全て片付いたら教えてあげる。


そう言われた通り、ツッキー達は私に全てを教えてくれた。


想像を絶する内容と皆は私の見張りやらなんやらしてくれていたのに、のうのうと生きてしまった事に土下座した、ほんとごめん。


中でもツッキーの負担は大きかっただろうに、ありがとう。と言えば鈍すぎて、刺されても気づかないかもね。なんて言われたのでムカついた。


里香にも飛雄くんにも心配をかけてしまい、申し訳ない。結果として私に怪我が無くて良かったと笑う彼らに涙が浮かぶ。


これからは自分でも周りに気をつけなければ。と今回のことを通して学んだ。言われた通り鈍いようだから限界はあると思うけれど……。





ストーカー事件から早数ヶ月。


あれから特に大きな問題も無く、私と飛雄くんの交際は上手くいっていた。


……のだが、ここ最近になって順調とは言えなくなってきた


理由は簡単。飛雄くんのプレーが試合でも練習でも上手く行っていないから。


最近の飛雄くんは少しピリピリしていて、電話の回数もいつの間にか減った。忙しいのか、面倒になったのか、聞きたい気持ちもあったけれど


最近の彼の様子を思い浮かべ、言及するのは避けた。他にも婚約指輪はどうなったのかとか、オフの日遊びに行ってもいいか、自炊はちゃんとやってるのか


色々聞きたいこと沢山あるのに、今の彼からしたらどうでもいい事なんだろうな。と思い、話す事は諦めた。


電話こそしているけれど、話す内容は飛雄くんのスランプについて。正直バレーボールを経験した事がない私ではなんと声をかけたらいいのかわからず、


飛雄くんは頑張ってるよ、とか誰だってスランプはあるよ。などありきたりな言葉しかかけられていなかった。


その結果、私も彼も会話が辛くなり電話の時間も短くなっていった。


今や電話も週に1回。直接会ったのなんてもう2ヶ月前だ。


そろそろ、辛くなってきた


どうか少しでも飛雄くんから私を求める言葉が欲しい、そんな幼稚な理由で彼に


「電話、もう辞める?私と話してる時間勿体ないかな?」


そう聞いた。やめたくない、話していたい。そう言って欲しくて。


「……あぁ、辞める。悪い。」


そう言われてしまった。


自分でも大袈裟だろうけど、と思って、私と話してる時間は勿体ないかな?なんて聞いたら、肯定されてしまった。


勿体なかったんだ。話すだけでも、数分でも。


彼はバレー馬鹿さんだから。そのバレーが上手くいかないとそれ以外のことなんて考えられないだろう、って分かってた。


分かってたけれど、想像以上に辛い


私、いらないじゃん。


そう痛感して、嗚咽を零しながら泣いた。


結局バレーが1番。当たり前だ。結婚も彼女としても優先なんてされない。


6年の想いだって、何の関係も無かったんだ。


飛雄くんは悪くない、覚悟し切れてなかった私が悪い。


1度、距離を置いた方がいいのかな。


電話もしない、会いもしない。そんなの付き合ってないも同然だ。


自分が思っていた以上に飛雄くんへ依存していた事を今回感じた。


これからも彼といたいのなら、依存は危険。毎回こんな風になっていられない、彼の前でこんな姿晒せない、迷惑だ。


一度関係をリセットしよう。これで駄目になるなら遅かれ早かれ終わる。


いつものようにネガティブに考えているのではなく、ちゃんと自分は冷静だ。と実感しながらこれからの行動を考える。


まずは飛雄くんの家にある私物、回収しよう。行かないなら置いておいても仕方ないし。


鍵も返そう。使う機会がまた来たら借りればいい。


あとは………この話は里香やツッキーにも話すのは辞めておこう。


あくまで私たちの問題だし、彼らだってどこかで飛雄くんに繋がってる。


今はこれ以上飛雄くんの負担になりたくない。飛雄くんが自分でアクションを起こさない限りは、私も距離を置こう。


そう決めて、私は飛雄くんが練習であろう日に有休を取る事にした。




約2ヶ月振りに来た東京。


いつもはここに来るのが嬉しくて仕方なかったのに、今日ばかりは舞い上がれない。


飛雄くんの家に向かい、鍵を使って開ける


特に変わりのない部屋に生活はちゃんと出来てるんだな、と少し安心した


タンスやクローゼット、食器棚からありとあらゆる私の私物を回収する。


こんなにあったんだ、と思うと同時にそれだけ多くの時間をここで過ごしたのだと実感して少し涙ぐむ


荷物をまとめて、もう出よう。と思った時、適当に放ったらかしにされている服達が見えた。


またこんな風に置いて……ちゃんと片付けなよって言ったのに。といつものように畳もうとした手を引っ込める


あくまで何事も無かったように、私の物なんて最初から無かったかのようにして帰ろう。


それで彼が平気なら何ともないなら、悲しいけれど………お別れなんだろう


重たくなった荷物を持ち、外へ出て鍵を閉める


玄関のポストへ鍵を入れて家路につく。


書置きでもしておこうか、鍵ポストに入ってるよ。とか。なんて考えたが、少なくとも飛雄くんに対して怒りも存在したので


私は消えるから思う存分1人を堪能してね!!と言う皮肉を込めて書置きは残さなかった。


少しだけ清々した気持ちと、またここに戻って来れるといいな。なんて寂しさと共に、私は宮城に帰った。





