飛雄くんが家に来て看病してくれた翌日。


私は朝7時に目が覚め、明らかに体が軽くなった事を感じながら熱を測ると平熱に戻っていた


良かった、今日はマスク外して会えそうだ。と起きてすぐ飛雄くんの事を考えている自分に恥ずかしくなる


いやでも自分よ、あんだけ素敵な彼氏だ。四六時中考えてしまっても仕方がないと割り切ろう。と開き直ってさえいる


朝からルンルン気分にさせてくれる飛雄くんに感謝しながら、携帯を開き、その飛雄くんにメッセージを送る


『おはよう!熱は下がりました。昨日はありがとう!』


そして買い物や飛雄くんへの対応をしてくれた里香にも


『おはよう!昨日は買い物とかありがとう。飛雄くんから聞いたよ、色々ありがとう!日向くんの事良かったね!』


よしよし。日向くんとファンと選手と言う距離間ではなく、友人の友人ぐらいの位置で会ってしまったら里香は発狂するのでは……?なんて考えながらも


実際どうなるのか気になるので、彼らが会う日は飛雄くんと共に同席させてもらおう。とにやつく


ピロンっ


通知音。携帯を開けば飛雄くんからだった。


『おはよう。良かった、元気になって。会いたい、行ってもいいか?』


ぐうぅぅっ!!会いたいって。会いたいってぇ!!


誰かに叫びたくなる!!うちの彼氏朝から可愛いんです!!って!!


あまりのド直球ストレートに悶え、ある意味瀕死状態になりながら返信する


『私も会いたい!いいよ、いつでも来て!』


あぁ、今日も好きだ、大好きだ!!今からうちに向かってきてくれるであろう飛雄くんを想像し、むふふと笑う


しかしそこまで考えてハッ!とする


私は飛雄くんと離れる事となった原因、それを父から伝えられたのは今のように浮かれポンチになっていた時だった


初めて飛雄くんとちゅーして、浮かれに浮かれて家に帰ったらそう言われた事を思い出し、浮かれるな!!と自分を叱咤した。


浮かれ過ぎると、良くない事が起きる。経験済みだ。用心するに越したことはない


朝食の準備をしながら冷静になるよう努める。飛雄くんは朝ごはん食べただろうか?彼は早起きだからもう食べてきてるかもしれない


なんて考えていると響く訪問者を知らせるベル


急いで玄関へ向かい、一応覗き穴から見ると今日も背が高くて若干見切れてる飛雄くん


鍵を開け、扉を開けばさっきの冷静さはどこへ逃げたのか。一瞬で浮かれポンチに逆戻りだ


「おはよう!」


「おはよう、元気そうだな」


良かった、と言って我が家に入った途端ぎゅううっと抱き締めてくる飛雄くん


う、うぉっと少し動揺してしまったが昨日とは違い迷う事なく彼の行動に応えられる


背中に手を回し、私も腕に力を込めると嬉しそうに笑う飛雄くん


「寝起きか?」


「うん、まだ割と寝起き」


「寝癖ついてる」


「嘘!?」


朝から完璧にかっこいい飛雄くんに対してなんて事を。と愕然とする。そもそも今日鏡見たっけ。


「ここ、ぴょんぴょんしてる」


ぴょんぴょんて。と身長180cm越えイケメンから出た擬音にまたしても悶えそうになる。私は飛雄くんにいつか殺されそうだ。


「ごご、ごめん。まだ鏡すら見てないかもしれない」


「全然いい。むしろ無防備で可愛い。」


「ちょっ………そんな、心臓に悪いこと言わないで」


「?」


飛雄くんの匂いに包まれて、甘い言葉を言われて。朝から刺激が強いです、くらくらしてしまう


「そ、そうだ!飛雄くん朝ごはん食べた?」


「まだ食べてない」


「一緒に食べない?」


「いいのか!?」


「勿論!用意するね!」





「簡単なものでごめんね」


「全然いい………昨日はあんまり見れてなかったけど、名前の部屋綺麗だな」


「そう?ありがとう、そう言われると嬉しい」


「高校生の時来た時も綺麗な部屋だった。……俺、名前と離れてからもっと家に行っておけば良かったって思った」


「えっ、なんで?」


「俺、名前の写真とか持ってなくて。記憶の中の名前だけが心の支えだった。その思い出が体育館とか、ショッピングモールとかで。」


「その中に名前の家で過ごした思い出もあって、その時に家にいつでも来ていいって言われてたの思い出して。自由に会える時間あったのに、もっと沢山の時間名前と共有出来たのに、無駄にしたことずっと後悔してた。」


