『今日電話したい』


飛雄くんの家から戻ってきてスマホを開いたらそう通知されていた。


え……もしかして家行ったのバレてる!?防犯カメラでもついてた!?


急に悪い事をした気持ちになる。いや、別に犯罪とかじゃないし、ちゃんと鍵使って開けたし…


返事しようと思ったが、簡単に許すちょろい女じゃだめだ。実際に会ってしまうとすぐちょろい女になってしまうので、せめて離れてる時ぐらいは。


そう思い、既読すらつけずにスマホを閉じた。





ブーッブーッ


目の前で着信を知らせるスマホ。それを眺める私。


飛雄くんから電話がかかって来ている。そんなすぐに気づくとは……まだ帰ってきてすぐだろう


すぐに私の物が無くなっていることに気づいてくれて嬉しいと思う反面、この電話に出て何を話せばいいのかもわからず、


結局飛雄くんの方からあっさりアクションを起こしてくれたのに、私はそれに応えることは出来なかった。


そして夜が明け、次の日の朝


今日は土曜日。昨日は有休で休みだったが、今日はそもそも休日だ。


飛雄くん、怒ってしまっただろうか


メッセージも電話も無視。こんな事したの初めてだ。彼は決して気が長い方ではない、怒らせた可能性だってきっとある。


少し心配になりながらスマホを開く。するとそこには200を超えた通知が殺到していた。


着信履歴は70回。マナーモードにしていなかったら地獄を見たな……とぞっとする


少しビビりながらもメッセージを開く


『頼む、電話出てくれ』


『言い訳させて下さい』


『もうこんなに放っておかない』


『本当に悪かった、ごめんなさい』


『もう俺の事は嫌いになったか』


『俺は好きだ、愛してる』


『頼む、もう1回チャンスをくれ』


私は飛雄くんを侮っていたようだ。


荷物が無いことに気づいて、どうしてだろう、何があったんだろう。程度にしか思われないかと思ったのに、


荷物が無い、鍵が返されてる。そこからフラれた。と結論づけたらしい、誰かの入れ知恵か……?


そう疑うくらいに飛雄くんには私の意思や怒りが伝わらないと思っていた。想像を絶する痛々しいメッセージ達に申し訳なさが溢れる


200を超えるメッセージを一つ一つ見ていって最後、


『そっち行く』


『ついた、話す気が起きたら開けてくれ』


そうメッセージが来たのは朝方5時


今は朝8時。………3時間前には着いてるじゃないか!!?


急いで玄関を開ける、すると


「……………名前」


扉の横で飛雄くんは座り込んでいた


「な、何してるの!?今起きたよ!!まさか来るなんて……とりあえず入って!!」


「………いいのか?」


「いいよ!!!とりあえず入って!!」


2ヶ月ぶりの飛雄くんは変わらずかっこよかった。しかしあまりに顔に生気を感じられないので、いつもより萎れている


ご近所さんに見られてないといいけれど……私が男を締め出してると思われたら嫌だなぁ……実際それに近い状態だったけれど





「……名前、俺、」


「ごめんなさい!!」


「……え?」


リビングにとっても萎れている飛雄くんを座らせて、まずは話し合う


「フったとかそんなんじゃないの!ただ、飛雄くんには今私が不必要なんだって思って、1回関係をリセットしようと思って荷物は引き取ったの!」


そんな風に飛雄くんは捉えないと思っていたが、失念していたようだ。彼が周りに相談しないとは限らない。


「不必要だなんてっ!!」


「でも、実際会わなくても電話しなくても平気だったでしょ?」


「………っ。」


「大丈夫、今だけだって分かってる。今は飛雄くんがバレーの方に集中してるだけだって分かってる。それでもこの状態がもっと長い事続くんだったら私だって辛いし、それはもうお別れするべきだと思う」


