おやおや?


「あ。」


「おやおや?」


ガラガラガラガラ!!!


あ、悪人がいた!!逃げなきゃ!!


ガラガラとキャリーバッグを鳴らして走る、後ろを振り返ればニヤァと笑って追いかけてくる悪人こと黒尾さん


な、なんでいるんだ!?あの人選手じゃないでしょ!?


「よっと、」


「ぎゃあああああ!!!」


「うわ、うるさ!!」


「降ろせぇぇぇぇ!!!」


「嫌だねー!」


いつかのように抱き抱えられてぐるぐる回られる


「の、呪う……!!今度こそ呪う…!死の呪いをかける!!」


「いつから黒魔術師になったんだ?猫ちゃんは」


「猫じゃねぇよ!!どっちかって言うと猫はそっちだろ!!」


「元な、元。苗字ちゃんは見るからに猫だろ」


「知ってる……私は知ってるぞ…皆が言う猫と言うのは可愛い猫じゃなくて、凶暴な猫なんだって!!」


「よくわかってるね」


「きいいいいいい!!!!」


「ほらほら、こんな他の男と触れ合ってるとこお宅の彼氏に見られたらやばいんじゃない?」


「!!!お、降ろして!!まじで!!やばい!!真顔で怒られる!!!」


「やーだねぇー!」


脳裏によぎる真顔でノンブレスで説教してくる飛雄ちゃん


日頃優しくて、穏やかな分めっちゃくちゃ怖いのだ


ぷるぷる震え出す


「ま、まじで………おねしゃす………」


「え?まじで震えてんじゃん、大丈夫か?」


「お、降ろしてぇ………」


「……そう言われると降ろしたくなくなるのが俺の性なんだよなぁ」


こ、コイツ……!!こいつぅうううう!!!うわああああん!!!



「びゃあああああ!!」


「うわ!?す、すまん!!すまんから泣くなよ!」


「うわああああ!!飛雄ちゃあああん!!!」


ムカつくし、飛雄ちゃんに怒られたくないし、でもニヤニヤ楽しんでる黒尾さんに対する怒りから涙が溢れた。飛雄ちゃん助けてぇー!


「!?名前さん!?」


「と、飛雄ちゃあん……」


「な、なんで泣いてるんすか」


「すまん影山、俺がちょっといじめ過ぎた」


「あぁ……」


黒尾さんから飛雄ちゃんに飛び移り、えぐえぐ泣く。安心する大好きな匂いに顔を擦り付ける


「……名前さん、探しましたよ」


「…ごめんん」


「入口で待っててくださいよ」


「それは性にあわない」


「は?」


「次から気をつけます」


「訓練されてんなぁ」


「あとまた牛島さんにお菓子貰ったでしょう」


「貰った!美味しいクッキー!」


「お礼言いました?」


「言ったよ!もちろん!」


「ならいいっす。まだ練習あるんで、待てます?それか先に家帰ってます?」


「待ってる!」


「腹減らないっすか?」


「お菓子あるし、牛島さんと会うと1日何回でもお菓子貰えるから大丈夫だよ!」


「!?辞めてください!?」


「(牛島さん何個名前さん用のお菓子持ってんだ……)」


「大丈夫、ちゃんとお弁当も作ってきたから!」


「……そっすか、いい子にしててくださいね。もう逃げないこと、人を襲わないこと、お腹空いても我慢すること。いいっすね?」


「いいっす!」


「いや内容おかしくない?人を襲わないって何??」


「名前さん腹立つとすぐ人を襲っちゃって返り討ちにあって、俺の元に帰ってくるので。」


「いやぁここにいるヤツらすげぇガタイいいから気をつけねぇとボコボコにされるぞ?」


「ボコボコにしたる!!」


「いや威勢はいいな」





「お?飛雄くん、ちゃんと苗字と会えた?」


「はい、ありがとうございました目撃情報。」


「おー良かったなぁ、……あ、おるやん、見学して行くんか?」


「はい、先に家帰るか聞いたら待ってるって言ってたんで」


「ほー?じゃあかっこええとこ見せないかんなぁ」


「いや、駄目っすね」


「え?」


「あんまかっこいいとこ見せると気絶するんで」


「あー……事実だとわかっていても、飛雄くん自身がそれを言うとナルシストみたいやな」


「えっ!?」


「苗字さーん!」


「しょーよー!!見てるよー!かっちょえーとこ見せてー!」


「お任せください!!ビックリしますよ?」


「お??煽っとんのか??お??やんのかコラ」


「なんで田中さん風になるんすか……」


「あ!!牛島さん!!クッキー美味しかったですー!」


「……そうか、なら良かった」


「いつも餌付けありがとうございます!」


「「「(餌付けされてる自覚あるんだ…)」」」





練習が終わり、着替える飛雄ちゃんを待つ


皆普段は私のことを構ってくれる楽しい人達だけど、プレーが始まると別人だ


皆かっこいい、あの翔陽にでさえ、キャー!って言ってしまった。大人の魅力だろうか、仁花ちゃんすまん、ちょっとだけ惚れそうになってしまった


しかしやはり我らが影山飛雄が1番だった


かっこいい、ほんとかっこいい。私の頭を撫でる優しい手が、コートの中だとスパイカーへトスを上げる手に変わる


それを意識すると顔に熱が集まる。な、なに不埒な事を考えてるんだ!!


そんなかっこいい面もあれば、度々私の方を見てくる可愛いとこもあって供給過多だ。心臓がえらいことになってる、明日死ぬかもしれない


「すんません、お待たせしました」


「いえ!!帰ろ?」


「はい、……持ちます」


「え?私を?」


「……キャリーバッグの方です。持ち上げられすぎてバクってますよ」


あぁ、そっちか!!




「よし!!ご飯?かな?お風呂?かな?」


「名前さんがいいです」


「???」


「いやその何言ってんだって顔やめてください」


「??だって今帰ってきた所だよ?汗かいてるし、ヘロヘロでしょ?」


「汗はかいてますけど、ヘロヘロじゃないです。風呂一緒に入りましょう」


「嫌だね!!」


「は!?」


「そうやってご飯も後回しにしてする気でしょ!?もう惑わされないんだから!!!」


「いや惑わしてるつもりは無いっすけど…むしろあからさまでしょ」


「な、なんだと…?」


最近になっていつの間にか抱かれてる理由を突き止めるため、飛雄ちゃんの手口を調べた結果だったんだけど…!?


「と、飛雄ちゃんはいつからそんなスマートな手口を使える男になったんだ…」


「いやスマートも何も………名前さんが純粋なだけでしょう」


「あ、当たり前じゃん!?飛雄ちゃんしか知らないんだし…」


「……俺もそうです、そのままでいてくださいね名前さん」


飛雄ちゃんとこのまま添い遂げるつもりしかないので、当たり前でしょと言おうとしたが、


「ちょ!?」


「風呂、行きますよ」


持ち上げられて、問答無用で風呂へと運ばれる


ま、待て、今日は先にご飯を……!!


私の意思は伝わらず、想像した通りの結末となった。

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