失敗!
「今日は本当にありがとう!」
「ん、おやすみ」
そう言ってツッキーは踵を返し、帰宅した。毎度の事ながら家まで送ってくれるのは申し訳ないが、有難い。
家に着いたので、飛雄くんに連絡してみようか。
なんと言っても連絡先を交換したのは今日が初めて。メッセージアプリに載っている「影山飛雄」の文字を見てにやつく。
へへっ、これ世界の影山飛雄の連絡先なんだぜっへへっなんて誰にも言うことが出来ないが、自慢したくなるくらいには嬉しかった。
メッセージ送ろうかな。今は19時。まずはこんばんはだな。それで無事家に着きました、とか。うんうん無難だ。
なんて飛雄くんとのトークルームを開いたまま悩んできたら、シュポッと言って飛雄くんの方からメッセージが来る。
うわぁ!!速攻で既読つけてしまった!!ずっとトークルーム眺めてるヤバい奴だと思われただろうか。
突然メッセージが来た驚きで思わず携帯をベットへ投げてしまった。慌てて携帯を拾い上げ、メッセージを確認する
「無事家に着きましたか。」
「影山飛雄です。」
見ればわかるよ、と笑いが込上げる。スマホに慣れてない現代人め…
「無事着いたよ、今日はありがとう!楽しかった。」
「今、時間ありますか」
「?」
「あるよー」
「電話したいです。」
ででで、電話。日頃直接話してるから何もビビることはない。だが少しばかり緊張してしまうのは何故だろう。
「しましょう!」
そうメッセージを送り、勢いのまま電話マークをタップする。ドキドキして着信を待つよりこっちの方がまだマシだ。
「…もしもし」
「もしもし!!」
「…ふふっ、名前さん声裏返ってますよ」
緊張のあまり声が裏返ってしまった。は、恥ずかしい…情けない…
「ちょ、ちょっとなんか電話って緊張するね」
「そうっすか?俺はメッセージ送るの苦手なんでこっちの方がいいっす。」
「じゃあお互い時間が合えば電話するようにしようか」
「いいっすね!!そうしましょう!!」
電話越しに弾んだ声が聞こえる。表情はわからないが、嬉しそうにはにかむ飛雄くんが目に浮かぶ。可愛い。
「どれくらい、電話してもいいですか?」
「時間?今日は明日から仕事だしそんな遅くなるのは辞めときたいな。」
「わかりました。あの、頻度は」
「頻度?うーん…飛雄くんはどうしたい?」
頻度と言われると悩む。やってみないとなんとも言えない。
「毎日、電話したいです」
ぐぅううっとつい唸ってしまう。実物は巨人のつり目さんなんだが、それをわかっていても可愛い、女子力でもう負けてる気がする
「じゃあ毎日しようか!無理そうな日は事前に連絡しましょう」
「うす!…名前さんは毎日でも大丈夫っすか」
「?うん、大丈夫だよ。明日からも電話しよう?」
何故か、先程から凄く気を遣われてる気がする。
「何か心配事でもある?」
「あ、え、…あの…、嫌われたく、なくて。」
「え?」
「俺、名前さんと付き合えて、正直凄く舞い上がってるって言うか…浮かれてます」
私だって浮かれまくってる
「それで、浮かれたまま名前さんと接して、名前さんが嫌がるようなことしたら、って考えたら…その、怖くなって。」
「大事にしたいんです。昨日も言ったけど、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで大事にしたいんです。だから、ひとつひとつ確認しながら名前さんと一緒にいたいんです。」
胸の奥があったかくなる、嬉しい。今すぐにでも飛雄くんに抱きつきたくなる
「…ありがとう、凄く凄く嬉しい。」
「…っす」
「私も凄く浮かれてるよ、飛雄くんのアイコン見てにやにやしてられるくらいには。」
「?楽しいっすか?それ」
「普段なら楽しくないけど、飛雄くんのだから。連絡先交換して嬉しくなっちゃうの。」
「!…名前さん、早く会いたいっす」
「うん、私も」
今日離れたばかりなのに、もう会いたくなってる。
その事実に2人で笑いあった日曜日。
そして飛雄くんの彼女になってから初めての平日がやってきた。
毎晩出来るようなら電話をする事とし、東京で話していた簡単な料理についても教えた。
