ブブーっブブーっと忙しなく鳴る携帯のバイブ音で目が覚めた。


誰ですか、しつこいなぁ…なんて目を開けると目の前に寝顔さえかっこいい飛雄くんがいた。無防備な顔もイイですね…!


昨日のいちゃつきっぷりを思い出し、少し恥ずかしくなるが晴れて私達は恋人同士になれたのだと実感し素直に嬉しくなる。


「…?…おはよう、ございます」


少し枯れた声で言う飛雄くん。まだ目を完全に開けられてないのでさえ愛おしい。


「おはよう、飛雄くん」


「携帯、鳴ってますよ」


「あ!!」


忘れてた、私もその音で起きたと言うのに。


一体誰だ、こんなに長い間着信してくるのは、と開けばツッキーの文字。


!!!!…昨日何時頃こっちを出るとかそんな連絡忘れて寝てしまったのだった。やばい、怒られる。


ツッキーは怒る時気遣いなんて言葉は知りませんとでも言うかの如く怒る。それはそれは容赦ない。怖すぎて涙も出ない。


未だ着信中になっている携帯を持って固まる。しかしツッキーがいないと私は新幹線でさえまともに乗れないのは事実。


意を決して、通話ボタンを押した。



「…遅い。」


「ご、ごめんなさい!!」


つい、目の前にいないのにベッドの上で正座する。


「何回かけたと思ってんの?何時の新幹線に乗るか決めないとこっちだって予定決めれないんだけど。影山の家なんて知らないから迎えにだって行けないし足の調子悪いんだったら連れてく事も考えないといけないのにそもそも連絡ないってなんなの?」


ほとんどノンブレスで言い切ったツッキーに何も言い返せなくなる。ごもっともです…ごめんなさい…。


「聞いてんの?」


「はい!!!すいませんでした!!」


「うるさい。鼓膜破れる。」


向こう側で溜め息が聞こえた。本当に手のかかる年上で申し訳ない、なんだかんだいつもお世話になってしまっている。


「…12時45分、東京駅来て。場所の詳細はメールする。影山にでも見せて連れてきてもらって。」


そう言うやいなやブチィッと通話を切られる。怖かった…怒ってた…。


ブルブルとマナーモードのように震える私を飛雄くんが心配する


「大丈夫でした…?月島っすよね?」


「うん…それはもう怒ってた。昨日帰る時間のことなんの相談も連絡もしなかったから…」


「あ…。すんません、俺も気付かなかったです。」


「いやいや!私自身の事だから。…ツッキーには申し訳ない事をしちゃったよ」


「12時45分に…えっと、東京駅のここに来てって言ってる。わかる?私全然駅とか電車とか使った事なくて。」


「…ここならわかります、一緒に行きましょうか」


「そう言えば今日飛雄くん休みなの?」


「はい、昨日試合だったんでオフです。明日からまた練習始まるんでタイミング良かったっす」


そう言って爽やかにはにかむ飛雄くん。


高校生の時は笑顔が怖いなんて日向くんから威嚇されてたのに、いつからこんな好青年になったんだ。惚れちまうぞコノヤロウ。



「そっか…今日でお別れなの、寂しいね。また会いに来るし、連絡もする。」


「はい、俺も行ける時そっち行くんで、遠距離でも頑張りましょう。…浮気、しないで下さいね」


心配そうな顔をして言う飛雄くん。自分の顔面偏差値をご存知なのだろうか。


「する訳ないよ。何年恋してると思ってるの?」


自分で言ってて自分に刺さる。高校1年生の飛雄くんに恋をして6年会ってもないのに未練引きずる系アラサーです。どうも。…とんでもない女だ。


「…!はい、俺もずっと名前さんの事ばっかり考えてたんで、浮気の心配はしないで下さいね。」


彼の場合美人さんと出会う機会が多いであろうし、アプローチされる機会も段違いに多いだろう。いくら彼が私に一途だとわかっていても、そう言った場面は心配にもなってしまう。


「あ…でも、たまに週刊誌とかに撮られる可能性はあります。女の人と歩いてるだけで撮られること、それででっち上げられること。絶対何か理由や用事があってそうなってるハズなので、その都度説明…というか、言い訳、してもいいっすか…?」


