大人の余裕

「…………おす。」


「あ!こんにちは、影山くん。」


東京にて、すっかり立派になってしまった同級生と並び歩く。


今日は、影山くんとお出かけだ。





『はああああ!!?じゃあ明日影山とデートすんのかよ!?』


「で、デートじゃない。家具とかカーテンとか新調したいから一緒に選んで欲しいって、言われただけ。」


『それは!!傍から見たら!!デートなんです!!』


いつも通り、いやそれ以上に騒がしいスマホから耳を遠ざける。うるさい。


太陽光がさんさんと降り注ぐ国へ行った、太陽のような人からのほぼ3日に1回は来る電話で、影山くんとのお出かけの話をしたらこんな事を言われてしまった。


『大体なんで苗字なんだよ!?お姉さんとかいんだろ!?』


「それは…知らないけど、私あんまり東京とか行ったこと無かったからさ、東京の話聞いてたら見てみたいなぁ。って話になって。それで東京観光も兼ねてこっち来ないか?って。」


『デートじゃん!!!』


「で、デート……なのかな……?」


『……くっそう、本当に俺が日本に帰る頃には居場所無くされてそうだ…。』


「そんな訳無いでしょ。私の親友辞めちゃうの?」


『辞める訳ねぇだろ!!』


うるさい。





「うっわぁ……。」


「………ははっ、口開いてんぞ苗字。」


「う、嘘。ごめん間抜け面晒して。」


「いやいい。どうだ?東京。」


「……一つ一つの建物が凄く高いんだね、空があんまり見えない。」


「都会って感じするよな。」


「すっごく。」


この空に比べて、宮城の空は広かった。


緑豊かな森や山。向こうにいると田舎だなぁ。と感じさせられるが、都会に来るとあの田舎感が恋しくなる。


「どこから行きたい?」


「え!いや、影山くんのお買い物終わってからで良いよ。余った時間で。」


「明日もいるんだろ?じゃあ俺の買い物明日で良い。」


今日はビジネスホテルに泊まって、1泊2日の東京旅行なのだ。それほどに宮城と東京は遠い。ブラジルはもっと遠いけれど。


「いいの?それじゃあ…。」


ネットで調べてきた内容をスマホで確認する。地味に楽しみで、昨日はワクワクして寝付くのに時間かかった。


遠足前の小学生かよ…。と呆れたが、ワクワクの原因は東京観光なのか、それとも影山くんなのか。それを考え始めて眠れなかったのも原因の一つ。





「……………でっっか。」


首がもげそうな位見上げる。スカイツリーやばい。


「でかいよな。俺も最初見た時同じリアクションした。」


楽しそうに笑う影山くんを見て、サクッと心臓に矢が刺さる。


イケメンずるい。本当にずるい。何してても様になるんだから。


「これ登れるの?」


「確か。登るか?」


「いいの?時間ある?」


「あぁ。苗字のやりたいこと全部やろう。」


ふわりと笑った影山くんに、彼氏かよお!!と叫びたくもなるが、それほどに影山くんは優しい。


高校の時のつんつんトゲトゲした部分が成長してだいぶ無くなり、ただのイケメンな人になってしまった。


その上非常に優しくしてくれて、日向がいないと怒ってる姿も見ないので、ただかっこよくて心臓に悪い。





「はー!楽しかった!!」


大変満足した。東京観光楽しかった!!都会ってやっぱり凄い。同じ時代同じ国なのに、ここだけ先進国感が凄い。


「なら良かった。」


「ごめんね、沢山連れ回しちゃって。」


「全然。苗字が楽しかったなら俺も満足だ。」


なんでこう、スマートに、こんな事、言えちゃうんだろう。もはや尊敬すらしてしまう。


「ホテル、ここか?」


「うん、送ってくれてありがとう。」


東京は非常に楽しいところだが、バスやら電車やらが複雑に入り乱れていて、車に頼りっきりな田舎人には難しい。


なので影山くんがいないと私も迷ってしまいそうだったので、送って貰ってしまった。


「いや。明日の朝もここに迎えに来るな?」


「え!いいの?」


「あぁ。迷うだろ?」


「うっ…。」


「っははは!!俺も最初は迷いまくってた。そんなもんだ。……じゃあな、また明日。」


気にすんな、と言わんばかりに頭をぽんぽんと撫でて背を向けてしまった影山くん。


同じような事を何度も日向にされた事あるのに、ここまでドキドキしてしまうのはやっぱりイケメンだからだろうか。


そんな事を考えてしまって、心の中で日向に謝った。決して、あの、不細工とか、そんな風には、全然思ってないよ、断じて。

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