鶏胸肉の照り焼きは高タンパクヘルシーで、調味料も同じ分量しか入れないので楽ちんだ、覚えやすいだろう。
カレーだって箱を見ればわかる。見ればわかるのだ。
鶏胸肉のつくねは成形が多少面倒だが、主に鶏胸肉と豆腐で出来てるので無駄な脂質は無い。アスリート向けだ。冷凍しておけばいつでも食べられる便利おかずである。
などなど色々と電話で教えているうちに、いや待てよ。セッターである飛雄くんの大事な指先に傷でもついてしまったらどうする?とか
包丁で怪我してしまったら…とかフライパンでやけどしてしまったら…などと考え始め、最終的に私が次東京へ行った時に実演しながら、注意事項もまとめて教えることにした。
飛雄くんは基本の基本がわかっていなさそうで、かつかなり大雑把だから料理中の怪我は大いに有り得る。我ながらナイス判断だ。
とは言え、早く東京行って教えてあげないと彼は夕飯を適当にとってしまう生活を継続している為、体に悪い。
でもいつにしよう。新幹線は私一人じゃ無理だし、車で行くにしても時間かかるしなぁ、時間に余裕が無いと行けない。
なんて考えていたが、そんな事言ってるといつまで経っても行けないよ!?東京!!と里香に言われ、
早速今週の金曜日有休を取って、東京へ行く事にした。
ちなみに飛雄くんには内緒だ。だが飛雄くん家の駐車場の場所はなんとか自然に聞き出せた。
飛雄くんは車を持ってないらしく、駐車場は余ってるから私が車で来ても平気だと言っていた。有難い、その駐車場を使わせてもらって、飛雄くんを驚かせるぞ。
◇
そうだった、何をしているんだ私は。
飛雄くんのマンションの前で立ち尽くす。家の鍵なんて持ってないじゃないか。
自分の頭の弱さを嘆く。うわぁぁ、東京まで来ちゃったよおお
今はまだ昼14時。飛雄くんが練習終えて帰るまでまだ5時間程度ある。困った。
すっかり意気消沈しながら車へ戻る。
あと5時間、何しようか。飛雄くんに連絡したい気持ちも出てきたが、あちらは練習中。邪魔にはなりたくない。
どうしたものか、と車のトランクに荷物を入れ直し、周囲を見渡すと、かち合う視線。
…?誰だろうあの人。
あれ、近づいてる。私…ではないよね?あれ?
後ろを振り返っても誰もいない。平日の昼間。そもそと人や車の通りも少ない時間帯だ。
どんどん近づいてる男の人。…ん?なんか見覚えが無い訳でも、無い
「あの、」
「は、はい!!」
「苗字名前さんですか?」
ええええ、なんで名前知ってるのおおお
「は、はい…そうですが…」
「あぁ、やっぱりなぁ、見せてもらった写真に似てると思ったんよ。すまんな急に」
「いえ…あなたは…?」
写真とはなんの事だろうか。
「俺は宮治、侑と双子や。知っとるやろ?宮侑」
「あ!!!」
どこかで見たことがあるような気がしたのはそのせいか。
「ところで自分、こないなとこで何しとるん?」
「あー…あの、」
恥ずかしい、恥ずかしくて穴があったら入りたい級のこうなるまでの経緯を話した。
「マジか!!ようそれで来たな!?」
「……うす」
「はー、大変やなぁ…そんならアイツらの練習見に行ったらどうや?俺もこれからそこ行くねん。」
「え?場所知ってるんですか?」
「おん、知っとるし、あのー影山くんの彼女さんやろ?入れると思うで一緒に行くか?」
「えっ!!」
行きたい…!見たい…!!
でも行って練習の邪魔だ、とか言われてもおかしくはない。プロの方々だ。好奇心だけで立ち入ってはいけない気がする…
「あ、気楽にしてええで、色んなやつ見に来たりしとるで。高校の時のチームの奴らとか、家族とか。だから、苗字さんも来てええと思うよ」
どうする?と首を傾げて聞いてくる宮治さん。
飛雄くんに悪いけど、行かせてもらおうかな。びっくりさせてしまうだろうな…
「行きます、案内お願いします!!」
「よっしゃ、ついてきぃやー!」
※宮治さんのキャラも口調も微妙によく分かってません。不快な思いさせてしまったら申し訳ございません。
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