暴君との約束

「…………お前、彼氏とかおんのか。」


「…………はい?」


今日も手元は動かさず、なんなら目線も上げずに返ってくると思われた返事が、しっかりとこちらを捉えて聞き返された。


「彼氏、おんのか。」


「い、いませんよ。いたらこんな長いこと工房に籠ってないですし!!」


だろうな……。


いい加減さっさと諦めるなりくっつくなりしろやあの半分野郎。見ているこっちが苛立つ。それにクラス全体であいつらの動向を見ているため、嫌でもこちらまで情報が入ってきて更に苛立つ。


「爆豪くん、そういうの気になるんですね。」


「あ?」


視線を苗字へと戻せば、既にあいつの視線は手の中のサポートアイテムへと戻っていて、いつも通り。


「そういうのどうでも良さそうなのに。」


「……俺じゃねぇわ。」


彼氏いねぇんならさっさと告白でもなんでもしろ。んで付き合ってもフラれてもどっちでも良いからはよ終われ!!


とここでキレたくなるが、流石にそこまで無粋な事はしたくない。更に面倒事に繋がる予感しかしねぇ。


「え?私に彼氏がいるか、なんて気になる人この世にいるんですか?」


あははは!と笑いながらも手元に寸分の狂いもない。無駄な動きひとつ無いこの作業を……苗字の行う作業を見るのは嫌いじゃなかった。


「さぁな。いるんじゃねぇの。」


「それは…………相当な暇人ですね。」


暇人。おい言われてんぞ半分野郎。


「暇人と言えば、爆豪くんも暇人なんですか?」


「あぁ!?」


なんで俺が。


「だって、毎回ここで見てますよね?作業工程で言えば何度も見てるのに……暇なんですか?」


台詞だけ聞けば悪意に満ちててもおかしくない文面。


しかしながらその声色は悪意ではなく疑問に満ちていて、悪意無く純粋な疑問で投げかけられた。


「……暇じゃねぇわ。」


「嘘だ、暇でしょう。だって流石にこんなの見続けて飽きませんか?」


「やってる本人が言うなよ。」


「私は組み立ててるから楽しいんですよ、見てるだけ見てろ。と言われても……楽しくないですよ。」


そういうもんなのか、案外行動派の彼女の新しい一面を知る。


「別に俺が何やってようと自由だろ。」


「それはまぁ自由ですけど……寮へ帰って皆と過ごしたりしないんですか?ほらもう2年もあと少しじゃないですか。」


「まだ冬だろ。」


「とか言って冬ですよ。すぐにまた春が来て夏が来て、秋が来たら冬が来て。卒業ですよ。」


「ババァみてぇな事言ってんじゃねぇよ。」


「すっごいナチュラルにすっごい共感出来る暴言吐きましたね……?」


何言ってんだこいつは、と思いつつもクスクス笑うこいつとの時間はいつも静かで、騒がしい寮へ戻るよりかはずっと良かった。


「……お前、卒業後は。」


「卒業後?どこかのサポートメーカーへ入るつもりです。」


「決まったら教えろ。」


「まだ2年生ですよ?」


「卒業なんてすぐだ、っつったんはどこのどいつだ?あ?」


「わ、私です……。」


「決まったら教えろよ、良いな。」


「良いですけど、なんでですか?私の顧客になって下さるんですか?」


「あぁ。」


「……………………!?」


がばっ。顔を上げて俺を驚いたように見つめる。サポートアイテムから目を離したのは2度目だ。珍しい。


「ほ、本当に……!?」


「別におかしな事でもねぇだろうが、今までの全部お前に頼んでんだから。」


「そそ、それはそうですけど……。」


「あ?断るつもりか。」


「そんなわけ!!!」


「うるせぇ。」


静かな部屋で静かな空気を壊した大声、普段通りではない苗字に暴言を吐くが、


嬉しい嬉しい。と素直に喜ぶこいつを見るのもまぁ、悪くない気分だった。

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