前向いてこうぜ
ぐっ、と口元を引き締める。
力を緩めたら泣いてしまいそうだ。
桜舞い散る烏野高校で、卒業証書片手に私は今頃後輩達に囲まれているであろう2人を待っていた。
◇
「苗字!おまたせ……ってなんだよその顔!?」
「なにが。」
「……泣きそうだぞ。」
あわあわと慌てる日向とおろおろと心配してくれる影山くん。
「大丈夫だよ、感傷的になってただけ。」
「苗字も、卒業寂しいか?」
「寂しいよ。……2人と過ごす時間はすごく楽しかったから。」
だ、ダメだ。そう思った時には零れ落ちた涙。
ぽたり、制服のスカートにできた染みはどんどん増えていって、2人の前だと言うのに私は顔を覆ってうずくまってしまった。
「…………っ苗字!!もおお、泣くなよおお!!」
ぎゅうう、と抱き締めてくれる日向。暖かい。本当にお日様のように心地よい暖かさ。初めて会った時と同じようにまるで太陽のようだと思ってしまう。
「だってぇ……。」
「絶対会いに来るからな!!日本にいる時も、ブラジルにいても!!こっち帰ってきた時絶対苗字のとこ行くから!!」
「ぜったい…。」
「おう!!絶対だ!!」
よしよし、と頭を撫でて慰めてくる日向に、いつもなら夏ちゃんじゃないんだから辞めてよ。と言うところだが、
今だけは、日向の謎に高いお兄ちゃん力に今日は頼りたくもなった。
心地よいリズムで撫でる優しい手と陽だまりのような暖かさに、また少し泣いた。
◇
「…………っ苗字!!もおお、泣くなよおお!!」
そう言って苗字を抱きしめる。
隣に立っていた影山の手が行き先を失くす、悔しそうにこちらを見てきた影山と目が合い、俺は笑みを浮かべた。
まだ、この場所は譲ってやんねぇよ。
小さく小さくなっている苗字を撫でて、抱き締めて。大丈夫だよ、大丈夫だよ。と慰める。
泣いてる苗字を見て、俺だって泣きそうだ。たぶん苗字よりずっと俺の方が苗字を必要としてる。
でも、俺はブラジルに行くよ。
俺に必要な事だから。でも、それが終わったら。
心配そうに苗字を見守っている影山を見て、息を着く。
いつか、苗字の事迎えに来れる日が来るといいなぁ。
もしかしたら来るかもしれない日、思った通り来なかった日。どちらになるかなんてわからない、未来のことなんてどうなっているかわからない。
だからその日までは、お前との楽しかった思い出って言う宝物と一緒に前だけ向いていくよ。
苗字も、
「寂しいのは今だけだ!前向いて生きてこうぜ!!」
いつもみたいに肩を組んで声をかける。すると目元を赤くしながらも笑う苗字。
ずっとこうやっていられたらいいのに。
それを思ったのは俺か苗字かどっちだろうな。