはよう」


耳元で掠れた色気たっぷりな声で囁かれる。朝から刺激的過ぎやしませんか。



「おお、おはよう!!朝だよ!!!」


「わかってる……」



何言ってんだ私は、朝からうるさすぎるだろう。



自分で自分にドン引きながら、ベットから出る。その際飛雄くんの腕が巻き付いてきたが、なんとかすり抜ける。



顔を洗って、朝食の準備をする。今日はデートだ。その事実からにやにやと朝から元気に表情筋が仕事する。もうちょっと爽やかに笑えたら良いのだが。



のっそりのっそり寝室から出てきた飛雄くんと朝ごはんを食べて、各々外へ出る準備を開始する。



顔面工事や髪型工事を完了させ、今日でこの家ともおさらばなので連れてきた荷物達をキャリーバックに詰めていく。



ぎゅっ



「えっ?」



「……帰るんだな。」


キャリーバックにどんどん荷物を詰めてると、飛雄くんが後ろから抱きついてきた。半分パジャマで半分よそ行き服だ。あと半分頑張れ。



「うん、帰るよ。私の家は宮城だから……まだ。」



「!!……待たせないから、すぐ迎えに行くからな!」


覚悟しとけよ!!と捨て台詞を吐いて飛雄くんはもう半分の着替えに取り掛かったようだ。



覚悟はとっくに出来ているが、いざ迎えに行く、なんて言葉を送られるとたじろいでしまう。まるで王子様ではないか。王子様顔では無いが。



真っ赤になった顔を仰いで、私も荷造りを再開した。







「準備は出来たか?」



「うん、荷物ももうまとめた。もう車に積んでおくよ。」



「持ってく」



「え!?大丈夫だよ、これくらい持てる。キャスターだってついてるし」



「持たせろ、彼氏だからな」


彼氏に荷物を持たせる女にはなりたくないけど、そう言って自ら進んで持ってくれようとする彼の優しさには、お願いしたくもなる。



「じゃあ、お願いします」



「おう」



買い物では荷物が多くなると予想されるので、普段なら電車で行く所を私の車で行く事にした。



「……お邪魔します、お願いします。」



「…ふふ、懐かしいねそれ。任されました!」



「……車、変えたんだな」



「うん、でも前のとそんなに変わってないでしょ?」



「あぁ、……今も前もかっこいい車だな」



「そんな事ないよ、手に届く値段の車を選んだだけ。……出発するね?」



そう言ってエンジンをかける。サイドブレーキを外し、パーキングからドライブへ移動させ出発した。








「はぁー!やっと着いた!!」



「お疲れ、ごめんな、わかりにくくて」



「いやいや、飛雄くんのせいじゃないよ。」



宮城在住で、東京に少しだけ住んでいたがそれも郊外の方で都心の方にはほとんど来た事が無かったぶん、私は都会に慣れていなかった。



あまりの駐車場の無さ、地下駐もよくわからないし到着するまでに疲れてしまった。



「行くぞ、ん。」



そう言って手を差し出す飛雄くん。今思ったが、こんな所を週刊誌にでも撮られたらまずいのでは。



「……誰かに見られたりしないかな?」


「見られたくないのか?」


「違うけど……週刊誌とか飛雄くんのスクープおいしいんじゃない?」



「?別に俺は撮られてもいい。本当の事だしな。」



そう言って首を傾げる飛雄くん。潔くてかっこいい。


彼がそう言うのならいいのだろう、私は手を取り指を絡めた。







パジャマ、外着、歯ブラシ、ちょっとした基礎化粧品、カバンに靴などそれは持ってきてもいいんじゃ……なんて思う物まで買ってもらってしまった。


飛雄くんは財布の紐がゆるゆるなのか、私があれ可愛いなぁとぼやくと全て買ってしまうので、簡単に発言出来なくなってしまった。怖いよ有名人。金銭感覚が違う。


「これくらいか?他に欲しいものは?」


「だ、大丈夫……!!ごめん、こんなに買わせてしまって。お金返すよ。」



「いらない。俺がしたくてしてることだ。……それに、俺が最初名前に会った時のお金だって返してない。」



