刺激的な太陽光
『空港ついたらそのまま人の流れに乗って出てきて!!』
ガラガラとキャリーバッグを鳴らして歩く。
外に出ると強すぎるほどの日差し。
「苗字!!!」
久しぶりに、本当に久しぶりに聞こえた肉声。
振り返ると、最後に会った時に比べて遥かに大きくなった彼に抱き締められた。
「久しぶり!!」
「……久しぶり、日向。」
変わらぬ笑顔に私も歯を出して笑う。
傍から見たら、恋人の再会にでも見えるのだろうか。
しかし残念、私たちはそんな甘い関係ではなく、けれども深い深い所で繋がっている親友なのである。
◇
「ここがホテル!予約しといたとこ!」
「ありがとう、日本語以外話せないから助かったよ。」
「いやいや!むしろこっちまで来てくれてありがとな?」
「いいの。1番暇なの私だし。バイトしてお金もある程度貯まったからやっと来れた。」
飛行機にホテル。お金は飛んだが、この笑顔に会えるなら払ったかいがあるな。と思ってしまうあたり私は日向と影山くんに甘すぎる。
「荷物置いたら観光行くか?」
「うーん……ねぇ、日向。」
「うん?」
「ビーチバレーやってるの見たい。」
実は高校を卒業してから、会えない分彼らの試合は見ておきたい。と思って影山くんの出ている試合と日向の動画は見てきた。
影山くんの試合は生でまだ見たことがないが、いつか見たいと思っている。でも日向なら今ブラジルに来た今なら見せてもらえるかもしれない、と思って。
「え!?バレーに興味出てきた!?」
「いや……2人とも遠くに行っちゃったから、近況知りたくて見始めた。ニンジャショーヨーも見たよ。」
「マジか!」
「それ見てたら2人とも元気そうだなって感じられるし。」
「電話してんだろー?影山、全然連絡寄越さないのか?」
「いや、それなりにメッセージ来るよ。でもなんか、動いてる2人を見たくなって。」
高校生の時は、目の前でよく喧嘩をしてた。動いてる彼らを間近で見ていた。
でもそれがパッタリと無くなってしまって、声だけ、文字だけの日々。本当はどんな顔してるんだろう、元気なのかな、身長伸びたかな、どんな人たちとプレーしてるのかな、気になることは沢山だ。
それらを消化してくれる動画やテレビの情報。それでも足りない、とブラジルに来てしまう私は少し、おかしいのだろうか。
「…………………かっわいいヤツめ。」
「また夏ちゃん扱い?もう20歳なんだから!!」
「違ぇよ、本当に可愛いと思ってる。」
するり、顔を撫でた日向の手。影山くんに比べて小さな手だが、バレーボールを触れてきた少しごつい男の人の手。
目を瞬かせ、現状を把握する。………え?なんか、本当の恋人同士みたいじゃ……と段々と恥ずかしくなってきて、
「な、なにすんだあああ!!!」
「うわああ!?」
手を振り払って体を突き放す。何恥ずかしいことしてんだ!!日向のくせに!!!
「な、何だよ急に!?」
「そ、それはこっちの台詞!!何急に……その……恥ずかしいことしてくるのさ!!」
「えぇ!?そんな、ちょっとほっぺ触っただけだろ?」
170cmを超えた身長、筋肉質な体、見るからに逞しい男性へと成長した日向。
そもそも備わっていたコミュニケーション能力の高さが更に進化して、女たらしになっていた。怖い。こいつ怖い。
「私もう日向には近寄らない事にした。」
「なんで!?」
「私日向に弄ばれるつもり無いから。」
「俺も無いけど!?」
カコカコとスマホでメッセージを飛ばす。宛先は日本、東京。
『日向が女たらしになってた。身の危険を感じる。』
送信。
「おい!?今何送った!?」
「私の信頼出来る友人に日向の現状を送った。」
「影山か!?おい!!そんなの送ったら!!」
ブーッブーッ
「もしも」
『苗字?今すぐ日本に帰ってこい。空港まで迎えに行くから。』
「かげや」
『日向から離れろ、今すぐ。』
あまりの焦りように、笑いが込み上げてくる。
「っふふっ……か、影山くん、大丈夫だよ、もう距離はとった。」
「おい!?離れていくな!?」
『そのまま日本まで帰ってこい。』
「それは難しい……ふふ、あはははは!!」
「何話してんだ!?スピーカーにしろよ!!」
笑えて震える指先で、なんとかスピーカーにする。
『おい女たらし。苗字を解放しろ。』
「なんて酷い事を言うんだ影山くん!?」
「いつからそんな女たらしになったんだよ日向…。」
「だからどこがだよ!?ちょっとほっぺ触っただけだろ!?」
「影山くん、ほっぺ触って可愛い、って言ってくる日向なんて知らないよね?」
『知らねぇ、お前誰だ。』
「お前らああああ!!?」
あはははは!!とお腹を抱えて笑う。スマホ越しに東京からも笑い声が聞こえる、怒っているのはお日様だけだ。
ブラジルに来ても尚、こんな風に高校生の時のように馬鹿笑い出来るなんて。以前日向に言われた何も変わんねぇよ。と言うのを痛いくらいに感じて、また笑った。