捻挫した足をゆっくり動かしながら観客席を目指す。


既に多くの人が居なくなった後だったので、ツッキーの姿はすぐに見つけることが出来た。


「ツッキー!」


「…おかえり。長かったじゃない。…何その足、転んだの?鈍臭いね。」


「まだ何も言ってない。」


「どうせそんなオチでしょ。」


「違うわ!!…その、日向くんに転ばされた。」


「は?」


「影山くんと話させる為に医務室へ連れてく名目のためやってくれたみたいなんだけど、まぁ…ツッキーの言う通り鈍臭くて受け身取れずに捻挫しました。」



「…はぁ。それで、影山とはちゃんと話せたの?」


「うん、また戻ってきてって言われてるけどとりあえずツッキー待たせてるからこっち来た。」


あれ、そういえば里香の姿がない。


「同僚サンなら帰ってもらったよ。名前さんいつ戻ってくるかわからないし、日帰りならさっさとこっち出ないと。」


「そっか、ありがとうね。…私達も悠長にはしてられないね、早く出ないと今日中に宮城へ帰れない」


「その足じゃあ無理じゃない?1泊してったら?」


「無理だよ!私電車とか新幹線とか苦手なんだから、ツッキーいないとここまでだって来れないし。」


「じゃあ、僕も一緒に泊まってあげるから。今日無理やり帰るのはやめときなよ。足の治り遅くなりますよ。」


今日も今日とて言い方は置いておいて優しいツッキーに泣きそうになる。


「つっきぃ…」


「何泣きそうな顔してんの。とりあえず早く戻んないと王様の機嫌損ねそうだから裏行くよ。」


そう言って私に肩を貸してくれる。しかしツッキーの方が背が圧倒的に高いので右肩がおかしくなりそう。


「ちょちょちょ!!無理無理無理!!?腕もげる!!」


「まぁそんな事もあるよね。」


「ないよ!?ちょちょ、腕離して、1人で頑張るから」


「はいはい」


適当に流しながら私を抱えて抱き込むツッキー


日向くんはお姫様抱っこだったのに対して、ツッキーはお父さんが子供を抱っこする時の体勢だ。


片腕に私の全体重が乗っているのになんでもないような顔して歩くツッキーはやっぱりいい男だ。


「力持ち!!よっ、いい男!!」


「うるさい。耳近いんだから騒ぐなよ。」


本気でイラァ…っとした顔をしていたのでひぇっと鳴き、黙ることにした。






「やぁ、王様。」


「…よぉ。」


「ツッキーありがとう、もう大丈夫だから」


結局抱っこされたままここまで来てしまった。なんで入口知ってるんだろう。彼もまたバレーボール選手だからだろうか。


流石に現在進行形で恋してる人の前で抱っこされるのは気まずいので降ろして貰えるよう促す


ツッキーはゆっくり降ろしてくれて、かつ身をかがめて肩を貸してくれた。先程とは違って屈んでくれてる為丁度いい


「…苗字さん、今月島と仲良いんすか」


「う、うん。色々あって…それはもうお世話になった」


「そうなんすか…あの、これから時間ってありますか」


「無いよ。今から泊まるとこ探さないといけないんだから。」


「はぁ!?」


「ま、待てよ。苗字さん、今どこに住んでるんすか」


「あ。…えっと宮城に住んでる。」


「…東京じゃないんすか」


呆然とする影山くん。私が彼とお別れする時は東京に行くと言ったから、変わらず東京にいると思ったらしい。


「そうなの、…だから余計見つけにくかったかもしれないね」


ごめんなさい。そう言って謝ると、謝る必要は無いっすよ!!…ちゃんと会えたんで。なんて言って笑う影山くん。


かっこよ過ぎて直視出来なかった。



「はいはい、イチャつくのは後にしてもらってもいいかな。…名前さん、ホテルあった。ダブルだけど、いい?」


ダブル…という事はダブルベットが一つだけある部屋のことだ。


