経験豊富なんですか
「…えっとね、今……何が近いんだろう……影山くんどこにいる?」
そう問いかけると同時に見つける頭一つ抜けた男性。
「あ、いた。」
『あ?どこ。』
「待って、そこ動かないでね。」
キョロキョロと辺りを見回す彼。あんまり挙動不審にしないでくれ、ただえさえ目立つ身長と見目をしているんだから。
「おす!!」
「うわっ!?」
未だにキョロキョロと探している影山くんにタックルをする。昨日まで日向と会っていたからか、少し距離感がおかしいかもしれない。
「ただいま!」
「…おかえり。」
◇
「お邪魔します!」
今日は一緒に選んだ家具たちが全て揃ったと聞いたので、それを見に影山くん家に遊びに来た。
しかしながら先程帰国したばかりなので、少しばかり疲れている。
「大丈夫か?やっぱ疲れてるよな。」
「大丈夫大丈夫。飛行機でも寝たし、今日宮城帰ったらちゃんと寝るよ。」
「……そうか。」
心配そうに眉を下げる影山くん。人並みに心配を見せることが出来るようになって、ちょっと感動している。
「わぁ!凄い!!やっぱりカーテンの色こっちで正解だったね。」
リビングに通してもらって、感嘆の声を上げる。
広くてシンプルな部屋が更に良くなった。我ながらセンスを褒めたくなる。
「あぁ、苗字に選んでもらって良かった。チームの人にも褒められる。」
「本当?それなら良かった。」
「座っててくれ、茶持ってくる。」
「え!?ごめん、ありがとう。」
影山くんに促され、ふっかふかのソファーに腰掛ける。このまま沈んじゃいそうな柔らかさにお金の匂いを感じる。
こういうの良くない、すぐお金のこと考えちゃうの良くない……と思いながら座っていると、段々と落ちてくる瞼。
いやいや、流石に駄目でしょ、今来たところだよ?ちょっと、待ってよ、影山くんの家だし……。
◇
「……………?」
「………あ、……おはよう。」
「……おはよう…?」
横向きに見える影山くん。優しそうに笑ってる、サラリと髪を梳かれて気持ちよさに目を細めてしまう。
「まだ眠いか?」
「……うん。」
そう聞かれれば、まだ眠たい。瞼が重たい。
「じゃあもうちょっと寝とけ。」
頭に乗せられた手をそのまま動かされ、撫でられる。
気持ち良い、大きな手。
私は眠気に逆らわず、瞼を閉じた。
◇
「………?」
今何時!?
ばっ!!と体を起こす。ふわふわなソファー、肩から落ちたブランケット。ちょっと影山くんの匂いがする。
キョロキョロと周りを見回しても見当たらない影山くん。
時計を見ると、午後7時。え……?私何時間寝たの……?
サーっと青ざめながら、影山くんを探すために立ち上がると目につくテーブルに置かれたメモ。
『スーパー行ってくる。起きたらのんびりしててくれ。』
どこまで出来た男に成長したんだ、影山くんよ。
と言うか、のんびりしてる時間なんて私には無いのでは。明日は休みと言えど、日付が変わる前には宮城に帰りたい。となると早急に駅へ向かわないといけないのでは…!?
仮にこちらで泊まって明日の朝出るにしても、ホテルを今から取れるのかどうか怪しいところ。どちらにせよ、早めに行動しなければ。
あわあわと慌ててスマホを手に取ると、聞こえる玄関の開かれる音。
「か、影山くん!!」
「起きたのか、おはよう。」
「おお、おはよう!!じゃなくて!私もう帰らないと!!」
「…こんな時間から宮城帰んのか?危ねぇぞ。」
「や、やっぱりそうだよね、じゃあホテル取らないと、」
「…ここに泊まっていけばどうだ?」
「……………いやちょっと良いかもって思っちゃったけど、ダメでしょ!!」
「何がだ。着替えも貸すし、俺ソファーで寝るから。」
「良いわけない!」
「じゃあ今からホテル取れんのか?」
キッチンに立ち、冷蔵庫に食材を入れていく影山くん。意外と自炊してるんだ……なんて思ってる場合じゃない。
「うっ……わかんないけど、見てみないと、」
「めんどくせぇし、今日はうち泊まってけよ。なんもしねぇから。」
しれっと言う影山くんを見て思う、確かに私達に何か起きるとは到底思えない。
ホテルも取れるかわかんないし、今から動き回るのも億劫だ。…………もういっか。
「………お世話になります。」
「うす。カレー作んぞ、手伝え。」
「うす。」
◇
たまに自炊する影山くんとたまに自炊する私では到底手際よくカレー作りなんて出来なくて、
「た、たまねぎ……いたい……。」
「うぉっ!?大丈夫か!?目真っ赤だぞ。」
「いたい…。」
玉ねぎで泣き、じゃがいもの皮むきに苦戦し、野菜に火が通るまで炒める。とはどれくらいかわからず焦げ、
「………うん、努力の味がするね。」
「とりあえず頑張ったもんな。」
「うん、これが最大限だ。」
美味しくも無いが、そこまでまずくもないカレーが生まれた。うむ、と頷き食べる我ら。
「着替えあるか?無ければ貸すけど。」
「いいの?あるにはあるけど、薄着なんだよね…。」
なんせブラジルに行くつもりで持っていった予備の服だ、向こうは確かに暑かったが、こちらでこの服装は寒いだろう。
「ん、ちょっと待ってろ。」
戻ってきた影山くんからジャージやらなんやらを受け取り、お風呂に押し込まれる。
「なんかあったら呼んでくれ。」
「うん、ありがとう。」
「ん。」
パタン、と閉じられた扉に息を着く。
え?なんであんなにスマートなんだろう。と今更に思ってしまう、女性を家に泊めることになんの躊躇も無い…?もしかして経験豊富…?と言うかもしかして今彼女いたりする…!?
