未来

「なぁ苗字。」


「はい?」


3年生になり、暖かな季節がやって来た。とはいえやっている事は何一つ変わっていない。


今日も今日とて壊れた轟くんのサポートアイテムの修理へ入る。もっと激しく使用しても壊れないようにしないとな……。


「少し前……1年の頃か。」


「?はい。」


「無個性で、個性の授業嫌いだったって。」


「はい、」


「それでクラスメイトの個性を見て、魅了されて。そこから好きになったって言ってたよな。」


「はい。」


「どんな個性だったんだ?」


「それは、」


思い出される氷壁。戦慄した、あの光景。


どんな個性かって言われれば………………って


「っな、内緒です!!」


あっぶねぇ!!!淡々と作業しながらだったからつい言いそうになってしまった!!


「……なんで?」


「内緒なので!!」


むっ。と不服そうな顔をしている轟くん。あれだな、轟くん絶対末っ子でしょ。そうじゃなくても上にお兄さんやらお姉さんやらいるでしょ。そんな感じの拗ね方である。


「…………どうしても?」


しょんぼり。と言わんばかりにこちらを見つめる轟くん。今日も今日とて顔が良い。


別に隠す必要なんてどこにも無いのだが、ここまで来て……かなり仲良くなれた気がする轟くん。今更君に憧れて雄英に来たんだよ♡なんていってこの友情を破壊したくなんかない。


「ど、どうしても。」


「……そっか。」


う…………罪悪感。


「な、なんでそんな事が気になるんですか?」


わざわざ3年生になるまで覚えてたし……あんな些細な会話すぐに忘れたものだと。


「……お前の事だから。」


「え?」


「苗字の事だから、知りてぇ。」


「……なるほど?」


わからんけども。


とりあえず、仲良しだから知りたいんだと言う事で合ってるのかな……そう言ってくれてる人を拒否し続けるなんて酷い事しちゃってるな……。


「だから教えて欲しかった。」


「…………引かないですか?」


「えっ。」


「何を言っても引かないでいてくれますか?」


ドライバーをくるくる回しながら轟くんをちらちらと見る。


「あぁ、引かない。絶対に。」


「………………………………轟くんの、個性です。」


……………………………………。


「……は?」


あぁ……言ってしまった……。


「轟くんの、個性。……轟くんと私は同じ中学で、3年生の時同じクラスでした。」


轟くんは微塵も覚えてないだろうけど……と笑いながら彼を見ると、悲壮感。


……えっ!?何その悲壮感に満ちた顔!?


「わ、悪ぃ……俺覚えてなくて……。」


「いやいや!!それはもう1年生の時にわかってたので!大丈夫ですよ!!」


「ごめん…………あたかも初対面みてぇな……。」


「うっ……仕方ないですよ、覚えてなかったんですし。中学生の頃は私も別段何かに秀でた人間では無かったので。」


やってる事は今と変わらず、父親の仕事部屋で機械の分解や組み立てを繰り返していた訳だが、学校でそれらを見せる機会なんて無かった訳だし。


私だと認識できる特徴なんて、何一つ無かった事だろう。


「本当にごめん…………個性を見せる機会なんてあったか?」


「はい、3年生も終わりの頃の個性教育。皆それぞれ自分の個性を見せている中、轟くんは大きな大きな氷壁を出しました。」


今と比べれば小さなものであるが、当時の私からしたらとんでもない力だった。


だって、あれがたった1人の力で出来るものだなんて。信じられなかった。


「それが……凄く綺麗でした。でも感じたのは綺麗だ、と言う感動だけじゃなくて。圧倒されて、戦慄して。……言葉では上手に言い表せないほどに、魅入ってしまいました。」


恥ずかしいな……本人を前にして。


「それから轟くんの事が凄く気になって。それで…………気持ち悪いのですが、轟くんが雄英に行くと知って、私も雄英のサポート科へ入りました。」


「えっ。」


「……すいません、本当に気持ち悪くて。」


あはは……と乾いた笑いを繰り返しながら、ベイビーから轟くんへ視線を移すと


「……い、いや…………気持ち悪ぃなんて……そんな……。」


真っ赤な顔でこちらから顔を背けた轟くん。


しかしながら背けてしまったが故に、真っ赤なお耳がこんにちはしちゃってて。それを見た私まで熱が伝染する。


「……嬉しい。お前の事魅了してたのは俺だったんだってわかって。」


「そ、……そうですか…………。」


「ありがとな、話してくれて。……本当に嬉しい。」


「う……あ…………なら、……良かったです……。」


顔が熱い。もう、恥ずかしいことこの上ない。轟くんはなんか嬉しそうに笑ってるけど、やっぱり話さなければ良かった。


「じゃあ工房で会う前から俺のことは知ってたんだな。」


「それは……はい、体育祭とか食い入るように轟くんを見てました。」


「ふふっ……そっか。」


「工房に現れた時は夢かと思いましたよ。」


「夢?」


「はい、轟くんに私が作ったサポートアイテム使ってもらうのが、夢みたいなものだったので。」


「ふふっ、なんだそれ。」


「本当ですよ!真面目に!!」


「……じゃあ叶ったんだな。」


「はい、でも次は新しい目標です。」


「…………次は?」


「轟くんを私の顧客にする事!」


「それも直に叶うな。」


「轟くんがさらっと別メーカーさんに行ってしまう可能性も考慮しての目標です。」


「……信用してねぇのか。」


「いやいや!!そういう訳では!!私の実力で轟くんを繋ぎ止めておこう!と言う目標ですので!!」


「……ずっといるよ、お前の隣に。」


するりと流れ込んだ甘い台詞がなんともお似合いな目の前の美形。


「…………轟くんは、もっと発言に気をつけるべきですよ。」


「は?」


「いつか死人が出そうですね……。」


真に受けていたら死んでいた、危ないところだった。

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