確かに、彼は有名イケメンバレーボーラーだ。彼のスキャンダルなんて週刊誌のいいネタだろう。



「うん、勿論。たぶんその都度心配になると思うけど…」


「すぐ、連絡します。それに心配な事があったらすぐ聞いてください。抱え込まないでください。極力早く連絡します。」


肩を捕まれ強く言われる。その勢いの強さに少し笑えてきてしまう。



「…?どうしたんすか?」


「ふふっ…愛されてるなぁって思ったの。心配なまま過ごして欲しくない!!って気持ちがすごく伝わって」


「!!…伝わってるなら、いいっす。絶対俺名前さん以外に靡かないんで。」


照れたようにそっぽを向きながら言われる。真っ赤になった耳が愛らしい。


「…うん、信じてる。…そろそろ朝ごはんの準備しようか?」


「!はい!!」





朝ごはんを一緒にとり、ツッキーと待ち合わせの時間まで飛雄くんの家でごろごろする。


飛雄くんの足の間に入って、後ろから抱きしめられるこの体勢はすごく落ち着くが、すごく恥ずかしい。


「え!菅原くん教師になったんだ!!」


「はい、会った時聞かなかったっすか?」


私たちの話題は烏野高校のメンバーの事だった。


そういえば、と飛雄くんが烏野高校バレー部の当時のメンバーへ「無事再会出来て、結婚を前提に付き合えました。」と連絡した所から、


それはもう物凄い勢いでお祝いのメッセージが彼の携帯に押し寄せた。ずっと通知が鳴っている。最初の方こそ返事をしていたが、彼はスマホを扱うのが苦手らしく、


返事をするのが遅いためどんどん来るメッセージに返事を入力する事を諦めた。


そして今私達はピコンピコンと机の上で鳴り続けてる飛雄くんのスマホを眺めながら会話している。ごめんよ皆。飛雄くんはもう諦めた。


「へぇ、澤村くんは警察官かぁ。なんか、ぽいね。」


「はい、合ってるなぁって思いました。」


皆の進路を聞いて面白く感じる。そうだよね、皆がみんなバレーの道に進む訳では無い。


「田中さんと清水さんの事は聞きました?」


「うん、夢かと思った」


「中々失礼っすね」


ははっと笑う飛雄くん。でも私は本当に夢かと思った。まさか田中くんと結婚するとは…!田中くんが悪いとは思わないけど、清水さんがあまりにも美人だから衝撃が強すぎた。


「幸せそうな2人を見てたら、やっぱり結婚っていいなぁ。なんて思ったよ」


なんの考えも無しにそんなことを言ってしまった。しまった、昨日付き合ったばかりなのに重過ぎた。


慌てていつか出来ればいいよね的な事を言おうとしたが


「もう少し、もう少ししたら俺のお嫁さんになって欲しいっす。」


「…へ、」


「まだ急過ぎるし、俺はまだ結婚とは如何なるものか正直女の人の苗字が変わること程度しかわかってないっす。親御さんへの挨拶とかいつすればいいのかよくわかんねぇし…だから、ちゃんと勉強します。名前さんに見合う男になります。それまで長くは待たせません…だからちょっとだけ待ってて欲しいっす。」


真剣な顔をして言う飛雄くん。


どこまで期待を裏切らない男なのだ、君は。


「……ありがとう!!好き!!」


「!?」


語彙力の無さが伺われる愛情表現をしながら、後ろにいる彼に勢い良く抱きついた。


自分でも凄い勢いだったと感じるので、受け止めた彼はさらにびっくりしただろう。


「…!名前さん、そろそろ行きましょうか」


「あ!そうだね!準備する!」


急いで荷物をまとめて、玄関へ向かう


「じゃあ行こうか…!?」


外へ出る直前で抱きしめられる


「月島いるとあんま…その、…いちゃつけないんで。…宮城帰ってもちゃんと連絡してください。俺もします。」


「うん、必ず。」


「あと、会える日は会いましょう。でも無理はしないように。」


「約束する。」


「最後に、…俺の婚約者だって事、忘れないで下さい。」


次会った時に、指輪見に行きましょう。なんて言って笑う飛雄くんに涙が出た。


東京来てから泣いてばっかだなぁ、私。


「もううう、なんでまた泣かすのお」


「す、すいません!?」


「…嬉しい。婚約指輪見に行くの楽しみにしてる。私は飛雄くんの婚約者です、って言う証、早く欲しいな。」


宮城へ戻っても、楽しみなことがあるだけで頑張れる。


幸せのお土産まで持たせてもらって、私はやっぱりこの人の彼女で幸せだ。


「婚約指輪するまでは、変な男に引っかからないでくださいね。」


じとーっと見られる。


「大丈夫!!…出来る限り沢山連絡する。心配しないで?」


「…はい。行きましょうか。」


満足そうに飛雄くんが微笑んだのを確認して、私達は東京駅へ向かった。


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