お、美味し過ぎる……!!!


しかしながら目の前には私の推しが座ってる、ご飯が美味しくてだらしなく緩んだ顔なんて晒せない。


だがこのご飯は美味し過ぎる、顔を緩ませないのに必死になるぐらいには美味し過ぎる!!


「…………ふふっ……苗字さん、どうしたんすか。」


「えっ?」


「必死になんか堪えてるっつーか…………ふふっ、なんか、ぷるぷる震えてますよ。」


「え!?」


そ、そんな醜態を晒してた!?あ!!また笑われてる!!?


「ほんと、面白過ぎますよ。……腹痛い。」


そう笑いながら目じりに浮かんだ涙を拭う影山選手は、今は個室に入っているからか、マスクや帽子を取っていて。


私の知ってる、大好きな推しの顔で笑ってる。この状況に平常心でいられるオタクがいるか……!?否、そやつはきっとオタクではない。


「苗字さん、どの辺に住んでるんすか?」


「え?」


「あ、いや、そんな言いたくなければ良いんすけど、遠かったら早めに帰さないとって思って。」


言いたくない事なんて無いですよ??強いて言うなら影山選手のファンって事ですかね!!もうバレてるけど!!


「言いたくないなんて事ないです!!えっと、」


ざっくりとした家の場所を話すと、そんなに遠くないと分かって貰えたのか安心したように微笑まれ、私の心臓はまたもぎゅんっ!!と鷲掴まれた。どんな顔でも美形って凄い。本当に凄い。


「あの、急に飯とか誘ってすいませんでした。」


「い、いえ!!全然……嬉しいです、すっごく。」


珍しくどもることなく出た言葉は、彼に対しての純粋な気持ちで。これだけでもちゃんと伝えられて良かった。


嬉しいです、本当に本当に嬉しい。あなたと言う存在に出会えただけでも生きる糧を貰ってるのに。実際に会って話せて、こうして時間を共にさせて頂けるなんて、


「…………私なんかには、身に余る幸せです。」


私なんかが貰って良いものなんかじゃない。


そりゃ手離したくないチャンスだ、当たり前だ。だけど、偶然が重なって影山選手とプライベートで出会うことが出来た、それだけなんだ。


この行動は、多くの同士達を裏切る行動でもある。自分だけ、得をして、彼の時間を、彼の視線を貰ってる。


そんなの、許されるわけが無い。


「……苗字さんは、俺の事カジョーヒョーカし過ぎです。」


「え?過剰?」


「カジョーヒョーカ。…………合ってます?」


「た、たぶん。」


過剰評価の事だろうか?そんな事ない、影山選手は正しく世の中に評価されてる。


その結果私達のような、影山選手のプレーに、人柄に、容姿に魅了されたファンが生まれるのだ。


「俺は神様でもなんでも無いですよ、ただの人間です。少しだけ名が知れてるだけ。……自分なんか、なんて言わないでください。」


困ったように眉を下げる影山選手に、私は戸惑う。


どこをどう見ても私と影山選手は一緒にいて良いような、存在ではない。もう概念としてそう思い込んでしまっているんだ。


「……影山選手からしたら、そうかもしれないですけど……私からしたら神様みたいなものです。」


「……そうなんすか?」


「はい。影山選手は唯一無二で、すっごくすっごくかっこよくて、生きててくれてるだけで、プレーしてくれてるだけで私を喜ばせてくれるたった1人の人なんです。」


そんなの、神様のように思ってしまう。


自分とは格が違うんだって、……彼を思う気持ちは皆一緒だから、1人だけ抜け駆けだなんて駄目だって凄くわかるから、


「……だから、こうして話せるのは幸せで、幸せで…………罪深いと思ってます。」


「え。……じゃあもう会えないんすか?」


しゅん、眉の下がった推しに、うぅっ!!と胸が痛くなる。


「俺はこれからもこうして苗字さんと会いたいです。すっげぇ楽しいし、面白いし。……駄目なんですか?俺が望んでも?」


「うっ……。」


「……苗字さんの推しである俺が望んでも?」


な、何だその言葉たちは、ず、ズルくないか!?私が影山選手が大好きだって言うのを利用してないか!?


妙に賢い作戦に、勉強の出来は良くなかったって聞いてたのに!!月バリで読んだのに!!なんてこんな時でも影山選手のオタクとして恥じぬ思考回路を展開した。


「…………それでも!!駄目です、私、与えられ過ぎてます、…………ずるいんです私だけ。」


こんなの絶対罰が当たる。


私は、影山選手を応援出来るそれだけで良いんだ。


元気にバレーボールをしてる影山選手を遠目にでも見ることが出来る、それだけで生きる糧を貰えるんだから。


「……わかりました、すいません。我儘言って困らせて。……今日だけでも会ってくれてありがとうございました。」


しゅん、やはり落ち込んでしまった影山選手にかけられる言葉なんて持ち合わせて無くて。


「い、いえ!!そんな…………私の方こそ、幸せな時間をありがとうございました。」


ありきたりな、ファンとしての言葉しか出なかった。