「すいません、狭い部屋ですが。」
「お邪魔します。」
「どうぞ!」
玄関の電気をつけて、彼を招く。
と言っても轟くんは何度かこの家に来ているので、勝手知ったる様子でリビングへと向かっていた。
「……模様替えしたのか?」
「はい!……と言ってもかなり前ですけど。」
「そうか……お前が酔いつぶれて運んできたの、かなり前になるのか。」
「その節は……大変申し訳ありませんでした……。」
思い出したくないエピソード、トップ10に入る内容。
かなり前、雄英高校の元A組の同窓会に途中参加という形で明ちゃんと共に呼ばれたのだ。
そしてなんとも懐かしい面々についつい楽しくなってしまって。強くもないのにお酒をどんどん流し込んで。
轟くんに心配されながら、お酒を取り上げられながらも飲み続けた結果。私はその場で寝た。そう、寝た。
そして起きたら自宅にいて、轟くんもいて。
やばいやばい、轟くんに送って貰ってしまった。もしかしたらそのままワンナイト的な!?い、いや、私は彼とそんな関係には……!!なんて有り得ない心配をしていた私。
勿論轟くんはそんな事するはずもなく。起きた私に水を飲ませて、再び寝かせて。朝になったら鍵を外からかけて、ポストに鍵を入れて帰っていた。
そんな紳士的対応の彼にときめかない女子なんておらず、もはや神々しくて拝んだのは恥ずかしい思い出だ。
「よし、轟くんやりましょう!」
「あぁ。」
「えっとまずは……。」
あくまで私たちが築いているのは健全なお友達という関係。
この関係が心地よくて、気持ち良くて。
…………でも、少しだけ寂しいのは私だけの秘密だ。
◇
「で、出来た!!!」
「出来たな。」
「出来ましたね!!」
見た目はそれなりにまずそうだが、使った調味料や材料はおかしくないし、分量もちゃんとこじゅう……爆豪くんの指示通り測ったし!!
「食べましょう!」
「おう。」
「いただきます!!」
「いただきます。」
2人で床に座り込んで、一人暮らしらしい小さな机に向かい合って箸を進める。
「……………………それなり!!」
「っふふ、それなりだな。」
「それなりですね、でも自炊初心者の私がそれなりの味を生み出せるなんて……凄いです、このレシピ。」
「だな。これ作ったやつすげぇな。」
小姑とか言ってすいません……爆豪くん…………って、
「あ!!」
「お、どうした。」
「写真撮らないといけないんでした!!」
「あ。」
危ない危ない。……食べかけだけど、良いかな……?
…………まぁ、いっか。
パシャリ、と撮って轟くんから見えないように爆豪くんへささっと送信する。
『それなりに美味しく出来ました!』
するとすぐに既読はついて、
『まずそう。』
酷い!!!
「どうした?呆然として。」
「……小姑にまずそう、って言われました。」
「手厳しいな。」
「本当に……この仕打ちを毎日……?耐えられる気がしません……。」
「……なぁ、たまには来てもいいか?」
「え?」
「一緒に作るの楽しかった。それに俺も料理勉強してぇから。」
駄目か?ときゅるるん。あざとく小首を傾げた轟くん。自分の顔の良さがわかってないな相変わらず。
「い、……良いに決まってます!!むしろ有難いぐらいですよ。たぶん1人じゃ続けられなくて殺されます。」
「殺される……!?」
「あっ。」
小姑がみみっちぃだけじゃなくて物騒な人だと言うこともバレてしまった。危ない。これ以上情報出すといつか爆豪くんだとバレてしまう。
「ひ、比喩ですよ!こちらこそ是非ともです!」
「…………でも、」
そっ、とテーブルの上に乗せていた手に重ねられる彼の手。
「俺以外の男、簡単に入れちゃ駄目だぞ。」
「……え?」
「男は狼って言うだろ。……危ねぇから。」
そう言うと食べ終わった食器を持って、キッチンへ向かった轟くん。
…………なら、轟くんは。
轟くんは、私なんかじゃ狼になってくれないのですか?
…………………………なんて。
何考えてるんだ、今更。
リビングから離れる彼の背中が、とてもとても遠く見えた。