皆と再会してから、数日が経過した。


手元には試合の観戦チケット。平日の夜、自宅にてそれを眺める。


正直見に行きたい、行きた過ぎる。でも、会ってどうしたらいいんだろう。


それに彼らの言っていたことは本当なのだろうか。疑いたくは無いが、6年。恋が終わるには充分すぎる時間だ。


とは言え自分は吹っ切れてないでは無いか、と気づいてうなだれる。


だが私とは違って、彼はもう立派な有名人だ。


綺麗な人たち、芸能人やモデルなどと会う機会だってあっただろう。


それを考えると胃が痛くなる、いやいや同じ土俵に立てると思うな。


影山くんの思い出によって私の姿が美化されてないといいけど…しかも6年経って私はアラサー…多少なりとも老けてるだろうし…


あぁ、やっぱり会いたくなくなってきたかも…いやでも…会いたい…いや、でもぉ…



頭を抱えて床を転がっていたところ、携帯に着信が来た。


誰ですかぁ、と思い見れば里香。


「どうしたの?」


「ね、今度のアドラーズとブラックジャッカルの試合見に行かない!?まだ取れるみたいだよ!!」


「…。」


「あー…やっぱり行かない、か。でも話だけ聞いて?今回ね選手との握手会あるんだって!」


あ、握手会!?…もうアイドルじゃないか。


「だから、私日向選手に会いに行こうと思って!!…影山選手も来るから、面と向かって話すチャンスだと思う。」


「時間制限だってあるから、話さないと勿体ないって思って話せるかもしれないし…毎回ある訳じゃないから、今までより真剣に考えてみてもいいと思う。」


じゃーね!!そう言って切られた通話


これを知っててツッキー達は私にチケットを渡したのだろうか。


それを確認すべく、ツッキーにメッセージを送る


『握手会があるって知ってて、チケットくれたの?』


すぐに既読が着いて、返事が来た


『知らないし。僕がそこまでしてあげると思うの。』


うわぁ!!腹立つ!!言い方ぁ…


『ですよね!!知ってた!!』


そう送って携帯をぶん投げる。ムカつくやつめ。


里香が言ってた通り、確かにこれはチャンスかもしれない。急に会って、上手く話せないかもしれないけど、


少し、少しだけでいいんだ、1歩ずつでいいから彼の元に帰りたい。



私が影山くんに会いに行った、という事実が大事なんだ。そう思い、ぶん投げた携帯を拾い上げ、ツッキーに再度連絡する


『試合観に行く。行き方わかんないから一緒に行って欲しい。』



『わかった。』



試合は3週間後。少しでも綺麗にしていこう。


そう決心し、スキンケアから入念に行った。





そして来たる試合の日。


頭の先から足の先までできる限りのお洒落をした。影山くんに少しでも可愛いと思われたいから。


そう考えて思い出す、彼と最初に一緒に出かけた日のことを。謎のオイカワサンに会った日のこと、そして告白された日のこと。


全て昨日の事のように思い出せる、大事に大事にしまってきた思い出達だ。


「…いつもより気合入ってるじゃん」


「当たり前でしょ!影山くんとの再会だもん。」


現地まではツッキーと共に行く。会場は東京なので新幹線に乗っての移動だ。


昔は車でとんぼ返りとかしたなぁ、なんて思い出し、ニヤつく


「何笑ってんの、気持ち悪い」


そして見過ごされること無くツッキーに罵倒される。今日もキレッキレだ。





会場について、席に着く。席にはもう里香が着いていた。


現地集合で隣で見よう、と約束をしていたため、ここで合流出来た。


「やほー!…あ、もしかしてツッキーさん??」


「…どうも。」


「えー!!イケメンじゃん!高身長だし!!私名前の同僚、里香です、よろしくねー!」


「よろしくお願いします。」


あ、ツッキーがよそ行きモードだ…!知らない人と一緒に観るなんて、少し申し訳ない気持ちになる。


烏野高校の皆もどこかで見ているのだろうか、周辺に確認出来ないが来ると言っていたし恐らく来ているだろう。



「結構いい席取れたよねー!影山選手にもきづいてもらえ…!?なに!?」


「や、やめて!!大きな声で言わないで!周りに影山くんのファンがいたらどうするの…」


「…あ。ごめんごめん!そうだよね、もう烏野高校の影山くんじゃないもんね。」


そう、彼はもうファンが大勢いる有名人なのだ。下手なことは出来ない。






気づけば、試合が終わっていた。


「何呆然としてるの、握手会行くんじゃないの」


「あ、あ…えと…もういちばんさいごでいい。」


ろくに会話出来なくなるくらいに、感動してしまった。


影山くん、かっこよかった。高校生の時とは比べ物にならないくらい。実物はやっぱりテレビで見るより男前だった、なんてファンのような事を思う。


まだ選手達はコート内にいる、これから握手会の会場へ向かうのだろう。周りにいた多くの人々は気づけば減っていて、既に出遅れていることを意味した。


私はそんなのどうでも良くなるくらい、影山くんのかっこよさに魅了され、感動して、涙が出てきていた。


「…未来の旦那がかっこよ過ぎて泣くとかやばくない?大丈夫?」


「み、みらいのだんななんて!!お、おこがましい!!!」


えぐえぐと泣きながらツッキーに言い返す。それに対して「何しに来たの…」と呆れるツッキーは正しい。


なんとか涙を止めようと頑張っていると、突然隣で私が泣き止むのを待っててくれた里香が私の肩を強く叩く


「ねぇ!!日向選手こっち見てない!?私の事見てる!?」


日向くん?里香が見ている先を追って見ると、こちらを凝視した日向くんと目が合った


そう、バチっと目が合った。里香には申し訳ないが目が合っているのは私の方で、


私が日向くんを認識し、周りにバレないよう小さく手を振ると


ぱあぁ!!と顔が明るくなり、大きく手を振ってきた


「きゃぁぁあ!!!可愛い!!!かっこいい!!死にそう…」


そう言って悶える里香の隣で私は小さくなっていた。大丈夫、里香が騒いでくれたお陰でファンサービスをしただけに見えてるはずだ。



「…名前さん、あれ。」


今度はツッキーがとんとんと肩を叩いて、コートを指さす


なんだろと思い見れば、影山くんがこちらを見て固まっていた


日向くんより遠いので目が合っているのかはわからないが、私も影山くんを見て固まる。


気づいてくれたのだろうか、先程までかっこよ過ぎて泣かされた相手だけあって、数秒見つめあったところで私の方が音を上げた。



しかし、まだあちらは見てくれている気がする、視線をなんとなくだが感じる。


こんな距離で会う為に来たんじゃない。


待ってて、今そっちに行くから。


もう一度影山くんの方を見つめて、里香を率いて握手会の会場へと向かった。


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