親友の座

「うーん?それは使うならいるんじゃないかな……?」


「……わっかんねぇ、姉ちゃんに聞いてみる。」


「うん、絶対私に聞くよりそうした方が良いよ。」


「何してんだ?」


「日向。影山くんがもうすぐ一人暮らし始めるから、何がいるかなー?って見てるの。」


「ぐぬぬ……お前一人暮らし……なんか負けた気分…。」


「なんで…。そしてなんでドヤ顔するの影山くんも……。」


ふふん、と口角を上げている影山くん。そんな顔も様になってしまっているのでイケメンは侮れない。


「日向も来年には向こうで一人暮らしでしょ?」


「んー、まだわかんねぇけどそうなるかなぁ?」


「じゃあ今影山くんと一緒に何が必要か見ておいたら?結構1から揃えるの大変そうだし。」


実家暮らししか経験していない私達では想像つかない程、一人暮らしとは大変らしい。


現に今とりあえず必要な家電や生活雑貨を洗い出してみても、とんでもない量だ。


親が出してくれるならまだ良いが、これを自分で全て用意しろ。なんてなってしまったら莫大なお金がかかる。家を出るって大変なんだなぁ…。


「……そうだな、俺にも見せろ!影山ー!」


ふむ、と頷き影山くんの隣に座る日向。


真剣にスマホを覗き込む彼らは、第三者からしたら大変仲の良い2人に見えるなんて、気づいてすらいないだろう。





「もうすぐ自由登校かぁ。」


「ね、早いね。」


「俺はバレーしに学校来るけどな。」


「そ、そんなの俺だって!!」


結局3年間何も変わらず言い争っている2人。


もはや他の同級生バレー部達はガン無視するほど、日常的な出来事だ。


「苗字は?……来なくなるか?」


「そうだね、私は学校に用事無いし。」


「ええええ!!!つまんねぇ!!苗字と話せないのかよ!」


「しょうがないじゃん、卒業したらどっちみちでしょ?」


「ブラジル行くまでは、家に遊びに行くつもりだ!!」


「え!?」


聞いてないぞ、そんなお日様襲来イベント。


「……俺も、会いに行くから。」


「そんな、無理しないで。2人の方がきっと大変なんだろうし、」


「無理なんかしてねぇよ、会いたいから会いに行く。」


キリッとした顔で言われてしまうと、どうにも顔に熱が集まる。ずるいよイケメン。ずる過ぎる。


「……はぁ、これで緊急会議も無くなるのかぁ。」


ため息をつく日向。確かに、会うことも無くなるし仕方ない。


「会わないのに会議することないしね。」


「……んー、そうじゃなくても。」


へらり、少し寂しげに笑う日向に、首を傾げる。


「………うん?」


どういう事?


日向の発言にすら宇宙が広がる、にゃああ。


「そもそも、緊急会議って何してたんだよ。俺だけハブって。」


「影山くんには言えない、俺らだけの会議さ!!な?」


肩を組んで、うむうむ。と頷く。影山くんの研究会議。結局3年間かけてもよくわからなかったけど。


「んだよそれ。苗字、日向ブラジル行ったら教えてくれ。」


「い、いやいや!流石にそれは無理、」


「おい!!俺がブラジル行ったら苗字の親友の座を奪うつもりか!?」


どんなつもりだよ。


つい呆れた顔をしてしまう、誰得?その座。


「いや、親友の座はいらん。」


しれっと言う影山くんに、私も頷く。そんなの欲しがるのはお日様ぐらいでは無いのか。


「はぁ、嫌だなぁ可愛い可愛い苗字が影山なんかに盗られるのは。」


「いやだから、そんな事ないし、日向以上に仲良い友達いないから安心して。」


「そこじゃないよ、苗字……。」


え?どこ?


首を傾げる私に対してふん、とドヤ顔を決めてる影山くん。更に分からない。


「残念だったな、日向。日本に戻ってくる頃にはお前の場所は無くなってる。」


「……にゃ、ん、だ、とおおおお!!?」


ぐわっ!と飛びかかった日向。今日も始まるいつもの喧嘩に、私は1つため息をついた。

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