チョコレート

2月14日。バレンタインデー。


と、言うことで。日頃お世話になっているヒーロー科の皆さんへチョコレートを持参した。男子も女子も関係無く配ろうと思っているので中々に重たい。


「では私はB組から回るので!」


「じゃあ私はA組から行こうかな!また後でね!」


はい!と返す明ちゃんと廊下で別れてA組の教室へ。


「失礼します!」


音を立てながら教室の扉を開くと、こちらに向く沢山の視線。


「あ!苗字さんや!」


「お!苗字!なぁなぁチョコくれよぉ……俺に恵んでくれよぉ……。」


そう言って泣きついてきた上鳴くん。あれ、意外だな。上鳴くんはモテそうな雰囲気あるのに。


「はい!どうぞ!」


「………………え!?マジ!?え、ちょ、ほ、本命!!?」


「違います!!」


「だ、だよね!!」


「でもいつもお世話になっているので、頑張って作りました!」


そう言って切島くんや麗日さん、耳郎さんにも渡していく。


「えぇ!?いいの!?うちらにまで。」


「はい!バレンタインデーと言うより感謝を伝えたいだけなので。」


「そっかぁ……ありがとう!!」


正直料理やお菓子作りは専門外なので中々に手こずった。それでも彼らの喜ぶ笑顔が見れたのだ、作ったかいがあったというもの!


「あとは……爆豪くん!」


「……あ?」


「あ、寝てましたか?すいません。どうぞ、いつもお世話になっております。」


「…………食えんのかこれ。」


「失礼な!!」


「うるせぇ。」


相変わらず眉間にたっぷりと皺を寄せた爆豪くん、その皺取れなくなりそうだな。


「あとは……轟くん……………………うわ。」


確か轟くんは後ろの方の……と振り返ると轟くん自体は不在で席に座っていなかったが、彼の机の上は箱やら袋やらが積まれてもはや見えなくなっている。


「あー……あれな、凄いよね。」


苦笑いを浮かべる麗日さん。


「あれは……轟くんのファンの皆さんから?」


「みたい。凄いよね、まだ高校2年生なのにファンがついとるって!」


「はい、凄いです!……でも、」


手に持ったチョコレートを眺める。


あんなに食べたら轟くん……糖尿病になってしまう……。


それに加えて私のまで食べたら……私が糖尿病を促進させてしまう……。


「……轟くんに渡すのは辞めときます。」


「えぇ!?な、なんで!」


「な、なんでって。あんなに貰っていたらもういらないでしょう。」


「い、いや!!ああいうのはどれだけ貰ったか、じゃなくて誰から貰ったか!だと思うよ!」


「……うーん、それでも。ご迷惑にはなりたくないので!」


え、でも!と言っている麗日さんに背を向けて教室の扉へ手をかける。


一つだけ余っちゃったな、帰って自分で食べようか。それとも適当に誰かへあげようか。


そんな事を考えながら扉を開けると


「……あ。」


「苗字、来てたのか。」


目を丸くしている轟くん。


そしてその視線はすぐに動いて、私の手元へ。


渡せなかった、チョコレートへ。


「……それ。チョコか?」


「あ、……えと、はい。」


「誰かに渡すのか……?」


そう聞いてきた轟くんの瞳は揺れている、なんとも危うい瞳。


……だからこそ、嘘はついちゃいけない気がした。


「……轟くん、渡そうかと思いまして。」


「俺に?」


「はい、でも……机の上に凄いですね、あれだけ貰ったら流石にいらないでしょう。」


そう言って笑って見せれば、眉間に深く皺が寄る。


「……あれは、……ほとんど知らない奴からだ。名前も顔も知らねぇ奴ら。」


「それでも大事にしないとですよ、私なんかのは……。」


きっと大好きな轟くんへ渡すために綺麗に綺麗に包んだのだろう、それがわかる包装。


……私なんかのを並べるのは、烏滸がましい。


「大丈夫です、余っちゃった分は自分で食べるので!」


チョコレートをしまおうと持ってきた袋を開けば、チョコレートを持っている手を掴まれる。


「……欲しい。」


「え?」


「それでも、欲しい。お前からのチョコが一番欲しい。」


「……へ?」


「駄目か……?」


くしゃり、泣き出しそうな顔。


……どうやら私は轟くんの浮かべるこの表情が苦手らしい。


どうにも、どうにも笑って欲しくなる。そんな泣きそうな顔なんてしないで。


「……駄目じゃない、です。」


掴まれた腕を解いて、彼の胸にぽん、と押し付けるようにしてチョコレートを渡す。


「お、美味しくなかったらごめんなさい。」


「……あぁ、全然良い。貰えただけでもすげぇ嬉しいから。」


受け取った彼は、ふわっ、と心底嬉しそうに笑った。


「ありがとな、苗字。」


そんなの、あんなに沢山貰ったチョコレートの中の一つなのに。一人一人にそうやってお礼を言ったのだろうか、できる男は違うなぁ……。


「いえ、これからもよろしくお願い致します!」


彼に渡った私の感謝。どうか包んだ分だけ届きますように。

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