季節巡って

「久しぶり!!苗字!!」


「久しぶり、日向。」


夏休みが明けて、新学期。


久しぶりに会ったお日様のような友人は、ちょっとだけ黒くなっていた。


「外遊びでもしたの?」


「え?……あ、肌?坂道ダッシュとかしてたからなぁ。」


たぶん、この辺まで黒い。と膝上を指す日向。この元気小僧は短パンがよく似合いそうだ。


「苗字は何してたんだよ?メールもいつも適当だったし!」


「そ、そんな事ないよ。日向ほど毎日充実してなかっただけ。」


「ふーん?」


対して日向はバレー部の話ばっかり。毎日のようにメールを送ってきて、私は会ったことすらないバレー部の人達にまた1つ詳しくなってしまった。


「そう言えば、マネージャー増えたんだよ!」


「そうなの?」


「おう!夏休み入るか入らないか……そんくらい!」


「へぇ……1年生?」


「そう!谷地さんって言うんだ!」


「そうなんだぁ。可愛い?」


「えぇ?………可愛い、んじゃねぇかなぁ?」


うーん?と首を捻る日向。


「あ、でも山口は可愛いって言ってた!」


「誰。」


「山口!月島といつも一緒にいて、サーブ練習しまくってる!」


「そうなんだ?月島くんって、1年生だよね?」


「おう。勉強教えてくれてた奴!」


「あぁ!」


それなら山口くんもきっと1年生だろう。どんな顔が知らないが。と言うか月島くんも知らないが。





「……え、嘘でしょ。」


日向の机の上に、教科書が散乱している。


その中には昼間に今日の課題で使うから持ち帰りなよ?と言っておいた教科書まで混じっていて、ため息が出てしまう。


あいつ、私の話ちゃんと聞いてるのだろうか。少しムカついてしまう。


このまま放っておこうか。と思ってしまったが、曲がりなりにも友人だ。気づいておいて放っておくのは可哀想。


私は日向の教科書を手に取り、体育館へ向かった。




体育館をそろり、と覗く。


あまり邪魔にはなりたくないので、早めに退散しよう。と、とりあえず近くにいた人に声をかけた。


「あ、あの。」


「…えっ?は、はい。」


「日向っていますか?」


「日向?い、いますけど、よ、呼びます?」


「いえ!大丈夫です。これ渡しておいて貰ってもいいですか?」


教科書を差し出して聞いてみる。するとこくこく、と頷いて受け取ってくれた。有難い。


「ありがとうございます、お願いします!」


「あ、はい!あの、名前とか…。」


「大丈夫です、明日自分で言います。それでは。」


恩着せがましく言ってやろう。困ったように眉を下げる日向の顔が目に浮かぶ。


ふふふ、と笑って体育館を離れた私は傍から見たら気持ち悪かったかもしれない。





「……?山口、顔赤いけど。」


「ぅえ!?そ、そうかな。」


「どうしたの。」


「そ、その……さっき女子が来て、日向に用事だったんだけど頼まれて……女子と話すのなんてあんまり無いから、ちょっと恥ずかしかったや。」


「…そう。谷地さんとよく話してるじゃん。」


「谷地さんは、マネージャーだし……初めて話した人だったから、緊張したなぁ。」


「……へぇ。ほら、日向来たよ。」


「…あ。日向ー!!」


「お?なんだー?」


「これ、日向に渡してってさっき頼まれた。」


「………………ああああああ!!!!」


「うるさ。」


「うっせぇぞ日向!!」


「課題に必要なの、忘れてた……!だ、誰が!?誰だった!?持ってきたの!」


「いや、それが名前は聞けてなくて。女子だったよ!あと、明日自分で言いますって言ってた。」


「………苗字か!!」


「…日向に女子の知り合いがいるなんて、ちょっとびっくりだネ。」


「苗字は知り合いっていうか友達!!仲良いんだぞー!一緒に飯食ってるし!」


「え、そうなの!?……いいなぁ、可愛かったし。」


「……………苗字?」


「んぁ?どうしたんだよ、影山。」


「……苗字って言ったよな、今。」


「そ、そうだけど…?」


「お前と同じクラスだったのか。」


「…………え?」

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