こう言っては誤解を産みかねないが、私とツッキーは一緒に寝たことがある。


そう、本当に寝たことがあるだけだ。勿論体の関係なんて無い。


何回か一緒に旅行へ行ったことがあり、(その度傷心旅行といじられ続けた)場所やタイミングが悪いとそうなってしまう事が度々あった。


しかし本当に私達には驚くべきほどに何も無く、すっぴんで歩き回るし、寝相でツッキーをぶん殴った事もある。


それらの経験もあり、私とツッキーは遠慮の無い関係へとなっていった。



「…まぁ、仕方ないよね。急だったしそこにしよ…」


「ちょ、ちょっと待て!!」


慌てて影山くんが遮る。どうしたんだろう、なんて一瞬思ったが、影山くん側からしたらとんでもない会話だ。急いで弁解する


「ちち、違うんだよ影山くん!!私達そんな関係じゃなくて!」


「まぁ、大人だし。色々ありますよね名前さん?」


「名前さん…?大人…?」


「誤解を生むような発言を慎みなさい!?…違うの、本当に。仲のいい友人みたいなもので、何も意識してないの、だからそんなこと出来る。」


あぁ、こんなので誤解は解けるのだろうか。


焦りながら言葉を選び、なんとか影山くんを落ち着かせる。


「…つまり、月島と苗字さんは仲がいい飲み友達で、たまに旅行一緒に行くくらい仲が良いが、付き合ってたり、その…体の関係とかそんなんは無い。…ですか?」


「そう!!そうなの!!」


良かった!!伝わった!!!


いくら仲がいいとは言え、年頃の男の子とこんな近すぎる関係を持ってはいけないな、と実感した。


「へぇ、影山でも体の関係とか知ってるんだ」


何下品なこと言ってるんだこの人は


「しし、知ってるに決まってんだろ。馬鹿にしてんのか!?」


それに対してしっかり動揺する影山くん。可愛い。


「とにかく、2人で泊まるのは…やめませんか」


「うーん…じゃあ今からでも頑張って宮城戻る?何時になるかな?」


正直、やっと会えた影山くんとろくに話せず宮城に帰るのは嫌だなぁ。と泊まる気になっていたのであまり乗り気にはなれない。


「さぁ…でもこんな状態の名前さんを無理やり宮城に帰すつもり?せっかくここまで来たのにさ。」


「…だ、だから……その…」


「なに?ハッキリいえば?」


「……俺の家、泊まりませんか。」


えっ


「そ、その、変なことしません。絶対。嫌がることもしないと約束するんで!!」


「別にいいじゃない、好き同士なんだから」


「「そういう問題じゃない!」」


「うわ、うるさ。…じゃああとは2人で相談して何とかして。明日の昼頃には東京出るから、時間とか場所とかまた連絡する。」


ちゃんと安静にするんだよ。なんて言ってツッキーは行ってしまった。さっきのホテルに1人で泊まるのだろうか。


じゃ、じゃあ、私は…


チラッと影山くんを見る


「…嫌っすか…?」


「…!!!…ふ、服とか何にもないから、買物行ってからお邪魔してもいいですか」


ふわぁっと嬉しそうな顔をする影山くん


「はい!…でも移動しんどそうなんで、俺の服じゃだめっすか?」


「あ…でも、下着も無いの。」


「!!それは買いに行きましょうっ」


少し顔を赤らめた影山くん。あれから随分大人になって、きっと女性関係も経験あるだろうに、ウブっぽい反応に笑ってしまう


なんとか下着、そしてパジャマは借りるので明日の分の服、そして家に泊まらせていただくのでお礼にご飯を作る為、その材料などなど、


そこまで痛くは無いが、固定されていて歩きづらい中踏ん張って買い物を終えた。下着以外は影山くんがお金出してくれて荷物も持ってくれている。


私のものなのに申し訳なくて断ろうとしたのだが、「大丈夫です、俺収入そこそこあるんで。」と言われ、そうだった…プロバレーボーラーでした…と呆然としている間に会計を済まされた。


