「…あぁ、ちゃんと来れたね。凄いじゃん」


「「なんだと!?」」


「わぁ、息ぴったりぃー」


東京駅で指定された場所に着いた途端ツッキーに煽られた。職人の如く自然に煽るツッキーはもうプロだと思う。


「じゃあ乗り遅れる前に行くよ。」


「う、うん…!」


あ、もう行かなくてはいけないのか。


隣に立つ飛雄くんを見る、彼も同じ表情をしていた。


「…話したければ、話せば」


ぶっきらぼうにツッキーが言う


「…!ありがとう!…えっと、げ、元気でね!」


「う、うす!!…その、連絡ちゃんとして下さいね」


「うん、飛雄くんもね?」


「はい、…浮気しないで下さいね」


「うん。勿論、極力男の人と関わることは避けるよ!」


「じゃあ、僕と出かけるのも今日が最後だね」


「…あ」


そうなってしまう、そもそもツッキーとの距離感は近すぎたようにも思う


しかし、私からしたらツッキーはただの男の人では無くてだらしない所もダメな所も全部知ってて、それでも見放さないでくれる人なのだ。


恋愛感情は勿論ないが、だからといって簡単に手放せるような人ではない。


「今日が、最後…?」


「当たり前でしょ、彼氏いるのに違う男と頻繁に会うとか辞めなよ。」


「そ、そっか。そうだよね…」


むしろツッキーからしたら私は簡単に離れられる存在であったことにショックを受けた。


私の意志を知ってか知らずか、おもむろに飛雄くんが口を開く


「あの…月島なら、いいっすよ」


「え?」


「何言ってんのお前」


「だって、月島と名前さんは俺と再会する前から仲良かったんだろ。今更2人のこと疑ってねぇし、その関係壊して、その、無理してまで俺の事優先とか安心させなくていいっす。」


「名前さんがいたいと思う人とは、一緒にいて欲しい。…そんで、名前さんが悩んでたりしたら、近くに居られない俺の代わりに話聞いてあげて欲しい」


深い愛情があるからこそ言える言葉に、胸が熱くなる。


飛雄くんはこんなにも私のことを想ってくれるんだと痛いくらいに伝わった。


「…まぁ2人がいいならいいけど。」


「…!ありがとう、飛雄くん。私にとってもツッキーは大事な存在なんだ、許してくれてありがとう」


「…いえ、ただ月島よりも俺の事優先してくれたら嬉しい…っつーか…」


「当たり前だよ!!何より大切だよ、忘れないで。」


「…うす」


照れ臭そうにはにかむ飛雄くん、こちらまで嬉しくなる



「じゃあ、そろそろ行くよ、時間ギリギリなの嫌だし。」


「うん、じゃあまたね!飛雄くん!!」


「はい、また電話します!」


そう言って私達は離れた。しかし以前とは違い、私たちの間には次があった。


また会える、そんな関係になれたことに嬉しさが込み上げながら、


東京から宮城へと向かう新幹線の中で口角が上がるのを必死に抑えていた。






「…で?どうだったの、久しぶりの影山は。」


「…かっこよかった、優しかった。」


「え、何そのつまんない感想」


「だって!!それしか!!」


そう言って顔を手で覆い隠す。だめだ、思い出してニヤける。


昨日のいちゃつき、そして今朝のいちゃつき。思い出すと恥ずかしくもなるが、甘やかしてくる飛雄くんのことも思い出してニヤける


「うわ、気持ち悪。」


「それは流石に酷い」


「だって、顔。」


さらに酷い。今日もオブラートを知らないらしいツッキーはド直球だ。


「思い出すとニヤけるくらい、楽しかったの!次会うのも楽しみなの!!」


「…あっそ、まぁわざわざ試合見に行ったかいあったんじゃない」


「あった!ありがとう!ツッキー!」






あの人と影山がめでたく付き合った。


これで僕はお役御免。彼氏のいる人に付きまとうつもりは無く、宮城へ帰ったらもうあの関係は続けられないと思っていたのに、


あいつは僕の気持ちを知っててこうしたのか、知らずにこうしたのか。どちらにせよタチが悪い。


離れなければ、忘れるものも忘れられない。


嫌なのに、あの人のように忘れたいのに好きで居続けるのは苦しいってわかってるのに、


これからも、名前さんの隣にいられることに喜びを感じてしまってる。もう理性で動けていない。


僕は、どこまで名前さんが幸せになったら諦められるのだろうか。


それを確かめるまでは、隣にいることにしよう。名前さんが僕を必要としてくれるまでは。


僕は、まだあなたを諦めない。


back
top