君だけだ

「へぇ!じゃあ苗字さんのお父さんはサポート会社で発明をしてるんだね!!」


「そうなんです、なので幼い頃から機械弄りが好きでして!」


意外にも私の過去に食いついてきた皆さん、と緑谷くん。


「そういえば苗字は個性持ってるの?」


「あ、確かに!発目さんはなんか凄い遠くまで見える的な個性持っとったよね?」


「ズームですね!いえ、私は無個性ですよ。」


「えっ……。」


「無個性!?めっずらしいな!?」


「確かに、今どき8割が個性持ちって言うもんなぁ。」


「はい、私も身近な人で無個性の人はあまり見たこと無いです。……なので、中学の頃個性教育の授業は凄く嫌いでした。」


「………………そう、だよな。」


「なんか、ごめん……。」


凄く、凄く凄く嫌いだった。自分に無いものを見せつけられるだけの授業。


8割の人間に発現する個性。それを持たぬ自分を見せつけられて、苦しくない。わけが無い。


だから個性教育の授業だけは、いつも逃げたくなるような隠れたくなるような気持ちで受けていた。


…………中学3年の、あの時以外は。





「いえ!もう気にしていませんし、むしろ今は個性に興味津々です。いずれは多くのプロヒーローへサポートアイテムを開発出来るような人間になりたいので!」


そう言って笑った苗字さん。その笑顔は本物なのかな、なんて思ってしまうのは無個性の虚しさを知ってるからだろうか。


「……緑谷くん?」


「えっ、」


彼女の抱えた虚しさを理解出来ているのに。今となっては何も言えない自分に打ちのめされていると、顔を覗き込んできた苗字さん。


「大丈夫ですか?」


「え、あ、うん!!大丈夫!!」


「……無個性の事なら、本当に気遣わなくて大丈夫ですからね!私はもう、個性に嫌な気持ちなんて抱いてません。むしろ魅了されていますから!」


「魅了…………でも、中学の頃は個性の授業とか嫌いだったんだよね?」


「……はい、でも中学3年生の時とあるクラスメイトの個性に魅了されたんです。」


そう呟いた苗字さんは、噛み締めるようにして笑んだ。


魅了、それほどまでの個性……。


「それって、その個性ってどんな」


「苗字?」


「あっ!!轟くん!!」


聞こえた声に皆で振り返ると未だ髪を乾かしておらず、ぽたぽたと水滴を垂らした轟くんだった。


「何してんだ?ここA組の、」


「見てください!!改良したベイビーです!!」


「うぉ。」


ソファーから飛び起きて轟くんの目の前へと移動した苗字さんは、いつものような勢いで愛しのベイビーについて語っている。


「……なので、轟くんのコスチュームにも似合うようなビジュアルになったかと!」


「そっか……付けてみても良いか?」


「はい!」


そう言って両腕に渡されたバングルを装着した轟くんは、軽く腕を動かしてみたり、バングル自体を触れてみたりと感触を確かめる。


「変わったのは見た目のみになりますが、何か気になる点などありますか?」


「いや……ねぇ。ありがとな。」


「いえ!一応明日にでも再度使ってみてください!それで問題無ければパワーローダー先生にコスチューム変更の届出をお願いします!」


「あぁわかった。……もしかしてこれ渡すために待っててくれたのか?」


「はい!皆さんと楽しくお話してました!」


「うちらが誘ったんよ!苗字さんとは工房でしかほとんど話したこと無かったし!」


「確かにな……何話したんだ?」


「苗字の親父はサポート会社で開発してるとか!」


「あとは、個性の事とか?」


「個性?」


「はい、私無個性でして!皆さんにはお伝えした事無かったですので少々驚かせてしまいました。」


そう言って困ったように笑った苗字さん。


「無個性、なのか……。」


「はい、でも特に今は気にしてませんよ!私には可愛いベイビー達がいるので!」


「なぁなぁ苗字。」


「はい?」


くるりと振り返って上鳴くんに向き直った苗字さんは、首を傾げる。


「さっき言ってた、中3の時に魅了された個性ってどんなんだったの?」


「あ、確かに。気になる。」


「うちも気になった!!魅了されるほどの個性ってことはヒーロー向きの個性じゃないの!?」


彼に賛同していく耳郎さんと麗日さん。因みに僕も。


嫌い、から魅了。に人の感情を変えたほどの個性とは、どんなものなのか。物凄く気になる……!


「中3の時に魅了?」


「あー……はい、クラスメイトが魅せた個性で。それまでは個性教育の授業嫌いだったんですけど、その時だけは見ていて時間を忘れるほどだったんです。」


あははは……と恥ずかしそうに笑った苗字さんに対して、同じく気になる様子の轟くん。


「どんな個性だったんだ?」


「えっと……。」


しかし歯切れの悪い言葉を紡ぐばかりで、中々教えてくれない苗字さん。


「え?なに?人には言えないような個性なの!?」


「ち、違いますよ!?た、ただ……。」


「「「ただ?」」」


「………………し、失礼します!!」


「あっ!?」


「ちょっと!?」


「苗字ー!!?」


逃げ出すようにして寮を出て行ってしまった苗字さん、でも、どうして……。


去り際に見えた、赤。耳から首元まで赤く染め上げた彼女は脱兎のごとく逃げ出した。


恥ずかしい……?いやいや、どんな個性なんだ……逆に気になってしまうんだけどな……。

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