悔しそうに言う飛雄くんに胸が締め付けられる


「……そっか、ありがとう」


「……?」


「私との時間を大切にしてくれて」


「……そんなの当たり前だろ。ずっと好きだったんだから」


「飛雄くんが私に好きですって言ってくれてたの、凄く嬉しくて、でも時と共にいつかは思い出になるんだろうなぁってこの離れていた6年考えてた」


「……んな訳ねぇだろ。思い出になんか出来るわけない」


「うん……でも変わらず同じ、いやそれ以上の熱量で私の事を想ってくれていた事に嬉しかった。」


「あの時も言ったろ、軽い気持ちで好きになった訳じゃないって」


なんて事ない私達の会話。それだって私と飛雄くんはお互いに何度も何度も思い出してずっと想いあっていた


だからこそ、私達の共有した時間のどれを話してもすぐに昨日の事のように思い出せる


「うん、ありがとう。私の事好きになってくれて」


「………おう」


「あ、照れた?」


「うるせぇ!……今日、昼頃東京に帰るんだけど、その……見送り来てくれねぇか」


「え!行く!!出来るだけ長く一緒にいたいし」


「……またそういう事」


「へ?」


「なんでもねぇ。ちょっと散歩行かねぇか」


「いいよ!これ片付けて、身支度整えるの待っててもらってもいい?」


「あぁ、急がなくていいからな」


まだ寝起きの格好だ。寝癖にパジャマ。今思えば何こんな格好して真面目な話しちゃってんだ。恥ずかしい!





「準備できた!」


「じゃあ行くか」


「うん!」


玄関を出て、どちらからともなく手を繋ぐ


そう言えば、と思い出したが


「烏野高校の皆には会っていかなくていいの?」


「あぁ、割と頻繁に会ってるしな。今回は名前に会いに来ただけだから」


平然とした顔で言う飛雄くんに顔が熱くなる。私は特別ですか?


「………あ、ここ」


「……あっ」


のんびり宛もなく歩いていると、私と飛雄くんが再会したコンビニの前に辿り着いた


「私最初、びっくりしたよ。凄い勢いと顔で後ろから追いかけて来るもんだから!」


「悪い……でも、横断歩道渡った時に見つけて。何としても話したくて。」


「よく見つけられたよね、顔なんて忘れられてると思ってた」


可笑しくて笑ってしまう、話したのなんて駅での10分にも満たないと言うのに


「……なんか、忘れられなかったんだよ。たぶん………一目惚れ」


「へ!?」


「わかんねぇけど!!……名前と別れてから、会って話したいってずっと考えてて、綺麗な人だったなとかハキハキしててかっこいい大人だったなとか……ずっと思ってた」


な、な、とまともに話せなくなる。一目惚れ……?それが本当なら会った時に初めましての時に好きになってくれたと言う事だ


「……照れてんな?」


「だっそっそりゃっ!!照れるよ!一目惚れなんて!」


「たぶんだけどな!!再会出来てから絶対にこの縁を離したくなかった」


それでか、と何となく話が繋がる。最初私はなんで彼にこんな執着されるのか?と疑問に感じていたのだ


まさか一目惚れだなんて想像もつかなかったけど……


「なのにまた離れ離れになって。……正直いなくなってからの数ヶ月はしんどかった」


「……ごめん」


「いや、名前は何も悪くねぇだろ。親御さんだって悪くない。……運が悪かっただけだ」


だからそんな顔すんな、と頭を撫でてくる飛雄くん。


嬉しくて恥ずかしくて俯くと同時に、私よりずっとずっと大人になってしまったなぁ、と少しだけ寂しく感じてしまった


「でも、また会えた。今幸せだからもう過去はいい。」


「……うん」


「今度こそ必ず一緒になろうな」


にっと笑う飛雄くんに泣きそうになる。別れを告げた時の泣き顔が一瞬過ぎって、本当に良かった、私が彼をまた笑顔にする事が出来て、と思い思わず繋いだ手に力を込める


「名前?」


「絶対、幸せにする」


「は?」


「私が!!絶対飛雄くんを幸せにするから!!」


「……っはは!それ俺が言いたかったのに」


「!?ご、ごめん」


何を大声で宣言してるんだ私は。急に恥ずかしくなって縮こまる。でもそんな素敵な笑顔を見せてもらうと幸せにしたくなる、ずっとずっと隣で笑っていて欲しくなる


「一緒に幸せになろう」


「うん、絶対。絶対もう離さない。」


そう2人で笑い合い、再会の場所を後にした。


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