「チッ……クソ!!!」


「おい影山ぁ、あんまイライラすんなよ」


「うっせぇ!!」


「ひいい!!顔怖ぇよ!!」


「飛雄くん、あんまピリピリしとったらあかんで。」


「……侑さん」


「チームの雰囲気まで悪ぅなる。それに前も言ったやろ、スランプは誰にでも起こり得る事や。」


「そうだそうだ!!」


「ほんでいつの間にか抜けてるもんや。近道なんて無いんよ。」


「………っす」


「こういう時はのんびり気長に待つしか無いねん。……まぁ飛雄くんには難しいかもしれんけどなぁ」


「あれは?苗字さんに相談してみたら?」


「おぉ!!せやな!可愛い彼女に癒してもらいよ!!」


「………最近全然話してないっす」


「「え?」」


「会ってもないし」


「は、ちょ、お前何言ってんの。苗字さん放ったらかしにしてんの!?」


「放ったらかしって!!…………。」


「うっわマジかいな。ちなみに何週間ぐらい?」


「………2ヶ月」


「「2ヶ月ぅ!? 」」


「最近まで数分の電話は1週間に1回やってたんすけど……困らせるだけなんで辞めました」


「………はぁ、飛雄くん。よぉ愛想つかされへんな。」


「愛想?」


「フラれるって事だよ!!苗字さん可哀想だな……あんだけお前と再会出来て嬉しそうだったのに」


「ふ、フラれる……!?」


名前がいなくなる。それを想像しただけで背筋が凍るような感覚に陥る。


「そりゃ会わないし連絡も取らないなら付き合ってないも同然やしなぁ。それで2ヶ月?もう愛想つかされたんちゃう?」


「そっ…んな事………」


「無いとは言い切れないやろ?」


「…………っ。」


「最近苗字さんの事ちゃんと見てあげとったか?飛雄くん自分のことばっかりだったんやろ。」


「……っはい。」


「ちゃ、ちゃんと会って話した方がいいと思うぞ!!」


ここ最近自分の事ばかり名前にぶつけてしまっていた。今言われて初めて気づいた。


励ましてくれていたのに。会うのも我慢してくれていたのに。


電話まで拒否して、結婚の話も全然進められていなくて。


名前だって話したい事あっただろうに、ずっと俺は気がたっていて。まともに返事だって出来ていなかった。


どれだけ負担をかけてしまったのだろう。


どれだけ、傷つけてしまったのだろう。


急いでスマホを取り出し、メッセージを飛ばす。


今日は仕事のはずだから電話しても出られない。


『今日電話したい』


ちゃんと謝ろう、今までの事。聞いてくれるだろうか……優しい名前ならきっと聞いてくれる。


「今日、ちゃんと話してみます」


「おん!頑張りや!今は彼女最優先!スランプは二の次な!」


「はい!」





練習が終わり、家に着いた


扉を開けるとカラカラと言う音が聞こえる


何かと思い、玄関のポストを開けると鍵。


家の、鍵。


2本しかない鍵の1本は俺が持ち、もう片方は名前に渡している、のに。なんで、ここにあるんだ。


サッと血の気が引いた感覚と共に嫌な予感がする


急いでリビングやキッチン、寝室へ入ると、俺が脱ぎ散らかした服も含め家を出る時と変わらない光景だった。


ただ1つ、どこにも名前の私物が無いことを除いて。


どうして、


膝が床につく。立ってなんていられない、名前がいた証が、ここにいた痕跡が全部無い。


居ても立ってもいられなくなり、スマホで履歴の1番上にあった奴に電話をかける


「はいもしも」


「ひひひひ、日向!!!」


「うわうるさ!?な、なんだよ」


「お?飛雄くんか?」


「はい、なんかうるさくて…」


「あ、侑さんもいんのか!?………名前の、物が全部無くなってる」


「は?」


「家から!!名前の物なんにもねぇんだよ!!昨日まであったのに!!それに鍵も返されてて………」


「飛雄くんなんて?」


「なんか……苗字さんの物が家から無くなってて、鍵が返されてたって……」


「あーそれは………フラれたな」


「……ですよね」


「おい!!これってどういう事だよ!!」


「落ち着け、影山。………多分お前フラれたんだよ」


「…………フラれ、た」


頭が真っ白になる


もう手遅れだったのか?


もう戻ってこないのか、名前は。


もう抱き締められないしキスも出来ない


話せないし、笑顔も見れない


唇を痛いほどに噛み締める


「…………わかった」


「え、あ、ちょ影山!?」


日向への通話を切り、1度落ち着く


名前を傷つける奴は許さない。そんなつもりでストーカー退治に身を乗り出したと言うのに、


こんな事になるまで傷つけたのは俺じゃないか。


「…………クソっ」


未だ既読がつかないメッセージに、それが答えなんだろうか、と絶望感に襲われる


俺は、もう名前の彼氏にはなれないのか。随分前に出来上がった婚約指輪を眺める。


これを渡す時はちゃんとプロポーズしようと思ってたのに


なんでこんな事になってるんだ

どうか話だけでも聞いて貰えないか、そう願いを込めて俺は名前に電話した。


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