あの頃の君と私
歩いていると、烏野高校の近くを通りかかった
「卒業してから烏野高校には行った?」
「いや、行ってねぇ。……忙しくてあんまり暇が無かった」
「そっかぁ」
彼が落ち着いた頃にはもう後輩達もいなくなっていたのだろう、そうなってしまうと確かに行く気も失せてしまう
「そう言えば、」
「うん?」
「月島とはいつ再会したんだ?」
「えっと……東京から戻ってきて割とすぐだから…4年前くらいかな?」
「は!?」
「……ね、なんで教えてくれなかったんだって感じだよね…」
「よ、4年って………」
愕然とした様子で頭を抱える飛雄くん。わかる、わかるよ。ツッキーが発見した時点で再会出来たら4年もそこからかからなかったのに、なんて思ってしまう
「なんでアイツ……俺ずっと探してたのに」
「わかんない……でも、飛雄くんが探してる事も知ってるみたいだった。それを私に教えてはくれなかったけど…」
「……今からアイツぶん殴りに行く」
「ちょ!?駄目だよ!?」
額に青筋を浮かべて拳を作る飛雄くん、暴力は駄目だよ!?
「それでも、私の背を押してくれたのもツッキーだし、私が前に進めてない事を皆に教えたのもツッキー。だから私たちの事応援してないって事ではないと思う」
「……じゃあなんで」
「私とツッキーが再会した時になんで教えてくれなかったのかは謎だけど……ツッキーがいなかったら私達今でも再会出来なかったかもしれないのは事実だよ」
だからツッキーを責めちゃダメ。と付け加える。ツッキーの考えてる事は正直わからないけれど、結果としてこの幸せを掴めたのは彼のお陰だ。むしろ感謝しなければならない。
「……そうだな、ムカつくけど責めるのは辞める」
「うん!大人になったねぇ、飛雄くん」
昔ならすぐガーッと怒って怒鳴りに行ってたのに。すぐ冷静に戻れるなんて成長したなぁ…
「もう子供じゃねぇ。高校生の時に会った名前の年齢だ。……自分で言うのもなんだけど、よく高校生の俺の相手してくれたな」
「うっ……その言い方少し刺さる」
「!?なんでだ」
未成年に手出してるんじゃねぇよって言われてる気分だ……ごめんなさいごめんなさい、最終的に手出してないので許して……
「未成年ってのはずっと大事にしてたつもり、でもあまりに飛雄くんかっこいいし真っ直ぐだから……大人として止めるのは大変だった」
「……悪かった、色々葛藤してるのは分かってたけどどうにか振り向いてもらえねぇかってその隙につけ込んだりはしてた」
「!?」
わかっててやってたのか、このイケメン。
◇
「そろそろ時間?」
「……そうだな、駅に行こう」
「駅かぁ、出会った場所だね」
「…おう、まだ中学生だった」
「可愛かったなぁ、あと大きかった!」
「可愛くねぇ。」
「今は大人っぽくなったけど、あの時はなんか幼くて、ひたすら困ってて可哀想で………思わず手を差し伸べちゃったよ」
「俺はあの時にめっちゃ美人だって思った」
「……清水さんでも思わないのに?」
「?おう」
「……ふふ、ちょっと嬉しい」
「ちょっとだけかよ」
実際自分では清水さんになんて全く容姿で劣っていると感じているが、飛雄くんからしたら私の方が優れていると感じてくれているようで、本当はちょっとどころじゃなく嬉しい。
「…なぁ、聞いてもいいか」
「ん?何を?」
「いつ俺の事好きになったんだ」
「へ!?」
なんて事聞いてくるんだ、しかも真面目な顔して。
「日向と勉強教わってた時にはもう好きになってもらえてたから………いつからなのかわかんないままだった」
「そそそ、そんなのもう良くない?今凄く好きだよ!!」
「おう、俺もだ。………どうでも良くなんかない、教えてくれ」
「えぇ!?」
必死に記憶を探る、正直覚えていない。そもそも最初に見た時からかっこいいなぁとか容姿が整ってるなぁと感じていた
それから中身も知って恐らく飛雄くん自身に惹かれたのだろうが………明確なタイミングなんて覚えていない
「た、たぶんだけど………気づいたら好きになってた」
「…それじゃあわかんねぇ」
「私だってわかんない!いつの間にか好きだなぁって思うようになってたんだもん」
もう!!とふんすふんすと怒りながら言う私に目を丸くする飛雄くん。
ごめんよ、ふざけたり躱したりしてる訳ではないの。本当にわからないの。
「……そんなもんなのか?」
「そんなもんです!そもそも一目惚れの方が珍しいと思う!」
「じゃあ名前がすげぇんだな、一瞬で惚れさせられた。」
ずぎゃん!!と心を撃ち抜かれる。凄いのは絶対飛雄くんじゃん……イケメン過ぎるもん……笑顔だけで心臓持っていかれる……
「飛雄くんだって凄いんだから!!……あんまり色んな人に笑顔見せないでね」
言ってしまってからハッとする。何言ってるんだ。
「?俺よくもっと笑えって言われるんだけど」
「えっ?だって飛雄くん朝会ってからよく笑ってるよ?」
自分で言ったその言葉に、もしかして私の前だけよく笑うのか…?なんて勘づいてしまい、顔が熱くなる
「??そうなのか?……まぁ、気をつける。名前以外とここまで話すだけで楽しい事無いけどな」
そしてトドメを刺された。正直者は非情だ。
◇
駅に着き、新幹線乗り場へと向かう
もうお別れか、なんて寂しく思うが毎日電話してくれるし、毎日愛してるや好きだと愛情をめいいっぱい伝えてくれるのでそこまで辛くは無い
「じゃあ、帰るな」
「うん、元気でね。本当にわざわざ来てくれてありがとう。凄く嬉しかった!」
「おう。また来れる時東京来てくれ、……その、出来るだけ早く会いてぇ。」
「!!…わ、私も!また一緒に決めよう?出来れば飛雄くんオフの日に一緒に過ごしたいな」
「わかった、スケジュール確認して電話した時伝える。」
「うん、お願いします!」
「……じゃあな、また夜に。」
夜にはもう声が聞けるんだ、と心が弾む
「うん、気をつけてね!」
そう言うと飛雄くんは綺麗過ぎるくらいの微笑みを残して改札の奥へと姿を消した。
今日もかっこよかったよぉぉ……といなくなってからもトキメキをくれる飛雄くんに慣れる日は中々に遠そうだ。
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