移動はやはり電車で、荷物や私を庇うことで忙しかったであろうに影山くんはむしろ嬉しそうに笑っていた。その顔を見て私も幸せをかみ締めた。





「ここの8階っす。今日はエレベーター使いましょう。」


着いたのはとんでもオシャレなマンション。ざ、都会って感じだ。


数年前私が住んでいたのは東京と言えど、郊外の方だったのでここまで都会ではなかった。


流石高収入だよなぁ…家賃いくらだろ…なんて下世話なことを考えながらエレベーターに乗る。今日は使いましょうって言ってたあたり、いつもは階段で昇っているのだろうか。信じられない…。


8階へ着き、影山くんが鍵を開けて中へお邪魔する。


「どうぞ。」


「お、お邪魔します!」


「何緊張してるんすか」


笑われてしまった。でもあまりにすっきりしたお部屋で壁や床は外観からのイメージを裏切らないオシャレっぷりだ。


こんな家にお邪魔して、緊張しないと言うのは中々無理難題だ。


「ありがとう、荷物持ってもらっちゃってごめんね」


「いえ!…俺が泊まって欲しかったからいいんです。」


その言葉に少し、意識してしまう。何もしないと言っていたけど、少しだけ意識する。私も大人だ、仕方ない。


「じゃあ、ご飯作っちゃうね?」


使われた形跡があまりないキッチンに立つ。立派なキッチンなのに勿体ない。


「お願いします!…苗字さんの料理、久しぶりっす。」


そうカウンター越しに覗いてくる影山くん。どんな角度から顔を見てもかっこいいのはイケメンの証だ。


「…名前さん。」


「!?はい!?」


突然名前で呼ばれて驚く。じゃがいもを落とすところだった。


「月島が呼んでたんで…俺もいいですか?」


「い、いいですよ!」


「俺の事は…だめっすか。」


な、名前で呼んで欲しいってことだよね…言おう、と思うと少し恥ずかしくもなる


「…飛雄くん」


「…はいっ」


静かにはにかむ飛雄くん、もう20歳を超えた大人なのにすごく可愛く見える。


「名前さんが俺と会うまで何してたか、聞いてもいいっすか」


「うん、まずは東京行ってからだね…」


それから私の事を話した。母の完治、宮城へ戻ったこと。そしてツッキーと出会い、暫く勇気が出ず会いに来れなかったこと、そして烏野高校の皆とツッキーに背中を押され、ここまで来れたこと。


「…結局自分の意志で会いに来ちゃったんだけどね」


「めっちゃ嬉しいです、ありがとうございます。」


そう言って後ろから抱きしめる飛雄くん


「名前さん」


くるりとまわり、向かい合う


「俺に名前さんの夢を叶えさせてくれませんか。」


大好きな人と年老いる前に結婚すること。


普通の幸せを手に入れたい。それが私の夢だと言って笑わなかった当時の飛雄くん。


まだ、覚えていてくれたんだ。


「まだ、再会してすぐっすけど、やっぱりめっちゃ好きです。諦められなかった時間は無駄じゃなかった。探し続けて良かった。」


「俺、もう名前さん以外の人のこと好きになれる自信無いです。…だから、…あの、」


「俺と…結婚を前提に付き合って貰えませんか」


変わらぬストレートな想い。大人になっても尚、私に真っ直ぐな愛をくれる飛雄くん。


私は、幸せ者だ。


「…はい!!」


勢いのままに飛雄くんに抱きつく。それを飛雄くんはものともせず受け止め、お互いにきつく抱きしめ合う。


「これからよろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


緩みきった顔同士を突き合わし、最高の笑顔で笑い合う。


そして私たちはゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。


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