気になるあの子

「目が覚めたようだね。」


その言葉に起き上がると、隣から慌てたような声。


「あ、ま、まだ起き上がらないで轟くん!」


そう言いながら俺の腕に手を添える苗字。まだ治療中だったのか。


「わ、悪ぃ。」


慌てて謝りながら、その手元を眺める。


雄英に入り、何度も世話になった苗字の手。


くすぐったい様な感覚と共に、みるみるうちに血の滲んでいた傷口が塞がっていく。


「よし。……どう?まだ痛い?」


「いや、痛くねぇ。…………ありがとな、今日も。」


「いえいえ!」


にっこり。そう笑って苗字はいつもつけているグローブを身につけた。


「轟くん気絶してるし、外傷も多かったから血の気引いちゃったよ私。」


「……今日は爆豪との対人訓練だったからな、あいつ俺の事気に入らねぇみたいだし。」


それ故か、他の奴らよりずっと激しい戦闘訓練となってしまった。おそらく俺だけじゃなくて爆豪も怪我を負ったはずなんだが。


「2人とも攻撃力高すぎだよ……爆豪くんもボロボロでここに運ばれてきたけど、リカバリーガールの治癒と私が治療してる途中で起きてすぐに帰っちゃった……まだ治しきれてなかったのに。」


そう言って悲しそうに呟く苗字。


「…………怪我治すの、好きなのか?」


「………………え?」


「あ、いや。…………いつも治させてくれって言うから。」


訓練後に大抵怪我を負った人は苗字に治してもらう。しかし、この程度は大丈夫だ。というレベルでも苗字は治したがる。


「あ、……ご、ごめん。迷惑だったかな、」


「いや、違ぇよ。単純に気になっただけだ。」


「そ、そっか。…………うん、治すのは好きだよ。痛いままでいて欲しくない。…………痛みを無くす個性でありたい。」


そう呟いた苗字は、どこか遠くを見ているようで。俺に対しての返事だったのか、それとも。





「苗字さんの個性?」


「あぁ。」


「怪我を治す個性、……じゃないのかな?リカバリーガールみたいな。」


「…………だと俺も思ってたんだが、」


この間聞いた言葉。痛みを無くす個性でありたい。その言葉が引っかかって、考えてもわからず緑谷に聞いてみた訳だが。


「痛みを無くす個性でありたい、…………それってその使い方以外にもあるって事?」


「可能性としてはありそうだなと思った、だが本人に聞くのは…………何か隠したがっているような気がして。」


本当に、気がするだけかもしれねぇ。だが、あの日のどこか遠くを見ている苗字は、なんだかそれ以上聞いて欲しく無さそうで。


「深追いして嫌な思いさせるぐらいなら、辞めとこうと思ったんだが……気になっちまって。」


「確かにそれは気になるね…………とは言ってもたぶんクラスの皆も苗字さんの個性は治癒でしかないと思ってるけど……。」


「…………なぁ、一般入試ってロボットとの戦闘だったんだろ?」


「えっ?あ、うん。そうだけど……?」


あいつは一般入試での入学者。ならば、


「誰かあいつが戦ってるの見てねぇのか?いくらか倒してねぇと合格にはならねぇだろ?」


あの個性でロボットを倒すことは出来ねぇだろ。ならば、どうやって。


恐らくそれがまだ知らない個性に繋がると思って聞いたが、なんとなく目を泳がせている緑谷。


「……どうした。」


「あ、……えっとね……実は、ロボット倒すポイントと…………人を助けるポイント。2つあったんだ。だから苗字さんの個性ならピンチの人を助けることでポイント獲得出来たんじゃないかな……?」


「………………………………そうだったのか。」


「うん…………ごめん、期待してた内容じゃなくて。」


「いや、緑谷は何も悪くねぇだろ。」


そう言いつつ、正直期待していたので落胆した。


そうか、それで入学は…………体育祭は予想通りと言うか、特に目立った活躍は無かったのだ。だから俺も治療が個性なのだと。


本人に聞けば解決する事だが、…………今まで何度も助けてもらったのに、嫌な思いはさせたくない。


でも気になるものは気になる。ならば、どうする。


入学してから数ヶ月。この日から苗字を目で追い続ける日々が始まった。

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