「う、麗日さんこんにちは……。」
「こ、こんにちは……どうしたん苗字さん!?すっごい疲れとるけど!!……もしや、私の前爆豪くんだったやろ!!」
バ……バレとるよ爆豪くん。
◇
「あはははははは!!!ば、爆豪くん!!まじ小姑!!」
「本当に……お母さんをも超えて小姑ですよ、爆豪くん。」
「まぁ苗字さんが働き過ぎ、って言うのを心配する気持ちもわからんでもないけどね。」
「そうですか?」
「うん、いつも仕事めっちゃ速いし。緊急事態だったら現場とか出張先まで来てくれて修理してくれるやん?中々そこまでしてくれる技術者さんおらんと思うよ。」
「そ、そうですかね……。」
「そうそう!それに私も含めて苗字さんのファン多いからさ。忙しいだろうなぁ、っていつも思っとる。」
「そんな事も無いですよ、毎日楽しくて仕方が無いです。」
「とか言ってご飯抜いて小姑に怒られてるやん。」
「うっ……。」
「あはははははは!!」
◇
麗日さんとの打ち合わせを終えて会議室を出ると、既に定時間際。
残業し過ぎ。と言われた手前残業していくのは中々……今日は打ち合わせの内容まとめたら帰ろうかな。
そう思って自分の席へつくとピコン。スマホに通知。
見ると3件のメッセージ。誰だろうと思って開けば爆豪くんと轟くん。
先に来ていた爆豪くんの方を開くと、なんとも細かく分かりやすくまとめられたレシピの画像が。
す、すげぇぇ…………爆豪くん自分で料理本出せるよこれ。あれだな、爆豪くんのお嫁さんになる人は自信を喪失しちゃうな。
そしてそのレシピの後に一言。
『作らなかったら殺す。』
物騒極まりない。作らなかったら、の対価が大き過ぎでは?
仕方ない……作って写真提出まで求められているもんだからやらなければ、とげんなりしながら今度は轟くんの方のメッセージを開く。
『今日何時に仕事終わるんだ?時間合うなら飯行かねぇか。』
よくこうして誘ってくれる轟くん。彼との時間は楽しいので大好きだ、なのでわーい!なんて気持ちで行く行く!と返事しようとしたが、
脳内を過ぎる小姑。
………………………………。
……………………殺されちゃうもんなぁ。
仕方ない、断るか……とフリック入力し始めた時にふと思いつく。
轟くんと一緒にやれば、1人で作るより楽しいのでは?と。
よし!!それだ!!そうしよう!!
「轟くん、一緒にご飯作りませんか?……と。」
送信。すると瞬時についた既読。こりゃ見張られてたな。
しかしながら返事は返って来ない。そうだよな、こんなお誘いしたの初めてだ。
『つくる。』
…………ひらがな。
びっくりし過ぎて変換し忘れちゃったのだろうか、でもまぁとにかく了承が出た。そうと決まれば待ち合わせ場所はスーパーに決まり!
私はダダダダっとパソコンへ打ち合わせ内容をまとめながら、初めて試みる共同作業へ思いを馳せた。
◇
「お待たせしました!」
「いや、そんな待ってねぇよ。」
すらっと伸びた手足。小さなお顔。帽子やマスクで隠していても隠しきれてない美形臭。
いつもの事だが、遠目に轟くんを認知するとあまり近づきたく無くなる。ただえさえ酷い顔が更に酷くなって綺麗な彼の引き立て役に躍り出てしまうから。
「でもなんでまた急に?お前自炊出来ねぇって言ってなかったか。」
「出来ません!けどそれ故にコンビニ弁当生活してた事やご飯食べたり抜いたりと言う生活をしてた事を怒られてしまって……。」
「誰に?」
…………………………まずい。
轟くんの前では爆豪くんの話はなんとなく避けてきた。
彼らが犬猿の仲、なんて事は無いと言うのはいつだったか。高校生の時に彼らが会話してるのを何度か見て察した。
しかしながら轟くんに爆豪くんの話をして、一度だけなんとも言えない気まずい空気が流れてしまったことがある。
見たことの無い顔や見たことの無い感情を轟くんからぶつけられて、少しだけ怖かったのだ。
だから、爆豪くんから怒られた。なんて出来れば言いたくない……。
「…………えっと……。」
「?」
「…………小姑に?」
ご飯を食べなさい、栄養が偏るから外食ばかりにするのを辞めなさい。優しく言い換えるとこんな感じのことを言っている小姑ヒーロー。
「小姑。………………お前、結婚してたのか。」
「え?」
何おかしなこと言って、と轟くんを見上げるとガタブル震えている。
「ん!!?轟くん!?大丈夫ですか!?」
「俺の……知らぬ間に…………誰と……?」
「けけ、結婚なんてしてませんよ!?」
「だってお前……小姑って…………。」
「あああああ!!!例え!!例えです!!それ程にみみっちぃ人って意味で!!」
これを爆豪くんに聞かれたら速攻爆破されるだろうな、なんてひやりとしながら誤解を解く。
「そ、それに!私が結婚したら轟くん知らない訳無いでしょう!?」
「………………そうだよな。」
ぴた。ガタブル震えていた轟くんが止まった。
「そうですよ!これだけ頻繁に会ってるのに知らない訳ないじゃないですか!」
「……そうだよな、うん。……悪い動揺した。」
「い、いえ……私も誤解を招くような言い方してすいません。」
「いや良いよ。……その小姑みてぇな人に怒られるから作らねぇといけないって事か?」
「そうなんです、しかも作ったら写真も撮って送れって言われてて。」
「みみっちぃな。」
「でしょう?」
ふはっ、と笑った轟くんが買い物カゴを持ってくれる。その中へと画像に記された食材をポイポイ入れていく。
「これはたぶん1人分だから……単純に2人分にしたら良いんですかね?」
「苗字2人分だと俺足りねぇ。」
「確かに!!じゃあ3人分?」
結構沢山になるな……轟くん重たくないかな、と彼を見ると逞しい腕でなんなく買い物カゴを提げている。うん大丈夫そうだ。彼はプロヒーローだし。
全ての食材を手に入れて、レジにてお会計。の、はず、が、
「何故ですか!?ここは仲良く折半を!!」
「お前の家に行かせて貰うんだ、俺が払うのが当然だろ。」
「どこの国の常識ですか!!」
うぎいい!!と抵抗するも虚しく、あっさり支払われてしまった買い物代。
「……ありがとうございます。」
「気にするな、たぶん俺の方が稼いでる。」
「それはたぶんじゃなく絶対ですよ。」
「そうなのか?」
歩合制のヒーロー社会。そんな中でも優秀なショートは日々多くの事件を解決している。
あれだけニュースに出まくるほどの活躍してれば、きっと月給計算すると…………うっ考えたくない。
その上で彼はメディア露出もする。雑誌に出たりテレビに出たり。コラボ商品なども売り出したりして。
そちらの給料も考えると………………私なんかとは比べてはいけないレベルだろう。……払ってもらってラッキーぐらいに考えるべきだろうか。
「ほら、行くぞ。」
「あ、荷物。」
「鍛えてるから大丈夫だ。」
やっぱり?と思いながら彼の手に下げられた買い物袋を眺めた。
ショートと買い物袋。…………新婚か?
そう考えて自分の顔が熱くなる、なんてことに気づくのはもう少し後のこと。