あの子が欲しい

「今日は腹は大丈夫だろうな?」


聞きなれた声。振り返るとあいつが居た。


「もう試合前に腹を下す俺はいない。」


「当たり前だボゲェ。」


「大人になったんじゃない!?影山くん…!?」


ブゥン!という風圧。今日も血気盛んなヤツめ!?


「……俺だって前とは違う。」


「だろうな、お前の事リオでも見たぞ!!」


「そういう意味じゃねぇ。」


「は?…………もしかして、彼女でも出来たのか!?」


そう茶化してから気づく。待てよ、こいつに彼女が出来るという事はつまり、


「あぁ。」


止まる呼吸。クリアな脳内。


つまりそういう事だ。


俺の片想いは伝える事も無く散ったという事だ。


「……聞いてない。」


「言ってないし、言わないでくれって頼んだからな。」


「………俺も好きだったのに。」


「知ってる。」


そうだ、こいつは知ってるし俺も知ってた。


「恋愛も、俺の勝ちだな。」


変わらぬ笑みを浮かべる影山。


「………くっそおおおおお!!!!ぜってぇ今日負けねぇ!!」


全てにムシャクシャして、そう叫ぶ。叫ばずにいられなかった。


「ちょっとどうしたん翔陽くん。向こうまで叫び声聞こえたけど。」


「なんでもないっす!!!」


絶対負けねぇ。今日苗字見に来るって言ってた。見て欲しい、俺の成長した姿。


影山を負かす姿。





「……いやさっきの威勢はどこ行ったん!?」


「どーしたんだよ、日向ぁ?腹でも下したか?」


「違います………今になって攻撃が染みてきたと言うか…。」


なんでアイツわざわざ試合前に言うんだよ……これくらいで落ち込むなんてまだまだだなって言いたいのか…?いや落ち込むだろ普通に…。


「本当にどうしたん?お兄さん達に話してみ?」


「そうだそうだ!話さないと、苦しいぞ?」


「…………とられました。」


「ん?」


「お?」


「高校の時から好きだった人を、影山にとられましたああああ!!!!」


なんでだよ、苗字……泣きそう。よりによって影山なんて。いやわかってたけど、ちょっとそんな気がしてたけど、それでも………うわあああ!!


「うっっそ………マジかいな……。」


「うぉー!!影山やるなぁ!?」


「木っくん、今その台詞は間違いやで…。」


「んぉ?」


「くっそおおおお!!!」


「ま、まぁ落ち着き翔陽くん。……その恨み、しっかり試合で返そうや!!」


「……………うす!!」





「………あ、出てきた。日向ああ!!」


烏野高校の皆さんと声を上げる。キョロキョロと声の聞こえる方を探す日向。


凄い、本当にここまで来てしまった。ブラジルに行って、日本に帰ってきてすぐこれだもんなぁ。


そして初めて見るビーチじゃないバレーボール。


影山くんの試合を生で見るのも、実は初めてだ。


でも初めてがこれで良かった、絶対に忘れることの無い試合になるだろうから。


期待に胸を膨らませ、コートを見つめる。


菅原さんの言う通りだ。


こんなの、お祭り以外の何物でもない。

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