『……………………あんた、馬鹿じゃないの?』
「あ!?」
『面白いからって…………絶対恋愛対象だと思われてないわよ。』
「うぐっ…………。」
『なんで会いたかった、まで言えたのに好きだから、とか。また会いたいと思ったから。とか言えないの?』
「そ、それは……!!……あの時は平常心でいるので精一杯で……。」
『平常心?』
あの時の苗字さんは、何故か泣いていて。
涙で潤んだ瞳のまま、俺の事を見上げていた。所謂上目遣いって言うやつだろう。
知ってはいたが、体験するのは初めてで。世の男たちに効果的であると認めざるを得なくなった。……すげぇ可愛かった。
そんな可愛い顔を見せられて、平常心でいるのなんて難しい。あの表情を思い出した今でさえ、顔を覆うほどには俺に対して効果抜群だった。
「と、とにかく!!もう言っちまったもんは仕方ねぇだろ!!」
『……まぁ、そうねぇ。次のデートの約束取り付けられたんなら、挽回のチャンスもあるしね。』
「で、デートって……。」
『あら、違う?』
クスクスと笑う声が聞こえる。……完全に楽しんでんな、姉ちゃん。
若干ムカつきながらも、あけすけに相談出来るような相手が姉ちゃんぐらいしかいないので、逆らえない。
『行く場所とか決めたの?』
「いや、まだ。……何も。」
『じゃあ作戦会議ね!!飛雄がここまでお熱になるとは……また苗字ちゃんに会いたくなってきたわ。』
今姉ちゃんが苗字さんに会うと何を言い出すかなんてわからない、絶対に阻止しなくては。
「…………ちゃんと、付き合えたら紹介するから。それまで待っててくれよ。」
付き合えたら。自分で言った言葉に顔が熱くなる。クソ、この歳になって初恋なんて。
『……ふふっ、楽しみにしてるわ。』
からかう事もせず、スマホの向こうで微笑んでいるであろう姉を想像して、言葉にはしなかったが感謝した。
◇
『明日10時にこの駅前に集合で。』
…………………………………………デート?
……ぬぁに言ってんだぁ!!!
ゴンッと机に頭を打った。痛い、痛いけど一瞬でも自惚れた自らへの正義の鉄槌だ。何言ってんの?デートな訳ないじゃん????
ただ推しが会ってくれると言うので、私という平民は有難くそのチャンスを頂いて。待ち合わせして、ご飯食べに行って、その後観光地へ行って……………………
デートじゃね?
ゴンッ。またも自惚れてしまった…………不覚…………。
え??なんなの??影山選手は私なんかとデートもどきがしたいの??何故???
考えたところで分かるわけも無いのだが、考えずには居られない。
………………いや、待てよ。私の事面白いって言ってた。
という事は、だ。影山選手に対する私のミッションは笑わせる事なのでは……?
そうだ、絶対そうだ。影山選手は笑わせて欲しいんだ。だって私といるとすげぇ面白いって言ってたもん。もう芸人になるしかねぇ。
でもそんな急に面白おかしい人になれるわけも無い、…………でもただの私が面白いって言ってた。あれ?やっぱり珍獣?
…………どうすればいいんだ……?
様々な思考を繰り広げた結果、何もわからず。再び私はゴンッ。と机に項垂れた。