加速する想像に血の気が引く。もし彼女いたらバレた時修羅場じゃないか。いなくても、女遊びが激しい影山くんを想像してしまい、日向同様女たらしの異名がつくがどうだろう。
まぁこればかりは本人に聞かないとわからない、そうお風呂場へ入った時に目に入ったシャンプー。
………………これは、女性に人気なハイブランドのシャンプー…。
確定だ、奴には彼女がいる。きゅうきゅう泣く胸の痛みには気付かないふりして、さっさと風呂場を出る。
髪を乾かして、リビングの扉を開けると
「おかえり、早かったな。」
誰と、比べて?
なんでこんなにイライラするんだろう、聞いてなかったから?親友なら話してもらえると思ってたから?
「……彼女、いるんだ?」
「は?」
「シャンプー、若い子に人気なやつあったから。家に置いといてくれるなんて、良い彼氏だね。」
「何言ってんだ、それは、」
「他の女の子家に入れたなんて知ったら彼女さん、怒っちゃうよ。私やっぱりビジネスホテル行くね。」
「は!?おい、苗字、」
「迷惑かけてごめん、服はまた今度返すね。」
荷物を引っ掴んで玄関に走る。顔が見れない、見せれない。
「ちょっと待てよ!!」
大きな声に萎縮してしまう、しかし足は止められない。友達でいたい、仲の良い友達でいたいだけなんだ、迷惑な人にはなりたくない。
「お邪魔しました、またね。」
背を向けたまま、玄関のドアノブを捻る。
しかし、その手は握られ、開くことは叶わなかった。
「……何、勘違いしてるんだ。」
肩を引かれて影山くんの方を向かされる。玄関の扉に手をつかれて、逃げられない。
「あれは、姉ちゃんから貰っただけ。」
「…………お姉さん?」
いつだったか聞いたことのある年の離れたお姉さん。
なんでまた、そんな良いシャンプーくれるんだ。
「モデルの髪の毛とかいじる仕事してる。貰いもんだか余りもんだか知らねぇが、とりあえず貰ったから使ってるだけだ。」
はぁ、とため息をつかれる。な、なんだ………と安心してしまう。
……安心してしまう?
「ご、ごめん、勝手に勘違いして、」
「本当だ、お前らしくもねぇ。冷静じゃ無かったぞ。」
「ごめん……。」
「急に出てくなんて言うな。もう外暗いし家いろよ。」
「はい……。」
手に持っていた荷物を攫われ、腕を引かれる。
影山くんの腕を掴む手は酷く優しくて、なんだか泣きそうになってしまう。
「寝室ここだから、好きに使ってくれ。」
「一緒に寝ないの?」
「は?」
……………。
「ごめんなさい、なんでもない、ソファー行きます。」
「……いや、お前が良いなら俺は一緒に寝るけど?」
にやり、笑みを浮かべてベットに連れられる。
しかし、その顔面の良さそして近さに私は正気でなどいられない。
「い、いえ!!私はソファーで寝かせてもらいます、」
「ほら、一緒に寝んぞ。」
「影山くん!?」
ぎゅっ、と抱き込まれてしまい動けない。胸いっぱいに広がる影山くんの匂い。ドキドキうるさい心臓。……しかしそれは目の前にある体からも聞こえる。
「………影山くん、緊張してるでしょ。」
「は、」
「ドキドキ聞こえる。」
「…当たり前だろ、誰かと寝るなんてすげぇ久々。」
その言葉から、経験豊富でも無かったことが読み取れる。ふわっと広がる嬉しさ。
「ふふ、私も。」
「ほら寝るぞ。」
「はーい。」
電気を消されて、真っ暗になる。
しかし感じる温もりに擦り寄ると、ぎゅ、と更に力を込められちょっと苦しい。
なのにそれが心地よくて、私はあっさり睡魔に落ちた