ドッドッドッドッドッドッドッドッ
五月蝿すぎる心臓の音に、自分が1番びっくりしてる。
ちょっと待ってよ、まだ起きただけなんだけど??
◇
まずい。非常にまずい。
朝起きて(午前4時)まだ時間あるのに心臓がえらいことになっていて、眠れなくなってしまって、まだ1時間以上待ち合わせの時間まであるのに、来てしまった……。
早朝に起きたからか、今やもう目はギンギンに冴えてる。これ冴えてるって言っていいのかな。
と言うか私今日起きてからずっと休むこと無く緊張してるけど、大丈夫??心臓が全力で脈打ってるけど、これ急に止まったりしないよね……!?
そ、それに今更になって服装とか、髪型とか大丈夫かな……影山選手の前で泣いたりずぶ濡れになったりしてるから、本当に今更なんだけど……。
ガラスに映る自分の姿を見て、そして隣に影山選手が並び立つことを想像して。
………………似合わん!!!私では隣に立つことすら全う出来ぬ!!!
駄目だ……ほんと駄目すぎる……ごめんなさい影山選手……私は面白おかしい生き物に見えてるのかもしれませんが、ただのファンなのです、ちょっと気持ち悪いオタクなんです……。
はぁ、とため息をついてベンチに座る。まだまだ時間あるのに私は何してるんだ。自分で自信を無くしてどうする。
最初からわかっていたじゃん?あんなスラリと長い脚や小さなお顔なんて持ってないんだからさ、隣に並ぶことすら烏滸がましいってわかってたじゃん??
それがたまたま今回並び立つという悲劇が生まれてしまっただけでさ??別に私が特別見た目が劣ってるとかじゃないじゃん、影山選手が凄すぎるだけじゃん。ね???
見た目は今更どうにもならないし、気合い入れてくしか無い!!
バチーン、と両頬を叩き、来る影山選手を待とう。と意気込んだ時、視界の端で捉えたのは震える肩。
………………まさか
「………………影山選手、いつから。」
「……ぶふっ…………苗字さんがここに来た辺りから…………ふふっ……ぶふっ。」
最初からじゃん。
今私白目剥いてるんじゃないかな???
◇
「はぁ…………面白かった。」
「落ち着きましたか…………そんなにですか……?」
その後もひぃひぃと笑い続けた影山選手は、やっと落ち着いたようで。今日も浮かんでる涙を拭っていた。
「はい。……一体何をそんなに悩んでたんすか。」
「え?」
「なんかガラスの前うろうろして、ずっと自分の姿見てて。ベンチ座ったかと思ったら……ふふっ……顔叩いたりして……。」
「……本当に全部見てたんですね。」
なんで声を掛けてくれないんだ。
最初こそ推しが尊すぎて話すことも困難だったが、今や少しだけ慣れてきて。いつも遠目に見て話しかけてくれない影山選手をジト目で眺めた。
「…………私じゃ影山選手の隣に立つのも烏滸がましいなぁと。」
「……だから、その神様みたいな扱い辞めてください。」
「む、無理ですよ!!私からしたら神様みたいな……いやむしろ神様以上ですから!!」
「なんですかそれ。」
またも楽しそうに笑う影山選手。馬鹿しないで頂きたい、私の影山選手への愛はそう軽くは無いんですよ!??
「なぁ、苗字さん。」
「はい?」
「今日出かけるの誘われてどう思いましたか。」
「どう……?」
は?デートじゃん。って思いましたけど????
言えるわけないけどぉ!?!?
「俺は、……デートに誘ったつもりです。」
「!?!??!!」
「だから…………ぶふっ……ちょ、だめだ、その顔はちょっと……ぶふっ。」
デートに誘ったつもり?
なんで?
なんでファンを?
デートに?
……………………なんで!?!?
「……ごめんなさい、ちょっと意味が……あれ?なんで笑ってるんですか。」
「ふふ、あはははは!!!ちょっと、……変な顔するの辞めてくださいよ……。」
してないけど!?