住む世界

「これかこれかなぁ。私だったら。……でもお部屋がどんな感じか知らないから、合うかどうかわかんないかも。」


「……先に家連れてくべきだったな。」


「……あはは、確かに。」


一緒にソファーを選んでいても、私は影山くんのお部屋を見たことが無いのでどんな色が合うのかさっぱりだ。


写真を数枚見せてもらったけれど、あんまりちゃんと映っていなくて参考にならない。


「この後、時間あるか。」


「?うん、明日も2限からだから日付変わる前に宮城に帰れれば大丈夫だけど…?」


「一先ず悩んだ家具はメモって、一緒に家見てくれ。」


それから一緒に選んでくれ。と続けられ、なるほど確かに。と納得する。


「いいよ!」


困ったように眉を下げている彼に対して、私は一つ頷いた。





「お邪魔しまーす…。」


こんな、広い、家だなんて、聞いてない!!!


自分の指紋を付けることすら躊躇うほどに、つやつや綺麗なドアノブを見て固まる。


何だこの家は!!本当に20歳が住む家か!!


そこまで心の中で叫んでから気づく。ただの20歳じゃなかった、日本代表だったこの人。気安く家の中に入って良い人じゃない。


「何してんだ?」


遠い目をする私を見て首を傾げる日本代表。


だがしかし、日本代表と言えど私はその前から、なんなら中学生の時から彼を知ってる友人なのだ!!


なので!!萎縮なんて!しない!


「なんでもないよ。」


にへら、と笑顔を浮かべて彼の後に続く。


どんな部屋を見たってもう平気だ、今目の前にいるのはただの影山くんなんだし。


ガチャりとリビングらしき部屋の扉を開けて、中に入る。


いや、え、ちょ、


「…ひっっっろ………。」


流石に自己暗示も泣いて逃げ出す程の広さに、私は宇宙が広がった。


「ここら辺にソファー置きたいんだけど、」


そんな私なんか見えてない影山くんは平然と話を続ける。


「さっきのソファーどっちの方が良いと思う?」


こてん、首を傾げる影山くん。あざとい。


顔が良くてスポーツ出来て、こんな広い家住めちゃう影山くん……………遠い人になっちゃったなぁ。


「苗字?」


「………私はこっちの方が合いそうに思うよ。」


「じゃあそれにする。」


住む世界の違う彼と、せめて友人としてで良いから忘れられませんように。


そう願わずにはいられない程に、彼との格差を見せつけられたような気がした。

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