そんなの数千円だよ……!?桁が違う。服も色々買ってもらってしまったので全然同じ価値ではなくなっている。



「いやいや!それとこれとは……」



「同じだ、むしろあの時のお金の方が貴重だ。……名前が俺に話しかけてくれた勇気分も含めて。」



改めてありがとな、あの時のなんの変哲もない中学生を助けてくれて。そう言って笑う飛雄くん。



そんなの、私だって。



出会ってくれてありがとう、飛雄くん。








そしてついに婚約指輪を選ぶ時が来た。



こんなお店はほとんどお世話になったこと無く、指輪のサイズだって測った事ない。



「初めてか?」



「う、うん……ちゃんとした指輪なんて買ったことない」



「…やっと、名前の初めてだな」


嬉しそうに笑う。そんな顔ずるいぞ影山飛雄。思わず顔を赤くさせる。



そんな私達を見ていた店員さんに色々と説明して頂き、悩んだ末、気に入ったデザインで作ってもらうことにした。



それもかなりお値段張るもので、最初はこれが欲しいなんて言ったら飛雄くん躊躇無く買ってしまうだろう、と考え



違うデザインを検討したが、私がそのデザインに釘付けだったのを彼は見逃さず最初から一目惚れしたデザインになった。



「……見逃さないねぇ」



「当たり前だろ、俺は名前の彼氏だからな」


ふんっとドヤ顔をかます飛雄くん、なんかやられっぱなしだな。



「……もう、婚約者でしょ」



自分も恥ずかしくなりながら言ってみた。どうだ。



ちらりと彼を見ると、綺麗な白い頬が仄かに赤くなっている。か、可愛い、婚約者、素敵な響だよね。



「お、おう……幸せに、シマス」



「あはは!!……なんでカタコトなの、……お願いします!」



そう言って私たちは店内で恥ずかしげも無くいちゃつき、店員さんの声に青くなるのだった。









荷物を飛雄くんの家に運び終わり、一息つく。時刻は14時30分、予定より少し早い。



しかし明るいうちに帰れるならその方が良い。慣れた道では無いので真っ暗になってからだと多少の不安もある。




「……帰るのか?」



寂しそうにぎゅっと抱きつく飛雄くん。うっ……帰りたく無くなる。でも明日からは仕事だ、宮城県民なので宮城に帰らなければ。



「…うん、帰るよ。また来る。鍵もらったしね!」



「…おういつでも来てくれ。待ってる、し。俺も行ける時は宮城帰る。」



駐車場まで送る、と言って彼と一緒にエレベーターを降りる



「じゃあ、ありがとね。……その、楽しかったし幸せな時間だった。」



「!……俺だって、幸せだった。できる事なら帰したくない。でもまだ俺のものになってないから……」



「うん、まだ駄目だよ。……また来るからね。離れてても浮気しないでね?」



「する訳ないだろ。そんな暇あったら名前に会いに行く。」



「ありがとう、嬉しい。……じゃあ行くね?」


最後まで嬉しい言葉ばかり送ってくれる最高の彼氏ににやけてしまう。



車に乗り込もうとすると、腕を引かれて抱き締められた。



「…愛してるからな。もう自信ないとか言うなよ、勝手に離れてる間に一緒にいられないとか言い出さないでくれよ。」



……私の事をよくわかっている。



「大丈夫。この3日凄く凄く愛された自信ある!世界の影山飛雄に!!」



「なんだそれ、その言い方ヤメロ」


むむっと唇を尖らせる彼に笑う。つい可愛いその口を塞いでしまった、自らの唇で。



「!!……不意打ち、ずるい」



「ごご、ごめん。無意識だった」



「無意識でちゅーなんてするな。……じゃあな」



「うん、またね。連絡する。」



「あぁ、家に着いたら電話してくれ。」



「うん!!」


そう言って私は車に乗り込み、見えなくなるまでこちらを見ている彼を眺めながら東京を後にした。


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