ヒーローのヒーロー

「苗字さん!お電話です!」


「誰ですか!?」


「ダイナマイト!」


「…………回してください!」


ぐちゃぐちゃのデスクの上を適当に場所を作って、メモ紙と共に回された電話をとる。


「もしもし、お電話代わりました苗字です。」


『あー……今忙しいんかお前。』


「…………忙しいか暇かで言われれば、忙しいです!」


更に言ってしまえばかなり忙しい。色々な設計やら組み立ての確認やら重なってしまって。時間が無くて自分の体を複製して欲しいぐらいには忙しい。


『……なら後回しで良いわ。後でかけなおして』


「本当ですか?」


いつもより固い声色。少しだけ切羽詰まったように聞こえる。


「本当に後回ししても大丈夫な案件ですか?」


「緊急の案件ならば、隠さずにお教え下さい。隠した方が怒りますよ、爆豪くん。」


私の顧客は皆心優しい。だからいつもこちらの状況を気にしてくれる。


でもだからと言って、今やっている仕事が全て優先度高いなんて事は無い。


彼が今、本当に困っているのなら優先すべきは彼だ。


『……コスチュームの修理頼みてぇ。明日大規模なヴィラン掃討作戦に入ってる、出来るだけ早く直して欲しい。』


「……超緊急案件じゃないですか!!今どこにいます!?」


『家。』


「じゃあ今から行きますね!!」


『は?』


「爆豪くんの感覚で良いですので教えてください、完全に大破してますか?それとも部分的に壊れていますか?」


『……部分的だ。』


「なら良かったです!工具等々持って向かうので、最寄り駅までお迎えお願いしても良いですか?」


『は、ちょ、俺が持ってくから、』


「では!!」


受話器を置いて、工具やらなんやらを準備する。


本当なら会社へ持ってきて直すのが1番なのだが、納期が迫るサポートアイテムも多く、無理やり作業台を開けてもらうのは難しい。


それにこちらも急ぎの案件。私が行くだけで直せるならそれはそれで良い。


「部長!外出てきます!」


「おぉ、…………ってどこにだ。」


「ダイナマイトの元へ!」


「……そうか、行ってこい。」


「はい!ちょっくらヒーロー助けてきます!」





…………疲れた。


工具セット片手に駅まで歩いて電車に乗って。そろそろ腕がプルプルしてきた。


爆豪くんに到着した旨を連絡したけれど……。


「……おい。」


「ぅおっ!?」


突如聞こえた声に肩を跳ねさせながら振り返れば爆豪くん。


「……あんがとよ、わざわざ。」


「いえいえ!お気になさらず。こちらこそお家貸して頂けて感謝です。会社の方がバタバタしてて申し訳ない……。」


「仕方ねぇだろ、お前の会社有名だし。……ん。」


するりと奪われた工具セット。


「あ、」


「おら、さっさと行くぞ。」


いつもこんな感じなら爆豪くんも怖くないのに。そう思いながら歩いていたのがバレたのか、睨まれるまであと少し。





「ご、…………豪邸…………。」


「あ?別に普通だろ。」


どこの国の普通でしょうか…………?


ご立派なタワマンの1部屋。マンションに入った瞬間からお金の匂いがぷんぷんしてるのに、爆豪くんの部屋に入ったらくらくらした。なんじゃこの家。


確かヒーローは人気職業故にセキュリティ重視の自宅に住む、というのは聞いたことがあったが……セキュリティ重視すると豪邸になるのか……凄いな……。


……あれ?もしかして轟くんもこれぐらいの豪邸に住んでる…………?なのにあんな小さな私の部屋に呼んでしまった?……豚小屋だとでも思われたかな?


「おい、突っ立ってねぇで仕事しろ。」


「……はい!場所お借りしますね!」


駄目だ、彼らとは生きてる世界が違うんだ。年収的な意味で。張り合ったら虚しくなる一方だぞ。


爆豪くんが事前に作ってくれたスペースに、なんとも似合わぬブルーシートを敷いて、準備を進める。


「壊れた装備見せてください。」


「ん。」


渡された装備を見る、……うん。これなら持ってきた工具で充分足りる。


「この場で直せそうなので早速作業入りますね。」


「ん、わかった。」


そう言うと私の目の前に座り込んだ爆豪くん。


「………………ん?」


「あ?」


「えっと……すぐには直りませんよ?」


「んなもん知っとるわ。」


「じゃあ何して……?」


と聞いてから思い出したのは、学生時代。私が彼向けのベイビーを製作している際こうして見ていたこと。


「プロになってからお前が作業してんの見る機会無くなったから。」


「な、なるほど……。」


「気にせず始めろ。」


爆豪くんはわかっているのだろうか、大人になり自分の眼光の鋭さが更に上がっていること。


そしてその瞳から放たれる緊張感も尋常では無くなっていること。


………………うぅ、やりづらい。


しかしながら家主に向かってあっち行け、だなんて言える訳もなく。私は工具を手に取った。

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