あの子が欲しい
「今日は腹は大丈夫だろうな?」
聞きなれた声。振り返るとあいつが居た。
「もう試合前に腹を下す俺はいない。」
「当たり前だボゲェ。」
「大人になったんじゃない!?影山くん…!?」
ブゥン!という風圧。今日も血気盛んなヤツめ!?
「……俺だって前とは違う。」
「だろうな、お前の事リオでも見たぞ!!」
「そういう意味じゃねぇ。」
「は?…………もしかして、彼女でも出来たのか!?」
そう茶化してから気づく。待てよ、こいつに彼女が出来るという事はつまり、
「あぁ。」
止まる呼吸。クリアな脳内。
つまりそういう事だ。
俺の片想いは伝える事も無く散ったという事だ。
「……聞いてない。」
「言ってないし、言わないでくれって頼んだからな。」
「………俺も好きだったのに。」
「知ってる。」
そうだ、こいつは知ってるし俺も知ってた。
「恋愛も、俺の勝ちだな。」
変わらぬ笑みを浮かべる影山。
「………くっそおおおおお!!!!ぜってぇ今日負けねぇ!!」
全てにムシャクシャして、そう叫ぶ。叫ばずにいられなかった。
「ちょっとどうしたん翔陽くん。向こうまで叫び声聞こえたけど。」
「なんでもないっす!!!」
絶対負けねぇ。今日苗字見に来るって言ってた。見て欲しい、俺の成長した姿。
影山を負かす姿。
◇
「……いやさっきの威勢はどこ行ったん!?」
「どーしたんだよ、日向ぁ?腹でも下したか?」
「違います………今になって攻撃が染みてきたと言うか…。」
なんでアイツわざわざ試合前に言うんだよ……これくらいで落ち込むなんてまだまだだなって言いたいのか…?いや落ち込むだろ普通に…。
「本当にどうしたん?お兄さん達に話してみ?」
「そうだそうだ!話さないと、苦しいぞ?」
「…………とられました。」
「ん?」
「お?」
「高校の時から好きだった人を、影山にとられましたああああ!!!!」
なんでだよ、苗字……泣きそう。よりによって影山なんて。いやわかってたけど、ちょっとそんな気がしてたけど、それでも………うわあああ!!
「うっっそ………マジかいな……。」
「うぉー!!影山やるなぁ!?」
「木っくん、今その台詞は間違いやで…。」
「んぉ?」
「くっそおおおお!!!」
「ま、まぁ落ち着き翔陽くん。……その恨み、しっかり試合で返そうや!!」
「……………うす!!」
◇
「………あ、出てきた。日向ああ!!」
烏野高校の皆さんと声を上げる。キョロキョロと声の聞こえる方を探す日向。
凄い、本当にここまで来てしまった。ブラジルに行って、日本に帰ってきてすぐこれだもんなぁ。
そして初めて見るビーチじゃないバレーボール。
影山くんの試合を生で見るのも、実は初めてだ。
でも初めてがこれで良かった、絶対に忘れることの無い試合になるだろうから。
期待に胸を膨らませ、コートを見つめる。
菅原さんの言う通りだ。
こんなの、お祭り以外の何物でもない。