陽気の皮を被って

「どうだった?」


「……凄かった。やっぱり生で見るのは全然違う。」


ありきたりな感想。でもそれが1番ピッタリだった。


さんさんと照りつける太陽の下、日向と複数人の方々によるビーチバレーを見せてもらって、私は感動した。


ちょっとだけ、かっこいいとも思った。日向のくせに、なんかムカつく。


「そうか!!よし、屋内行くぞ!」


一緒にプレーした人々に何か話して、私の腕を引く日向。


いつの間にか外国語まで扱えるようになっていて、逞しい背中がまた少し遠く感じる。


「ちょ、そんなに引っ張らなくても、」


「だって苗字肌赤くなってる!!日焼け、あんまりするといてぇぞ!?」


言われて腕を見ると確かに赤くなっていて、少しじんじんと傷んだ。ひ、日向、もう手遅れかもしれない。





「それでな?大王様に会ってな!?」


「誰。」


「えーっと、大王様っていうのは…。」


相も変わらずよく喋るお日様だ。コロコロと表情を変えて楽しそうに話している、こう言ったところは多少感情豊かになったとはいえ、影山くんとは未だに大きな差がある。


もしゃもしゃとお互い、ご飯を口に放り込みながら話す。高校生のお昼ご飯を思い出すな。


「な、影山元気だった?」


「うん、元気だったよ。割と笑ってた。」


「まじかよ!?あいつ、俺に対してお前誰だって言った割にあいつだって変わってんじゃねぇか!…そう言えばノヤっさんは!?」


「のやっさん?」


「西谷さん!!会ったんだろ?日本で!」


「あぁ!会ったよ、嵐のような人だった。」


最初は不審者かと思ったけど。


「元気そうだった?うわー!俺も話したかった!!」


「うん、よく話す人だね。初対面なのに連絡先交換しちゃったよ、話してて楽しかった!」


「流石ノヤっさん!メッセージとか来るの?」


「割と。昨日も日向に会うためにブラジルに行きますって送ったら、じゃあその足で俺カナダにいるから来てくれよって言われて、何言ってんだろう。ってなった。」


「あはははは!!ノヤっさんぽい!!すげぇー、今カナダにいるんだ!?」


あの人の移動費や宿泊費はどこから捻出してるんだ…?どうやってお金稼いでるんだろう、今度聞いてみよう。





「ちょっと便所行ってくる!」


「行ってらっしゃい。」


便所って言い方辞めた方がいいと思う。モテないぞ。と思ったし言おうと思ったが、言うとそれはそれでぎゃーぎゃーと怒られる気がして口を噤んだ。


ご飯屋さんの外に出て、海へ繋がる階段へ腰掛ける。


ブラジル、思っていたより良い国だなぁ。陽気な人が多い感じ。何言ってるかわかんないし、それに対して日向が何言ってるのかも全然サッパリだけど。


でも大抵の人が笑って日向と会話してる、それは日向の人柄なのかブラジル人の人柄なのか。


「(こんばんは)」


「……え?」


ふと、男性に話しかけられる。ま、まずい。日向いないし、私話せないんだけど。


「えっと、」


「(1人?)」


「えぇ……?」


何言ってるのか全然わからない、どうしよう。


「(可愛いね、どこから来たの?)」


語尾が上がっているから質問されてるんだろうけど、何ひとつとして言語がわからないので、困ってしまう。


「(俺たちと、遊ばない?向こうに友達いるんだ。)」


ふと海辺の方を振り返り、こちらに向き直る彼。大きく手を振っている彼らは友達ってことかな。


「えっと…。」


どうしたら良いんだ、何言ったら良いんだよこれ。何も言わない私を見ても離れていってくれない彼に内心焦る。


「あ、あの、」


意を決して日本語で話してみようか、顔を上げた瞬間、


「(俺の彼女に何か用?)」


私の肩を抱き、颯爽と現れたのは日向。


「(…彼氏いたのか!それで困ってたんだね、ごめんよ。)」


困ったように眉を下げて、私と日向に軽く頭を下げてから友達らしき人たちの元へと駆けて行った彼。


「た………助かった……。」


「うぉ、大丈夫か?」


つい力が抜けて、後ろに手をついて空を仰ぐ。緊張した…。


「なんて言ってたの?あの人。」


「あー……観光客ですか?とかそんな感じ。」


「それで日向はなんて言ったの?」


「そーですよーって!」


じゃあなんであの人謝ってたんだ。


「あの人頭下げてたけど、」


「うぅっ!?………み、道でも聞こうとしたんじゃねぇ?それで観光客ならわかんないよね!的な!!」


目が合わない、嘘ついてんなこいつ。


とは言えわざわざ何かを隠しているんだ、たぶん言いたくないことなんだろう。なんか悪口でも言われてたのかな私。


「……そっか。」


「おう、疲れたか?ホテル戻ろうか?」


「そうだね、案内してくれますか、ニンジャショーヨー。」


「任せろ!!」


先に立ち上がって私に手を差し伸べる日向。


さながら王子様じゃないか。私はその手を取って立ち上がる。


にっと笑った日向。高校生の頃から変わらぬ笑顔に私も笑い返した。

top ORback