「…………!!」


泣きそうな顔をする飛雄くん、ごめんね、酷いこと言ってしまっている。でも私だって出来れば楽しく飛雄くんと過ごしていきたい。


この話し合いは大事な事だ。


「それでちょっと飛雄くんを試してみたんだ、ごめんね。すぐ連絡くれたからびっくりした!」


「心臓、止まるかと思った」


「ごめんなさい、びっくりさせちゃったね」


「………生きた心地がしなかった」


私の行動に相当痛めつけられたようだ、流石に可哀想に思えてくる


「ごめんね、でも私放ったらかしにされ続けたらそういう事もするから。ただただ黙ってなんていられないよ。」


そういう女が嫌だったら、ここで終わりにするべきだと思う。少しだけ勇気を振り絞って、別れるという選択肢を彼に提示する


黙り込む彼に


「………お別れす」


る?そう聞こうと思ったのに


「する訳ねぇだろ!!!!」


今まで聞いたことが無い程の声量で怒鳴られた


あまりに怖くて、驚いて涙が出そうになる


「あっ………悪ぃ、つい……絶対別れねぇ、もう二度としない、こんな事」


「………今の飛雄くんには信用無いよ」


二度としないなんて口ではいくらでも言えるからね。少しだけまた意地の悪い事を言う


「………俺、すぐバレーの事でいっぱいいっぱいになるから、もしかしたらまた同じ事やっちまうかもしれねぇ」


まさかの自分から認めてきた、マジか。


「でもその度に、こうやって俺を叱ってくれ。絶対俺名前を手放すなんて出来ねぇから。」


「…その、日頃は会えなかったりしても自分に余裕がねぇと気づかないかもしれない。それは、本当に、悪い。」


不器用に、自分は不器用ですと告白してくる飛雄くん。その姿が可愛くて、いじらしくて笑ってしまった


「…………なんだよ」


「ふふっ、あはは!!……わかった、飛雄くんを叱るのは私の役目だね」


「おう、……許してくれたか?」


「うん、許す。」


「……これ、」


改めて鍵を渡してくる飛雄くん。こんなに早く戻ってくるとは。


「うん、ありがとう」


「荷物、また戻すぞ。……名前の物と生活してきたんだ、今の家は落ち着かねぇ。」


むすっとする飛雄くん。突き出した唇が可愛くて、ついキスをする


「!?!?」


「あ、ビックリしてる」


「な、……急にはヤメロ!」


「なんで?」


「……心臓飛び出そうになるから」


バレーよりずっとずっと優先されない私だけど、まだまだ飛雄くんをドキドキさせられるようで安心した。


ねぇ飛雄くん。バレーの次でいいから、飛雄くんの中での2番目は私に頂戴ね。


「……名前」


立ち上がり、腕を広げて待つ飛雄くん


そこに私は飛び込んだ。2ヶ月ぶりのハグ。飛雄くんの匂いをしっかり堪能する。


「……寂しい思いさせたな」


「うん、すっごく」


「………悪かった」


「ホントに思ってる??」


なんてからかう、タチの悪い年上で悪いね!


「思ってる、……しばらくなんでも言う事聞く。」


「え!?ほんと!?」


「おう、なんでもやる。」


じゃあ何にしようか、飛雄くんとしたい事ってなんだろう?と考えて


気づけば声に出していた


「飛雄くん、結婚しよう?」


え、


「えっ」


「…………今のは聞かなかったこ」


「する」


え?!


「これ、……ちゃんとプロポーズする時に渡そうと思ってた」


上着のポケットから箱を取り出す飛雄くん


それって、


「名前、……あんな事あってからでまだ信用無いかもしれねぇけど、」


凛々しい表情。あまりのかっこよさに心臓を射抜かれる。


「必ず幸せにする。………俺と結婚してください」


大好きな人との結婚。6年も前に話した夢の続きを。


涙がぼろぼろ溢れ出る。


「……………っっっはい!!!」


私の左手薬指に輝く婚約指輪。


嬉しくて嬉しくて、思わず彼に抱きつく。


彼との未来に不安が全く無いと言ったら、それは嘘になる


けれど幸せは彼だけに作らせるものではない


私と飛雄くんで作るものだ


「飛雄くん、」


「ん?」


「一緒に幸せになろうね!!」


「……おう」


私はこの笑顔を守りたい。ずっとずっと隣で笑っていて欲しい。


その為にも、


私はあなたと幸せになります!!


I will be happy with you!!!


fin.


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