親友の座
「うーん?それは使うならいるんじゃないかな……?」
「……わっかんねぇ、姉ちゃんに聞いてみる。」
「うん、絶対私に聞くよりそうした方が良いよ。」
「何してんだ?」
「日向。影山くんがもうすぐ一人暮らし始めるから、何がいるかなー?って見てるの。」
「ぐぬぬ……お前一人暮らし……なんか負けた気分…。」
「なんで…。そしてなんでドヤ顔するの影山くんも……。」
ふふん、と口角を上げている影山くん。そんな顔も様になってしまっているのでイケメンは侮れない。
「日向も来年には向こうで一人暮らしでしょ?」
「んー、まだわかんねぇけどそうなるかなぁ?」
「じゃあ今影山くんと一緒に何が必要か見ておいたら?結構1から揃えるの大変そうだし。」
実家暮らししか経験していない私達では想像つかない程、一人暮らしとは大変らしい。
現に今とりあえず必要な家電や生活雑貨を洗い出してみても、とんでもない量だ。
親が出してくれるならまだ良いが、これを自分で全て用意しろ。なんてなってしまったら莫大なお金がかかる。家を出るって大変なんだなぁ…。
「……そうだな、俺にも見せろ!影山ー!」
ふむ、と頷き影山くんの隣に座る日向。
真剣にスマホを覗き込む彼らは、第三者からしたら大変仲の良い2人に見えるなんて、気づいてすらいないだろう。
◇
「もうすぐ自由登校かぁ。」
「ね、早いね。」
「俺はバレーしに学校来るけどな。」
「そ、そんなの俺だって!!」
結局3年間何も変わらず言い争っている2人。
もはや他の同級生バレー部達はガン無視するほど、日常的な出来事だ。
「苗字は?……来なくなるか?」
「そうだね、私は学校に用事無いし。」
「ええええ!!!つまんねぇ!!苗字と話せないのかよ!」
「しょうがないじゃん、卒業したらどっちみちでしょ?」
「ブラジル行くまでは、家に遊びに行くつもりだ!!」
「え!?」
聞いてないぞ、そんなお日様襲来イベント。
「……俺も、会いに行くから。」
「そんな、無理しないで。2人の方がきっと大変なんだろうし、」
「無理なんかしてねぇよ、会いたいから会いに行く。」
キリッとした顔で言われてしまうと、どうにも顔に熱が集まる。ずるいよイケメン。ずる過ぎる。
「……はぁ、これで緊急会議も無くなるのかぁ。」
ため息をつく日向。確かに、会うことも無くなるし仕方ない。
「会わないのに会議することないしね。」
「……んー、そうじゃなくても。」
へらり、少し寂しげに笑う日向に、首を傾げる。
「………うん?」
どういう事?
日向の発言にすら宇宙が広がる、にゃああ。
「そもそも、緊急会議って何してたんだよ。俺だけハブって。」
「影山くんには言えない、俺らだけの会議さ!!な?」
肩を組んで、うむうむ。と頷く。影山くんの研究会議。結局3年間かけてもよくわからなかったけど。
「んだよそれ。苗字、日向ブラジル行ったら教えてくれ。」
「い、いやいや!流石にそれは無理、」
「おい!!俺がブラジル行ったら苗字の親友の座を奪うつもりか!?」
どんなつもりだよ。
つい呆れた顔をしてしまう、誰得?その座。
「いや、親友の座はいらん。」
しれっと言う影山くんに、私も頷く。そんなの欲しがるのはお日様ぐらいでは無いのか。
「はぁ、嫌だなぁ可愛い可愛い苗字が影山なんかに盗られるのは。」
「いやだから、そんな事ないし、日向以上に仲良い友達いないから安心して。」
「そこじゃないよ、苗字……。」
え?どこ?
首を傾げる私に対してふん、とドヤ顔を決めてる影山くん。更に分からない。
「残念だったな、日向。日本に戻ってくる頃にはお前の場所は無くなってる。」
「……にゃ、ん、だ、とおおおお!!?」
ぐわっ!と飛びかかった日向。今日も始まるいつもの喧嘩に、私は1つため息をついた。